100 鐘を探す話
はてさて、鐘の行方だが実際のところが解らないからほとんど当てずっぽうだ。
1、普通に落ちた。
その辺に転がっていたら、さっきの神父さんが拾っているはずだ。
教会の中には物が少なかったので、何処かに保管してあるかどうかまでは分からない。
2、盗まれた。
これはもう探すだけ無駄である。これには「盗まれて鋳溶かされて売られた」も含まれる。
ただこれにはここの教義に反発しているどこかの教会側の嫌がらせもあるかもしれない。
動機がよくわからん上に隠してあるかもしれないので、1番行方が不鮮明である。
3、元々無かった。
この辺にまだまともな街並みが広がっていた時には機能していたが、廃虚になる前に別に移されたため無い。
なんだかんだ言ってもアレキサンダーたちが動いてるのに、俺が考察だけしてるわけにもいかん。
教会の周囲でも探してみるかと思ったら、紙袋を抱えた牧師のおじいさんがやって来るのが見えた。
「おや」
「どうも。一応終わりました。問題がないかチェックして頂けますか」
「早いですねえ。数日掛かると仰っていませんでしたか?」
「あー、すみません。うちのペットたちに手伝ってもらったら半分以下の時間で終わりました」
「いえいえ、謝って頂かなくても結構ですよ。早い仕事はそれだけで好感がもたれますからね」
補修箇所を見て貰うついでに鐘のことについても尋ねてみた。
「鐘ですか?」
「ええ、はい。うちのペットたちが凄い気にしていたんで」
「ああ、折角探して頂いてるところ申し訳ありませんが、あれはずいぶん前からありませんでした。私がここに赴任した時にはもう無かったですね」
「そうでしたか、分かりました。では補修はそれで大丈夫ですか?」
「ええ、こんなに綺麗に仕上げて頂けてありがたいことです。ホクマー神殿の方にはこちらから伝えておきますね」
「あとこれは皆様に」と抱えていた紙袋をくれた。お礼を言って牧師のおじいさんと別れる。
紙袋の中身は小さいリンゴがいっぱい入っていた。
しかし、3だったか。どうしようかな。
アレキサンダーたちを呼び集めて、均等になるようにリンゴを分けてやる。
おやつ代りに食べながら鐘のことを教えてやろう。
「……という訳で鐘は最初から無いんだってさ」
「ソウナンデスカ」
シラヒメは残念そうだ。
アレキサンダーはリンゴを取り込んでから、サイコロ状に裁断して吐き出してグリースに与えている。お前も面倒見が良くなったなあ。
グリースも頑張ればそのまま丸呑みできそうだ。
シラヒメはやはり蜘蛛側で食ってるな。
リンゴは満腹度5%なので最大20個まで食えることになるけど、3個も食ったらもういいかな。
また後日分に回そう。
おやつタイム後は市場行って食材を買い足し、商業ギルド行って思う存分料理を作った。
サンドリザードの肉が多すぎる。まとめて全部ガーリック唐揚げにしてやった。それでも余ってるけど。
たらい(神器)に入れておいたポーションは「聖水:汚染された物を浄化出来る聖属性ポーション(下級)」となっていた。
試しに1本をギルドの売買カウンターに持って行ったら、7万で買ってくれた。
なにこれたけえ。
ええとあとやってないのは……。
そうそう! 食器とか鍋とかもっと買っておかなくては。
取り分け用の小皿だけでも多目に。大容量の寸胴鍋も必要だ。あとスプーンやフォーク。野外調理用のテーブル。椅子もあった方がいいか。
固形燃料はないか聞いてみたら、普通にイビスの道具屋で取り扱っていた。
異方人で買うのは俺が初めてなんだそうな。
馬車を引くデカイ亀の乾燥糞らしいが、まとめて購入する。
課金増量したインベントリが、またいっぱいになりそうな勢いで買い物をしてしまった。
商業ギルドで鐘のことを聞いてみたら、競売に出た覚えはないそうだ。
なので鍛冶屋に行って聞いてみる。
「すみませーん!」
「オウ、どうした坊主。剣が必要なようには見えねえが、なんか打つのか?」
上半身タンクトップで筋肉が凄いドワーフのおじさんが出てきた。
人当たりがよさそうだ。
「鍛冶屋って鐘は作りますか?」
「鐘ぇ?」
「ええと教会の上にぶら下がっているような鐘です」
「なんだ、教会の使い走りしてんのか坊主?」
「教会とは関係ないんですけど」
「教会と関係なしで鐘が欲しいだぁ? 何の神様を信仰するんだか知らねえが止めといた方がいいぞ」
「へ?」
話が妙な方向で平行線だったんでよくよく話を聞いてみると、鐘は教会の領分らしい。
新しく教会をつくるために、教会の上層部から製作許可が出されて、鍛冶屋に話が行き、信仰神ごとに鐘の形状がちょっとずつ違ってるとのこと。
つまり個人で鐘を作るのは常識的にありえないそうだ。なんだそれめんどくさいなあ。
鐘が欲しければ自分で鍛冶スキル取って作れというのか。
しかしシラヒメがなんか気にしてるというところが、イベントかクエストの予感がしないでもない。
途中で図書館に寄り、修繕した教会はどこの神様かシンボルを調べたら狂喜の神というらしい。
別名喜怒哀楽の神。
狂ったように喜んで怒って悲しんで楽しめという教義なんだと。享楽的な生贄の儀式みたいじゃね。邪神にぎりぎりセウトみたいな神様だな。大丈夫なんかあの教会……。
しかしあそこを修理しろと言ってきたのホクマー神殿からだしなあ。
法の神が目を付けたって意味じゃないよな?
祝! 100話!
初めてこんなに書きましたわ。
 




