頑張るから。
私頑張るから。
さえこさんの口癖です。
小さい頃から頑張る、頑張ると、意地を張り続け、もう二十歳を過ぎていました。
お味噌汁も作れる。
ご飯だって、ふっくら炊ける。
ハンバーグも、シチューも。
そしてベッドに背中を預けて思うのです。
私頑張るから。
私頑張るから。
さえこさんの朝は早いです。
5時には起きて、バナナと牛乳をコップ一杯。お水につけて、髪を解いて、身支度を整えてから、鏡を見ます。
私頑張ってる。
地下鉄の中で。
頑張ったさえこさんは、ご褒美に何か買ってあげようと思います。
そんな時です。
さえこさんの携帯が震えました。
携帯の画面を見ると、さえこさんの優しそうな目と緩んだ頰がキュッと締まります。
仕事がうまくいかなかったようです。
さえこさんの仕事は完璧でした。それなのに何故。
さえこさんは悲しい気持ちでした。
でも、
頑張らないと。
さえこさんは、悲しいけれど、頑張ります。
ですがみんなは見て思っていました。
何の為に頑張るんだろう。
さえこさんにも、思い当たりませんでした。
さえこさんは、今も頑張ることを頑張っています。
優しい気遣いにも甘える事なく、頑張る事を目標に。
頑張るって素晴らしいです。でも、頑張る事を頑張るよりも、楽しく頑張る事を頑張る方が、鮮やかでした。