106 再びPVPの話
ツイナの戦闘力を確かめようと、イビスの東門を出て森の奥に行ったんだ。
魔法なしでって言っといたら、出てきたリンルフの頭をかみ砕いて終了だったよ。
魔法ありだと、雷が一条ドカンと落ちてリンルフが真っ黒焦げになった……。
雷魔法怖いわ!
「おーし、気を取り直してヘーロン行くぞー!」
「がう」「メエ」
「ぴいっ」
「ハイ」
ぽよよん
しかしペットが多くなったなあ。
これ以上増えていって、1PTに収まりきらなくなったらどうなるのかねえ。
リアルで生き物が飼えないぶん、ペットを集めるのが楽しい。
隊列が俺、ツイナ(の上にアレキサンダー)、グリース、シラヒメである。
街道を通らずにそのまま森の中を突っ切って、アナイスさん宅へ直行した。
ツイナを見せると「ほほう。こんなのになったのねー。よーしよしよし」たてがみをわっしゃわっしゃと撫でていた。
撫ですぎて途中からツイナが嫌がって離れちゃったけど。
「アナイスさん、雷魔法込めましたね?」
「あ、分かった? 前提を経由しないから風魔法は使えないとおもうけどね。先生にも込めてもらったんでしょ」
「ええまあ、火魔法を。あとは自分で」
「ここまで魔法特化になる子も珍しいかもしれないわね。場所にもよるけど、ペットを嫌う人たちもいるから気を付けるのよ」
「はい。ありがとうございます」
アナイスさんがペット全員を撫でてからそこを離れた。
空いてたらこの面子でリングベア殴って、ヘーロンまで進んでから今日は終わりにするか。
街道に出てから東へ進み、リングベア待ちのPTが待機している辺りに着くと、何やら騒がしい。
本来ならば短い列ができている所に20人くらいが固まって揉めているようだ。
「順番を守れって言ってるんだ!」
「ああん。先輩方はもう何回も熊とやっているんだろ? だったら初心者に譲ってくれるのが大人ってもんじゃん」
「大人とか子供とかという問題じゃねーだろ!」
「列ができてるんだから順番制なのは見たら分かるじゃねーか!」
「だから初心者のためにそこを譲ってくれんのが、先輩の役目だろ?」
「そんな理屈が通ると思ってんのか!」
「後輩ってつければいいってもんじゃねーぞ!」
揉めてる揉めてる。
列の割り込みに総スカンくらってるのが第2陣かなあ。
適当に言いわけして正当化しようってつもりかねえ。
ちょっと離れた所には、列の最後尾だと思われる場所にいる1PTが、迷惑そうに揉めてる集団を眺めていた。
揉めてる固まりの端っこにいるプレイヤーに「なんの騒ぎ?」って聞いてみた。
「ああ、あいつらが割り込んで難癖つけてんだ、……って、ビギナーさん!?」
「そうだけど?」
人の顔見て驚かないでくれないかなあ。その他の人たちが一斉に振り向いて、顔をひきつらせてるじゃないか。
揉め事の中心にいた第2陣のリーダーぽいのは「へえ」って口元歪ませてるけど。嫌な予感しかしねえ。
「アンタがみんなにちやほやされてるビギナーさんってのか。へえ?」
人の顔をじろじろ見てニヤリと笑わないでくれないかねえ。
見たところPTの構成は戦士3人に盗賊と魔術士と神官の6人のようだ。全員が自分が優位に立ってるような濁った目付きで、へらへら笑ってやがる。
魔術士だけは女性みたいだが、そっちも態度は上から目線だな。
こりゃリングベアは諦めるか。見るからに粘着質みたいだし。
俺はこっちに嫌な目線を送ってくる奴等の向こうで、どうしようかと戸惑っているPTに手を振って先に行けと促した。
当然手前の奴等もそれに気付く。
「あ、おいっ! 勝手なことすんじゃねーよ!」
「テメエ!」
「あー、行け行け。こっちは押し留めておくから」
「すまん! 感謝するぜ!」
1PTがリングベア戦のエリア内に消えると、第2陣と思われるPTは激昂し始めた。
「ざけんじゃねーぞ!」
「弱っちいビギナーの癖に!」
「ぶっ殺してやる!」
そして俺の前にいきなりPVPを受けるか否かのウィンドウが展開された。
「は、PVP?」
「「「「「「げえっ!?」」」」」」
俺の声に顔を青くしたのは、揉めていたもう1つのPTだ。
「バッカお前らっ! この人にPVPをしかけるのは止めろ!」
「掲示板の注意事項とか見てねえのかよ!」
「トラウマになる前に謝るんだ!」
「はあっ!?」
戸惑うだろうな、そりゃ。
今の今まで揉めていた相手から真剣な表情で警告を受ければ。
列待ちで眺めていた連中なんかもう逃げたあとで、イビスの方角に走っていく背中が見えるくらい遠くなってる。
一応、こちらからも警告はしておくか。
「あー。君たち、考え直す気はありませんかー?」
「ふざけてんのかテメエ!」
「土下座させてから踏みつけてやるから覚悟しろや!」
いかん。どうやら丁寧語が相手の怒りを誘ったようだ。
俺が選択のYを押して相手も戦闘態勢に入った。それを見るなり警告を発していたPTは、泡をくって逃げ出す。
「ツイナ、味方に当てんなよ」
「がう!」「メエッ!」
基本、指示は出さなくてもアレキサンダーたちはいい具合いに動くからな。
相手の口火を切った戦士が1歩踏み出したところにアースポットをかける。
魔法名を口に出さないと威力が落ちるが、片足を沈み込ませるならばそれで充分だ。
コケかけたそいつを踏み台にして跳躍し、俺は真っ先に後衛の神官と魔術士を狙う。
俺の跳躍を棒立ちで眺めていた戦士他2名は、シラヒメのベタベタ網をまともにくらっている。アホだ。
踏み台にしたやつは真っ正面からアレキサンダーの火炎放射をくらい、火柱と化して「ギャアアアアアッ!? アヅイイィ!? アヅイイイイ!!」と転げ回って絶叫中だ。
その絶叫と火の熱を感じとった盗賊が茫然としている。
やっぱりPVPの画面をよく見てなかったろう、お前ら。
俺は神官の両目に抜き手を放つ。視界を奪ってしまえば回復対象も選択できまい。
こっちも「イギャアアアッ!?」と五月蝿いが、眼窩を掴んだまま神官を引き摺って盗賊に投げつけた。
魔術士が何かを言おうとしたところで口に手を入れ、舌を引っぱり出す。
【闘気】で威力を増した膝蹴りを魔術士の顎にぶち当てる。これで自分で舌を咬み千切ったことになるだろう。
血があふれ出る口を押さえて半狂乱になっている魔術士を、網に絡まってもがいている戦士2人に蹴り飛ばした。
血を見ただけで顔面蒼白になるとか、メンタル弱すぎだろう。
医療教習を受けてないみたいだが、どこの地域の人間だよ。
「こ、降参、降参するから、助けて」と呟いてる盗賊にグリース蛇が咬みついた。
みるみるうちに顔色が青紫色に変わって、泡を吹いて倒れる。
鑑定がないからよく分からんが、腐蝕毒は人体だとどういう表示になってんだろうか。
毒だから継続ダメージでそのうち死ぬだろうけどな。
網に捕らえられた戦士の1人は、茫然としたままツイナに喉を咬み切られる。
もう1人は俺のブレイブバースト(上下真っ二つ)の標的になった。
魔術士は何時の間にか消えていたので、たぶん出血死したんだろう。
蹲って震えていた神官はアレキサンダーの火炎放射と、ツイナの雷撃で終わったようだ。すぐに消えていった。
戦意喪失したらあっけなかったなあ。
6人もいた割りには、スフィンクスより歯ごたえがないとか弱すぎる。
始めたばっかりの第2陣だとあんなものなのか?
そういえば条件は聞いてなかったが、なんだったのやら。PVP画面から確認するとお金とアイテム全譲渡だった。
別に今は困ってないので、受け取りは拒否しておく。
「やる気なくなったなあ。お前たちはリングベアと遣りあうか?」
全員首を横に振ったので、ヘーロンに直行して宿屋でログアウトした。
そういえば、純義に会うのすっかり忘れてたぞ。
本日までのステータス。
名前:ナナシ
種族:人間
職業:ビギナーLv.20
SP:26
所有スキル:
【鉄拳Lv.4】(【格闘Lv.50】)【投擲Lv.34】
【蹴りLv.28】【剣Lv.1】
【急所攻撃Lv.45】【カウンターLv.40】
【闘気】
【死霊術Lv.12】【水魔法Lv.3】【土魔法Lv.6】
【生活魔法】【大地魔術】
【観察Lv.45】【気配察知Lv.31】
【忍び足Lv.13】【軽業Lv.40】【隠れるLv.4】
【水泳】【潜水】【登攀】
【料理長Lv.2】(【料理Lv.50】)
【調合Lv.18】【大工Lv.7】【裁縫】
【植物知識】【鉱物知識】【アイテム知識】
【毒耐性】【暗視】
【解体】
ユニークスキル:【城落としLv.5】
称号:
【後先考えぬ者】【スライムの友】【アラクネの友】
【草を食む者】【闇を歩む者】【強奪者】
【料理人】【半魚人】
【ネッツアーの加護】【マルクトの祝福】【ゲヴラーの関心】
【スフィンクスに認められし者】
ペット
名前:アレキサンダー
種族:エルダーレッドスライムLv.5
名前:シラヒメ
種族:アラクネLv.3
名前:グリース
種族:コカトリス(雛)Lv.19
名前:ツイナ
種族:キマイラLv.5
ちいさな重要事項を混ぜ。




