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第125話(欺)

 山賊御一行をものともしなかった謎のお爺さんの案内で、秘境めいた村に到着した僕ら。

 そのまま、村唯一の宿屋兼居酒屋兼喫茶店で、簡単に自己紹介して例の話を聞くことになったわけだけど…


「えええっ? じゃ、じゃあタソガレさん、もうその魔物はいないってことですかっ?」

「ほっほっほ、そういうことになるかの」

「そんなあ……そうかあ……そんなあ…」


 僕を助けてくれたお爺さんはタソガレさんと言うらしく、色々な町や村を廻り巡っているとのこと。

 でもって、この村にはそれなりに長く滞在してるみたいで、宿屋兼食堂をやってるオッチャン、オバチャンとも気軽に挨拶を交わしてたり。


「儂が言うのもなんだが、偶然に偶然が重なった出来事じゃな。流石に、二度目があるとは思えぬのう」

「ですね……僕もそう思いまっす…」

「…まあなんじゃ、そう気を落とすことはないじゃろう」

「ですよね! 雷の精霊石なら少し遠いけど、採れる場所あるし!」 


 そんな中、タソガレさんが持ってた雷の精霊石、その入手までの経緯を聞いたわけだけど…もう嘆くしかない。


 なにせ、ある日、タソガレさんが村近くの川で釣りしてたら、大物の手ごたえがあって、思い切り竿振り上げたら、魚じゃなくて黄色い巨体の魔物が釣れた、と。

 その魔物はなんでか傷だらけで、しかも人の言葉を喋るから、タソガレさんが物珍しさで介抱してたら、元気になった魔物からお礼に、と精霊石を貰ったそうな。

 ………どう考えても二度目なんてないね、うん。分かってたけど、分かってたけど、こう…なんというか、こう……


「大丈夫…大丈夫………だいじょ…はあ…」

「…シアムよ、お主鍛冶と言うたが、見たところ、それらしき道具が見当たらんのじゃが…先の山賊に取られでもしたのかのう?」

「それは…僕が何も持ってないのは、いつものことなので気にしないでクダサイ。それに僕、他の鍛冶と違って、一子相伝の特殊な技で武器を作っているので、道具必要ないんです」

「特殊な技、とな?」

「ええ。そうだなあ…」


 ちなみに、タソガレさんが大事そうに抱えてた黄色く透き通った石、雷の力を宿した精霊石は、今、食堂の机、つまり僕の目の前に置かれてたりするわけで。

 うむ、何度見ても美しい光沢が堪らない。これを武器に…そうだなあ、やっぱり剣とかにしたら……あ、でも短剣二振りでもいいなあ…いやいや、ここは思い切って斧…はちょっと石の量が足りない……

 そんな、我ながら虚しい妄想しつつ、一子相伝の技に興味を覚えたらしいタソガレさんに実践して見せようと、武器を探して視線を彷徨わせ…


「あ。タソガレさん、その剣、少し借りてもいいですか?」


 僕が指差したのは、タソガレさんが座った椅子に立てかけられている、剣の鞘。


「これか? 構わんが、何に使うつもりかの」

「折角なんで、タソガレさんに一子相伝の技を披露しようかと思って」

「ふむ、そうか」


 瞬きをしたタソガレさんは、不思議そうに、けど興味はあるみたいで、鞘を掴むと僕に渡してくれる。

 それを受け取りつつ、机の上に乗せられたままの精霊石から、強引に目を剥がし、剥が…剥がしつつ、抜刀して…


「んんん? この剣、長く使ってる割に…よくここまで使ってこれたというか…」

「ほっほ、どういうことかの」

「そもそも実戦用じゃなくて、訓練用の剣じゃないですか。タソガレさん、まさかこの剣が護身用? もう一振り持ってたりしません?」

「いんや、儂が持っとる武器は、それだけじゃ」

「え、嘘」


 刃が徹底的に潰れてるのは、使い古して手入れを怠ってきたから…じゃなくて元々、という事実。

 柄と刃も、山賊のオッチャンたちが持ってた斧とか鎌と同じぐらいの緩さで接合してるわ、刀身は所々凹んでるわ曲がってるわで、僕でも滅多に見かけない、中々の一品に仕上がってたり。


「なあに、使い手が優れておれば、訓練用だろうが本物だろうが大した違いなぞないわ」

「さすがにそれは無い、って言いたいところだけど、実際見てるからなあ」


 タソガレさん、何てことないように言ったけど、確かにその技術、力量は優れてると思う。

 なにせ、この剣っぽい武器で人間切り伏せたわけで。刀身に使われてる金属の強度もそこまでじゃあないのに、それほど曲がってないし折れてないし。

 いやはや、世の中には凄い剣の達人がいるものだなあ、だなんて思いつつ、剣になりそこなった武器をしげしげ眺める。


「じゃあ早速……形成せよ……精製せよ…」


 というわけで、剣、というか鈍器になり損ねた金属塊の、刃に当たる場所へ指を走らせる。


「おお、こりゃ魔法か!」

「…精製せよ……精製せよ……一子相伝の特殊な技なので、魔法とは別です別」

「儂にしてみれば同じものじゃが、これが技とな」


 元々潰れてた刃を切れ味鋭い刃にして、刀身に使われてる金属の不純物を取り除いて強度を上げて…

 タソガレさんが使いやすいように重さやら重心やらを調整し……あれ?


「うん? 今度はどうした?」

「そのですね、タソガレさん、普段は剣、使わないんですか?」

「うむ、そうだのう…嗜む程度、といったところか。さすが鍛冶じゃ、そこまで分かるものなのか」

「僕は分かるけど、他の鍛冶が分かるかどうかは……」

「そうかそうか」

「精製せよ……こんなところかな。タソガレさん、はい、どうぞ」

「ふむ、刃先が鋭くなっておるな…」

「うんそう、それから刀身の強度を上げて、柄に埋める茎の部分との接着を…」


 あまり長いこと時間かけられないから、簡単な調整を終えた剣を返せば、最初は刀身を遠目で観察していたタソガレさん、次には軽く、それから本格的に剣を振り回し始め…って!


「こりゃ凄い! 先程までとはまるで別物じゃ!」

「タソガレさん! ちょっと待った! ここ宿屋! 食堂だから!」

「素晴らしい! 軽いわ小回りが利くわ、この馴染み具合!」

「わ! うわ! うわわっ!」


 新しい玩具を手にしたような喜びようは嬉しいけど! 室内でいきなり剣を振るわないで欲しい! しかも僕の目の前で!

 お客さんが少ない時間帯だからって、突然立ち上がって剣を振り回すのはどうかと思いまっす! 机やら椅子やら床やら切断しかねない勢いで振り回さないで!


「うむ、これなら百人でも切れるぞ!」

「タソガレさん! 屋内だから! ここ外じゃないし敵とかいないから!」

「分かっとる分かっとる」


 椅子を盾に、すたこら退避した僕の叫びを受けて、絶対分かってないだろう表情で、タソガレさんは漸く剣を収めたり。

 机の一部と、タソガレさんが腰を下ろした椅子の背もたれが少しだけ綺麗に切断されてるのは、気のせいだとして……まだ落ち着いたように見えないタソガレさんは、嬉しそうに僕と、机の上の精霊石とで視線を往復させ始める。


「なるほど、最近の鍛冶は、魔法で武器を作ることができると」

「えっと、それ、今は僕…ぐらいだと思うし、そもそもコレ魔法じゃなくて一子相伝のですね…」

「材料さえあれば、いつでも武器を作れるとな。中々に面白い魔法じゃの…うむ、久方ぶりに面白い物を見たのう」

「あのタソガレさん、僕の話聞いてます…?」

「うむ、分かっとる分かっとる」


 うんうん頷き続けるタソガレさん、多分僕の話聞いてない。

 とはいえ、危険行動したものの、簡単な調整を施した剣に満足してくれたらしいタソガレさん、黄色に輝く精霊石に手を伸ばすと、僕を見据える。


「なれば、この精霊石で、一つ、お主に武器を作ってもらおうとするかの」

「え……いいんですかっ?」


 本当に? いいの? でもなんで突然?

 何の脈絡もない、けどもすんごく嬉しい申し出に、思わず体が前のめりになる。

 喰らいつく僕の前で、タソガレさんは腕組をして、満足そうに続ける。


「その魔法なら、剣を一振り作ることぐらい、造作もなかろうて」

「勿論! でもタソガレさん、その精霊石、息子さんのためにって言ってましたよね?」

「確かに言ったが、構わん構わん。お主なればやってくれる、そうじゃろう?」

「そりゃもう!」


 魔法じゃなくて一子相伝の技で、訂正するのも面倒だから魔法でいいけど、兎に角、タソガレさんは僕の技術をこの一瞬で気に入ってくれたらしい。

 目を輝かせているタソガレさんに向けて、首を振るだなんて選択肢、あるはずがない。


「どうせ貰い物じゃ、あの魔物には悪いが、失敗しても儂は何とも思わん」

「まっかせて下さい! この一子相伝の技なら、失敗することないし、僕も精霊石触れるなら大歓迎です!」

「なら良い」


 そう、この好機を見逃すだなんて有り得ない!


「して、それを剣へ加工するに、どれほど時間がかかるかの」

「剣なら、二日か、三日程度です!」

「よし。ではその間、儂が、ここの宿の代金もだそう」

「え、ええ、と…流石にそこまでしてもらうわけには…そもそも、剣への加工代も僕いらないし……」


 タソガレさんの太っ腹な提案に、慌てて両手を振る……振ってから気付いたけど、そういや僕、無一文だったような気がする。

 勿論、金策は考えていて、この村で武器作って売ろうとは思ってけど…そりゃあ、ちょっとした隠し財産っぽい物はあるけど、今ここで売り払うほどじゃあないし。

 と、考えたら、タソガレさんの提案は実に魅力的なのではなかろうかと見れば。


「よいよい。儂はこんな格好をしとるが、金に不自由はしとらん。こりゃ当然の礼じゃ」

「それなら喜んで! あでも、後から、想像と違う! だとか、こんなの注文してない! とか、怒ったり代金請求したり、しません、よね?」

「ははは! そんな肝っ玉小さいことせんわい!」


 最近じゃあ、あんまり文句付けられないけど、良くある文句を並べてみても、タソガレさんは豪快に一笑。

 見た目は、どこにでもいそうなお爺さんなのに、剣の腕前が嗜み程度とはいえないほどだし、売り払えば相当のお金になる精霊石をあっさり僕に任せてくれたり、一体何者なのやら…


 という疑問も、精霊石を加工できて宿代まで負担してくれる、という魅力的な提案の前ではどうでも良くなったり。


「では是非! 是非僕にお任せを! タソガレさん、その精霊石、僕が必ずや、すんばらしい一品に仕上げてみせます!」

「うむ、頼んだぞシアム」

「はいっ!」

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