101 鐘を突ついて虎が出る話
そろそろ主人公にテコいれせんと……。
もしかしたら教義を曲解した奴等が、邪神じみた儀式のために鐘を持って行ったというのは考えすぎなんだろうな。たぶん。
そして再び廃虚区画である。
この辺りを探すにしても、何処を探したらいいものか。
ぶらぶらぞろぞろと歩いていると、見覚えのある子供たちが朽ち掛けた建物で遊んでいた。
「くおらあああっ! お前たちいいいっ!」
「「「うわああああっ!?」」」
俺が怒鳴ったら、アランたちは頭抱えてうずくまってしまう。
アレキサンダーだけはぽよよんぽよよんと跳ねて、アランたちへ近寄っていった。
「な、なんだナナシの兄ちゃんかよ。びっくりさせんなよ!」
「この辺で遊ぶなって言われてんだろ。今度親に知られたら、家から出して貰えなくなるぞ」
顔を上げて俺だと確認したら、アランたちは座り込んで文句を言って来る。
前にも言ったことを指摘してやると、バツが悪そうな表情で俯いてしまう。
そこへアレキサンダーがぽよよーんと突撃した。
「ぶわっ!? なんだこのでっかいのっ!」
「育ったアレキサンダーだ。思う存分味わうがいい」
「「「ええーっ!」」」
アランたちに天然の羽毛ベッドみたいなぷわぷわ具合をたっぷり堪能させてやったぜ。
ほとんどアレキサンダーの突進に負けて、地面とサンドイッチにされていたが。
ただの押しくらまんじゅうだと勘違いしたグリースも混ざったので、子供たちはすっかりマウントを取られっぱなしだ。
散々じゃれ合って満足したアレキサンダーからアランたちを助け出し、おやつ代りにサンドリザードの唐揚げを分けてやる。
「これ旨いね」
「サンドリザードの唐揚げだからな。たんとお食べ」
モンスター名を聞いて「聞いたことないんだけど……」と戸惑うアランたちに「美味しいは正義」と言って封殺する。お土産に幾つか包んでやろう。
「ところで兄ちゃんはこんな所でなにやってんだ?」
「鐘探しかな」
「かね?」
「あっちにある教会の鐘な」
「ああ~」
指差して説明すると、教会のことは子供でも知ってるらしい。手を叩いて納得している。
「俺たちが知ってる限り、あそこには鐘ないぜ」
「ソウナンデスカ……」
「「うわ喋った!?」」
しょんぼりしたシラヒメの呟きに、アランたちがびっくりしている。
どうやら喋れないと思っていたようだ。
「ご、ごめん」「イイエ」と、シラヒメのご機嫌うかがいをする子供たち。見た目は似たような年格好だが、シラヒメはまだゲーム内生後2ヶ月くらいだからな。
そう考えるとレベルの恩恵はすげえ。
暫く子供たちとシラヒメの交流を眺めていたら「そう言えば」とアランが切り出してきた。
「前にここら辺に住んでたじーさんに聞いたんだけどさ」
「廃虚に?」
「うん」
ファンタジー世界にもホームレスは居るようだ。街中なだけにまだ安全なんだろうが。
もしかしたら骨格標本だったのがそのジイサンか?
「古い地下道にデカイ荷物を運んだことがあるんだってさ」
「荷物?」
アランの話を要約すると、この廃虚の中でじーさんが1人で住んでいた。
そのじーさんは生きてく(主に酒)ために小金になる仕事を何でも受けた。
酒が入ると酔っぱらってクダを巻き、自分がやった仕事をすみからすみまでベラベラと喋った。
ということらしい。
その古い地下道が怪しいなあ。
荷物云々も気になるけど、じーさん1人で運べるって意味じゃなさそうだ。
アランもさすがに古い地下道が何処にあるか、までは聞いてないそうだ。
その後は唐揚げを入れた紙袋をお土産に渡して、アランたちを廃虚区画から送り出した。
ここにいるのが知れたら、今度は俺が道具屋の魔女のおばあさんにぶちぶち言われるからな。
「さて何処にあるんだか分からない古い地下道をどうやって探すかなあ」
アレキサンダーたちは地面を探すようなスキルは持ってないから、土魔法とマルクトの称号でどうにかならんかな。
地面に手を着けて集中する。半分は神頼みだ。
大地と獣の神であるマルクトに「大地のことを教えて下さい」と念じながら、土魔法で地面に干渉出来ないか試行錯誤してみる。
土魔法の説明によれば、土が露出していないと使えない魔法が多いようだ。
俺の地面に対しての干渉力は称号のお陰で他の人より10%も強いはず。
じわじわと俺を中心とした地面の下へ探査の芽を広げていく。
イメージは水滴が地面の中へ染み込んでく奴だ。途中で途切れたので、植物が根を伸ばしていくイメージに変える。
水、根、微生物など色々なものを使って探れないかと試していたら、脳内にポーンという音が鳴った。
途端に俺の周囲が真っ白な空間に変わり、目を瞑っているのに目の前にサーベルライオンが立っているという光景が見える、ワケわからん状態に。
なんだこれ、というか何でマルクト神が?
『やあ、久しぶりだね童くん。君があまりにも熱心に大地のことを知りたがるようなので、お兄さん感動したよ』
「……」
口を開こうとするが喋れない。なんだこりゃ?
『君の熱意に感謝を捧げよう。汝に祝福を! 大地は君のことを歓迎するよ。獣は君に親愛を! この世界を楽しみたまえ!』
言いたいことだけ言ってマルクト神は消えた。何しに出てきたんだアレは……?
「ぴいっ!」
「オトウサマ!」
「あん?」
目を開けるとアレキサンダーとグリースとシラヒメに囲まれていた。
アレキサンダーとグリースはぐりぐりと体を擦り付けてきているし、シラヒメは俺の腕を掴んで体を揺らしている。
俺はさっきと同じく片膝立ちで、手を地面に着けている状態のままだ。
「なんだなんだ?」
「オトウサマ、固マッテイマシタ」
「ぴぴぴーっ!」
ぽよぽよ
「なんだと。マルクトに会ってたからか?」
「マルクト?」
「ぴぃ?」
ぽよよん
3人とも首を傾げている。アレキサンダーに首はないけれどな。
マルクトが言ってたことが気になったので、ステータスを開いて称号を確認してみた。
案の定【マルクトの興味】が祝福に変化していた。
☆【マルクトの祝福】
大地と獣の神マルクトの祝福。
大地と獣に対する行動に関して25%の効果UP。(種族⬛⬛により効果5%増加)
…………見なかったことにしよう。という訳にはいかないんだろうな、やっぱり。
この見えない部分はあれか、前にバグで削除されたって奴か。削除されたんじゃなくて隠しステータスかなんかになってたのか。
他にもスキルに【大地魔術】とか増えてんだけど。レベル無しで攻撃系のスキルじゃなさそうだ。ワケわからん。
この状態で地下の様子を探ってみようと地面に手を着いたら、俺を中心に魔法陣のようなものが展開された。
そして地下のことが手に取るように解る。例えて言うなら3D解析図に直したもののような。
大体今の状態で直径10m×縦100mくらいの円筒形でしか解らん。範囲を広げようと思ったら「MPが足りません」と表示されている。どうもMPは最初に消費され、30分程持続するようだ。
このまま歩き回って古い地下道らしきものを探せればいいなあ。
100話以上の編集ページって違うんですねえ。
誤字報告してくれた方、ありがとうございます!




