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第146話(欺)

「ううむ……」


 目の前に置かれた皮袋。見た感じ、中身ぎっしり詰まってて重そうだし、くれるっていうならもらいたい。

 でも、送り主がフェノ。


 今回のお礼とか言うけど、まさかあのフェノが素直にお礼渡すはずない。


「うむ…むむむ…」

 

 完全にフェノのやることなすこと信じられなくなってる僕。これがサファレだったら喜んで受け取るのに。

 まったく、毎度毎度疑われるような言動してるから…


「サファレ、これ受け取っても…サファレ?」


 悩みに悩んで、結局結論でない。

 というわけで、食事の手を止めてたサファレに確認とろうとすれば、袋凝視してたり。


「フェノ、どこから持ち出してきた」

「おやサファレ君、ご存じない?」

「お前…」


 器用に片方の眉持ち上げたフェノに対して、どこか諌めるような、諦めたような顔して溜め息吐いて……うん? サファレはこの怪しげな袋について何も知らなかったり?

 じゃあサファレに聞いても駄目だろうし、この『お礼』はフェノの独断で受け取ったらマズかったり?


 と、一気に受け取る気が失せた僕、に見えるよう、フェノがわざとらしく首傾げてみせたり。


「………なにさ」

「いやいや何もないぜ、シアム君。ただ、普段なら喜び勇んで飛びつくだろうに、どうしたのかと疑問に思っただけさ」

「だってフェノだよ? フェノがお礼だなんて信じられない。絶対何かある」

「はて、何があるというのかね?」

「何が、って、何かだよ、何か」


 例えば、中身がお金だとか鉱石だとかじゃなくて、僕が考え付かないような酷い物だったり、お礼くれてやったんだから何かしろ、だなんて無茶な要求してくるとか。


「絶対何かあるのに…」

「なんと疑い深い。この夢が詰まった袋は、素晴らしく役立ってくれた元下僕に、ご主人サマが出来る精一杯だというのに」

「い、ら、な、い、よ!」


 僕の馬鹿! 刹那、一瞬でも、中身色々使えるお金だといいなとか、あの大きさだから精霊石じゃなくて鉱石かも、だとか誘惑に負けかけた僕の馬鹿!

 フェノのことだ、絶対よからぬこと考えてるに決まってる!


「おやおや、中身も見ず受け取り拒絶とは」

「いい、いらない。やっぱり君さ、僕からかって楽しんでるだけ…」

「仕方ない、サファレ君」


 不満口に出してた僕を遮って、フェノはサファレへと顎をしゃくる。


「シアム君へ説明してやりたまえ」

「サファレ? どうしてサファレが出てくるのさ」


 フェノが僕にお礼っていうのは悪質な冗談だとしても、その説明を、『お礼』のこと知らなかったっぽいサファレにさせるっていうのは…どういうこと?

 頭こんがらがって困惑してると、サファレは食事するのをすっかり諦めたみたいで、腕を組んで存在感溢れる皮袋に目を向ける。


「元々、あの袋は私が用意していた」

「へ? そうなの? フェノ一人で勝手に用意したんじゃなかったんだ」

「但し、私の記憶より、一回り、二回りほど膨れているが」

「へ? そうなの?」

「うむ、貰える礼は多い方が良いという、粋な計らいだな」

「間違いなく君が余計な物入れたくせに…」


 余計なことしかしない誰かさんに疲れて溜息吐けば、心配すると見せかけて面白いモノを見つけたとばかりの笑顔が近づいてきて。


「どうした、溜め息なんざ。ああ、連日武器売りまわってたから疲れてんのか。俺としたことが、そこまで金欠なら、とっととコイツを渡しておけば良かったなあ」

「んなっ? ち、ちちちちがうし! ぼぼぼく、鉱山のオッチャンたちからもらった鉱石で武器作ってそこら辺にいた人たちに売ったり次いでに周辺にある村とか町とかの話聞いてなんて…」

「袋の中身は、今回の謝礼が入っている」

「しゃ、謝礼? あ、お礼ねお礼!」


 収まったはずの冷や汗が流れる僕へ、救いの手を差し伸べてくれたのは当然サファレ。有難う!

 心中で感謝しつつ、邪悪な笑顔浮かべるフェノの、これまた邪悪な視線から全力で逃れておくのも忘れない。


「直接の関わりは無いとはいえ、父が、タソガレが世話になった件も含め、色々と迷惑をかけた」

「迷惑? 僕、息子……その剣作れて満足だったけど?」


 タソガレさんがお世話になったんじゃなくて、僕がタソガレさんのお世話になったんだけどなあ。

 高純度の精霊石で武器作らせてくれたし、宿代とか諸々負担してくれたし。


「ところで、私が聞いたところによると、君はどうやら無理矢理この国へ連れてこられたという」

「………あれっ?」


 うん? 今サファレ、無理やり……連れて、とか。


「加えて、無報酬でフリギア様に、こき使われていたとも聞いている」

「え、ちょ、ちょっと…」


 なんだろう、さらっとすんごい発言したけど、似た顔の誰かと違って、こんな時に冗談…言わないよね、サファレ。

 じゃ、じゃあ今のまさか……本気で信じてる………?


「らしいぜ? まさかあのフリギア様が、一国民、一小市民を拉致、だなんてなあ。信じられねえが、それが事実ってんだから、この国は恐ろしいぜ」

「君かフェノ! 君が余計なことサファレに吹き込…」

「その上、フェノが君を拉致し、あまつさえ生命の危機に晒し…申し訳ない」

「え、や、サファレ謝る必要はないから! 別にさ、今回のこと、ほとんどフェノが悪いわけだし、囮だとかそういうの、いつもの! そう、いつものこと、だから!」


 サファレの、何度目か分からない謝罪に、首振って本当大したことないって返すけど、分かってくれるかなあ。

 とはいえ、お使いのように囮指示して、軽い謝罪で済ませてくるフリギアより、ちゃんと悪いって理解して謝ってくれるサファレは、偉いし尊敬したり。


 どっかの誰かさんと、サファレに似た顔した誰かさんも見習って欲しい。


「そういう訳で、旦那から逃げたいシアム君の願いを、俺たちが叶えてあげることにしたわけだ。感謝したまえ」

「フェノ胡散臭い。僕信じられない」

「フリギア様からは、私が話をつけておく。シアムは気にせず、行きたいところへ行くといい」

「うむむ……嬉しい提案だけどさ、サファレ、大丈夫?」

「私のことは気にしないでいい。そもそも、フリギア様に考えがあるとはいえ、犯罪行為はさすがに看過できない」


 おずおず不安に思ってること聞けば、きっぱりとした返事が返ってくる。

 これもしかしなくても、サファレの中じゃあ、完全にフリギアが悪者、というか犯罪者になってるね、うん。


 ……本当に大丈夫かなあ。


 サファレ真面目だから、真面目に正々堂々フリギアの所乗り込んで糾弾するよなあ。

 でもってフリギアはフリギアで性格極悪だから正面から受けて、十倍どころか百倍にして返しそうだよなあ。


 ………いや、駄目じゃん! それ絶対サファレ大変なことになるじゃん!


 血の気引いて、慌てて叫ぶ。


「その、さ! フリギアは約束守ってくれなかったけど、僕、君たちと一緒に鉱山見たし、別に犯罪とか起きてないしつまり僕も君たちも…」

「おやおや、旦那に毒されてるぞ、シアム君」


 遠回りだけど一応目的は果たせたから! フリギア全然関わってないけど鉱山行けたから! 

 って主張しようとしたのに! こんのフェノ! 分かってて邪魔しない!


「いいから! 余計なことしか言わないのは黙ってて!」

「いやいや、今回は流石にこの俺も引けないぞ」

「だ、か、ら!」

「いいんだ、シアム。第一、本人の同意もなく囮指示をさせるなど、あってはならない」

「あ、いやあ…サファレさ、少し、そう、少し真面目になり過ぎだって! 大丈夫大丈夫! 僕ロクでもないこと巻き込まれるの、慣れてきてるから!」

「力と権力持った偉いサンが間違った方向に進むのを、正すのも俺たちの使命よ。なあサファレ君」

「ああ」

「ああもうフェノ! ごめんサファレ……フェノのせいで本当、本当ごめん…」


 色々誤解させて。ほんの、ほんっの一部分は事実だけど、大部分間違ってるから。

 多分、近い将来、フリギアの恐ろしさ骨の髄まで知ることになるだろうけど、僕とフェノのせいにしていいから。


「どうしてか、俺の元下僕は、サファレ君に懐いているようだが」

「君、口閉じてて。縫い付けるよ」

「おお怖い怖い」


 さっきから余計な茶々しか入れてこないフェノに取り合わず、気を切り替えてサファレに尋ねる。


「こうなったら遠慮しないから聞くけど…エルフの里ってどこにあるか、サファレ知ってる?」

「エルフ? それはまた、唐突だな」

「次さ、そこ行ってみたいんだ! エルフの里があるっていうのは知ってたけど、場所分からなくて!」


 そう、これだ! これこそ、僕が考えてた、次に目指すべき新天地!


 鉱石は今回の鉱山で十分堪能したから、今度は、精霊石の一大産地、エルフの里!

 前にエルフのドゥールが言ってた、高品質の精霊石と、そこらの鉱物よりも頑強な材料の、世界樹も見てみたい!


「そうか…」


 期待して待ってると、なんでかサファレはフェノと目を合わせたり。フェノもサファレに目を向ける。

 どうも視線だけでやり取りしてるみたいだけど……しばらくして、フェノがどうでもよさそうに肩すくめてみせる。


 どうやらそれで視線での会話は終わったみたいで、頷いたサファレ、僕に向き直る。


「エルフの里は、大分遠方にある。後で地図を用意させよう」

「ほ、ホントっ? 有難うサファレ!」


 うひひひひひ! やった! やったあ! こんなすんなりいくなんて!

 喜ぶ僕の背後で、食事中だったデボアとアスピドの声が聞こえてくる。


「デボア、エルフですって。懐かしい響きね」

「エルフか。あの偏屈一族以外は、あまり外へ出ないからな。こちらでは珍しい種族だろう」

「そういえばそうね。もし会えたら、デボアに取ってもらった、あの木の実がないか聞いてみようって思ってたのに」

「ああ、あの果実か。アスピドは気に入っていたな」

「ええ、大きくて綺麗で美味しかったもの。それじゃあシアム、お土産は頼んだわよ」

「うん! 木の実、果物ね! まっかせといて!」


 待ってて精霊石! 待ってて世界樹! 待ってて木の実!


「ぐへへっへっへへ…」

「本当にいいのか?」

「何が?」

「とぼけるな」

「悪い悪い。ま、シアム君ほどの変人、奇人なら、何が起きたとしても平気よ」

「相変わらず、趣味が悪い」

「それは褒め言葉さ、サファレ君」

「…そうだったな」

「ぐふふふふふ……ふふっ」


 待っててエルフの里! 














 ここまでの一読、有難うございます。これにて絶讃以下略(欺)完結です。

 大分間が空いてしまった部分もありましたが、完結です。

 中途半端だと指摘されようと、完結です。


 次回については何もないので、ここで絶讃以下略は終了となります。

 (仮)からずっと一読していた方々、途中から一読に参加して下さった方々、本当に有難うございます。こういった、転生でもなくハーレムもなく、盛り上がりもなく、目的もなく、チートらしきモノはあるものの各種描写不足な、ファンタジーのような何かを待ち望んでいた方…はいないと思いますが、目を通して下さり感謝しています。数少ない鋼鉄の精神を持った方々、本当に有難うございます。


 後は……いつぞやもありましたが、誤字脱字ありましたら、ご指摘いただけると有難いです。


 以上。後ろ向きな後書きでした。

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