蚊
ほんの少しだけ、網戸が開いていた。
それに気付かずそのままにしていたら、いつの間にか腕に蚊がとまっていた。
叩き潰そうと手を上げて、ふと蚊というのは女であったなと思った。蚊は満足そうに飛び立っていった。
しかし一体どこから入ってきたのだろう。
網戸の方へ目をやると、ほんの少しだけ開いていた。苦笑して立ち上がると、隣で寝ている妻が寝返りをうった。
その白い首筋に蚊が……。
私は網戸を閉めるということも忘れて、それにしばし魅入ってしまった。
それはほんの数秒のことであっただろうが、私にはあまりに長い時間のように感じられた。
それは先程の蚊であったろうか? それとも他の蚊であったろうか……。
蚊が離れしばらくすると、妻の首筋にほんのりと赤い跡が浮かび上がった。
「あなた……?」
妻の声がした。
その首筋には先程よりも赤くなった跡がくっきりと浮かんでいて、私は目的も忘れたまま貴女にそうっと触れる。
了