104 3人目と雑談の話
忽然と現れた人物は見た目や服装こそその辺に居る村人のようだが、この感じはプレイヤーだろう。
エトワール側は完全に戦闘態勢で、武器を構えてそのプレイヤーを囲んでいる。
俺は別に敵意を感じていないから傍観している。アレキサンダーたちも俺の周りでソイツを警戒するくらいだ。
そのプレイヤーは女性4人が殺気立ってるのに気付くと、小さな白旗を取り出して振り始めた。
「待って待って! プレイヤーだから! 敵対する気はないから! 暴力反対!」
「せめて男なら抵抗する気概すら持たないんですか?」
「しないよっ!?」
律儀にアルヘナの呟きに突っ込みいれんでも。
その対応でツィーさんたちも敵対意思がないと認識したらしく、武器を下ろした。
そして始まる質問会という名の取り調べ。正座させられて、腕組みした3人に囲まれている。
ダメだろ、あれ
「こらこら。特に害があった訳じゃないんだから、査問会みたいなのはやめておけ」
「ああ、つい。エニフがいると大抵こんな感じの裁判が始まるんで」
「相変わらず怖いファンクラブだなあ」
「あれは教祖と熱心な狂信者というのよ! って言うか、ナナシも人のこと言えないでしょうが!」
「同類過ぎる」
とか言われても、その信者自体に遭遇したこともなければ活動を目の当たりにした覚えもないので、なんとも言えないんだが。
「一応自己紹介から行こうぜ。俺はナナシ。こっちは俺のペットで赤いのがアレキサンダーで、アラクネがシラヒメ。ヒヨコがグリースだ」
「あー。クランエトワールのクランリーダーのツィーね」
「同じく、クランエトワールのアニエラよ」
「同じく、デネボラ」
「同じく、エトワール所属のアルヘナです。そこのナナシの妹です」
そこのは酷くないかね。翠さんや。
周囲から「で?」という疑問を投げ掛けられたそのプレイヤーは、少し悩んだ末に自己紹介を始めた。
「ええとオールオールです。プレイヤーです。『ダンジョンマスター』ですけど苛めないでください!」
「「「「え?」」」」
「は?」
「ちょっと聞き捨てならないわね! 私たちが誰彼構わず暴力を振るうと思うわけ?」
「そこは同意するね。私たちをそんな人物だと思わないで欲しい」
「PK扱いをされるのはさすがに怒る」
「え? いえ、『ダンジョンマスター』なんですが。てっきり忌避されるものとばかり……」
「いや何言ってるか分からないんですけど?」
「え、ですから『ダンJ……』」
「ストップストップ! そっから先は言っても聞こえねえよ。アルヘナ、俺の同類だ」
「あー、それでですか。道理で文章がおかしいと思いました」
何か違和感があると思ったら、ユニークスキルだったか。
レンブンにちょっとだけ聞いたことのある最後の同類がこのプレイヤーってことだな。
俺はオールオールをドームの端っこまで引っ張って行く。
「ちょっ、なんですかなんですか!? カツアゲされてもお金なんかありませんよ!」
「カツアゲがなんなのかは知らんが落ち着け。お前の言う『ダンジョンマスター』はユニークスキルだろう?」
「え? はいそうですけど」
「ユニークスキルは他のプレイヤーに言っても聞こえないんだよ」
「え!? そうなんですか! でもナナシさんは聞こえてるみたいですけど?」
「俺もユニークスキル持ちだからだ。スキル名は城落とし」
「城!?」
表情がころころ変わって、青くなったり赤くなったり忙しい奴だなあ。小心者っぽいし。
聞いてみたところ『ダンジョンマスター』に戦闘能力は無く、ゲーム開始時からイビスを彷徨い歩いてこの地下道に落ち着いたんだそうな。
不憫な……。
「あの鐘は外したらダメなのか?」
「申し訳ないのですが狂喜の神様との契約で、あの鐘でここから先の通路から溢れる魔物を封印しているんです」
「狂喜の神が? なるほど」
だったら狂喜の神の教会から持ち出された理由が解る。
このためか。それだと返却は無理そうだな。
オールオールにちょっとだけ聞くと、ダンジョンマスターというスキルはまず、どこかの穴蔵を占拠してダンジョン化させなければならないそうだ。
そこからは侵入者によってポイントが溜まり、それを経験値としてレベルがあがるそうな。
よく分からないがスキルと職業レベルがダンジョンマスターで1本化されていて、他のスキルは4つほどしか持ってないらしい。
さわりを聞いただけだが、ビギナーより過酷な職業があったとは驚きだ。
「つーか、こんなところに入ってくる奴なんかいるのか?」
「たまに神様の方で罪人とかを回してもらっています。あとは小動物とかですね」
「難儀だなあ」
よくゲーム続けられるなあ、と感心してしまう。
普通こんな境遇になったら作り直すとかするだろう。
とりあえずエトワール側にも説明を入れる。オールオールに許可を貰ってからだが。
俺が『ダンジョンマスター』と言ってもプレイヤーには聞き取れないので、神様の認可を得て地下道を管理している存在だと言っておいた。
それもそれで妙な言い訳の仕方だが、アニエラさんも渋々頷いてくれたからいいか。
「神の管理している地下道だと入るのはマズくないですか?」
「プレイヤーが入ったらなんか問題があるのか?」
ツィーさんが『神様』って部分をやたらと気にしているので、オールオールに聞いてみた。
「レベルの低いダンジョンだから出てもラージラットくらいだけど」
「ラージラットってそれなりに強いモンスターじゃない!」
「ラージモールなら解るんだが」
「あんなウネウネよく相手できるね。さすが音に聞こえたビギナーさんだ」
「そう言えば兄さん、今何レベルですか。私は盗賊の28ですけども」
「さすがに高いなあ。こっちはまだ18しかないぞ」
「「「「低っ!?」」」」
4人とも目を丸くして驚愕してしまった。
悪かったな低くて。こっちは常に経験値が4分の1になってんだからしょーがねえだろう。
オールオールも24レベルあるそうだ。申し訳なさそうに頭下げんでもいいから。
「よくそれで砂漠で戦えるわね!」
「先のピラミッドの戦闘とか平気だった?」
「元の戦闘経験と称号のボーナスとかのお陰だな。場所を限定すれば攻撃力が倍以上になるぜ」
主に夜とか大地の上とかだけど。
アルヘナも「あー」とか言って遠い目をするな。お前を直接ぶっとばした覚えはないぞ。
「なんだか凄そうだね」
「称号ってそんなに貰えないでしょう? 兄さん、どんだけはっちゃけてんですか……」
「12個もあったら多いのか」
「「「「ええええっ!?」」」」
「普通はそんなにない、はず」
今度は4人のハウリングが響き渡った。上の鐘で増幅されてやたらと響いた気がするぞ。
その後は称号の取得方法とかを執拗に尋ねられたが、「はっちゃければいいんじゃね?」で通した。大体俺にも取得方法がよく判らんのだし。
まず、毒草を食えばいいと思うよ。
オールオールがあんまりダンジョンの中枢を離れられないらしく、一旦そこで別れた。
なんだかんだで雑談でそこに1時間くらい居たが、ダンジョンの方にはそれなりのポイントが入ったらしい。オールオールは凄く喜んでいた。
この場所のことは人に教えても良いとオールオールに言われたが、ツィーたちは秘匿するそうだ。
「こんな所、嵐絶とかに知られたら酷いことになるわよ!」
「あー、そうな……」
ジョンさんたちなら聞いたら即、突撃してきそうだな。
なんだか実入りがそれほどなかったので、その後はエトワールに付き合ってイビス北門側のダンジョンで暴れまわった。
ふははは。レッドカウの牛肉を手に入れたぞ!
後で見返してみたらデネボラが空気になってた(書き忘れた)。
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