●第142話(欺)
雲の隙間から差し込んでくる日差しが、青い芝生に広がってる。
風が吹けば、芝生やら近くに生えてる木の葉っぱやら、ざわざわ音立てて。
「それからさ! 本当に鉱石がゴロゴロ転がってて!」
「鉱石?」
「主に人間の武器を作るための素材、だったと記憶しているが」
「その通り! しかも精霊石の欠片も沢山落ちてて、でも、皆それをクズ石だっていうから、思わず怒鳴ってさ! 慌ててサファレが止めにきたのは、悪かったかなあって。でも、精霊石の欠片をクズ石って言うのは許せないし」
「精霊石ってなにかしら?」
「少々前に、私が人間に助けられただろう。その時礼代わりに与えた、あの透き通った塊のことだ」
「あら、あの宝石のことだったの。私、てっきり精霊の力を閉じ込めた宝石だと思っていたわ。本当は、綺麗な石だったのね」
「もちろん宝石にもなるよ! でも、装飾品にすると魔法師とかが間違って付けた時、展開した魔法の威力が予想以上に強くなることもあって、観賞用にすることが多いかな。でも、小さい精霊石は指輪とか、装飾品に加工するけどね」
芝生に寝そべるデボアとアスピドを前に、あの時の感動を語る僕、の図。
横には、いつぞや夜会っぽいのやってた、フェノたちのお屋敷があって、僕らのいる場所からは、くすんだ外壁と木枠にはめ込まれた硝子窓が見えたり。
お貴族様らしく、僕らが今いるここは、広い広い庭らしい。
沢山、背の高い木が生えてて、根元からバッサリ切られてるのも、ちらほらあったり。
「それでそれでさ! 鉱山って僕、話には聞いてたけど、行ったの初めてなんだ! すごいね! 色んな鉱石が山ほど積まれてて! あれ間違って全部僕のところにこないかなあ…」
思い返して、気分が高揚してくる。
ああ、サファレ、本当に君、いい人だったよ! 色々我慢してフェノに付いていってよかったあ!
「シアムったら、さっきからとても楽しそう。私も行ってみたかったわ」
「シアムは鍛治、だったか。確か、金属を用いて様々な器具を作る人間をそう呼ぶのだが、つまり、彼らにしてみれば、鉱山というのは宝の山と同義なのだろう」
やっと普通の服で、サファレたちのお屋敷に戻ってきた僕ら。
サファレは襲撃者たちの背後関係を洗う、とか難しいことを言って、帰ってそうそうお屋敷から出て行って。
フェノは、なんか体調が悪いとかで、治療士の所に行ったらしい。
あれだけ調子よく僕ら馬鹿にしてたのに、体調悪いって…あでも、サファレ、フェノは体弱いって言ってたしなあ、けど、あの態度は………む、閃いた! そうだそうだ、これも何かの作戦だ!
フェノのことだ、体調悪くなったとか噂流して、誰かおびき寄せようとしてるに違いない。
「知っているわよ、私。これが観光というものでしょう? ねえシアム、お土産とかないのかしら? 観光したらお土産をくれるんじゃなくて?」
「お土産…? あ! あるよお土産! なんかさ、鉱山にいたオッチャンたちが凄く優しくてさ、そこら辺にあるクズ石、じゃなくて鉱石とか精霊石の欠片なら少しぐらい持って帰って大丈夫だって! 監督してた騎士っぽいお姉さんは渋い顔してたけど、許してくれたよ!」
「ほう。どのような石を持ち帰ってきたのだ?」
「ふふん、石じゃないよデボア。ちゃんと加工したからね!」
少しぐらいって言われたから、馬車に入るだけ詰め込もうとしたら、なんでかサファレに止められて。
本当に少しだけなのに、納得いかなかったけど、結構必死に説得されたから、しぶしぶ持って帰る量減らしたけど。
でもって、泣く泣く諦めて、積みきれなかった分は、その場でちょちょいと加工して。
帰り道、馬車の中で、物珍しそうな顔してたサファレの前で仕上げた…
「ほら見て! 君たち用の武器!」
「まあ綺麗な石」
「ふむ…武器、か」
懐から取り出して芝生の上に広げたのは、アスピドが言うように、大きさは木の実ぐらいの、見た目は透き通った石!
色んな色した石たちは、陽光受けて控えめに輝いてる。
でもでも! だけども! ただの石だと侮るなかれ!
「透き通って、色も綺麗。これのどこが武器なのかしら?」
僕特製の、表面を雷の精霊石で覆った、特殊加工済みの精霊石たち。中央が少しだけ膨らんでて、外縁部は薄くしてあったり。
綺麗な物好きっぽいアスピドは、そんな武器には見えない精霊石を、不思議そうに、それでも嬉しそうに、前足で石をつついたり、掴んだりしてて、興味津々。
一方で、デボアも興味持ってくれたみたいで、長い髭を精霊石にくっつけて、僕を見上げる。
「なるほど、理解した」
そして一言感想を……へっ?
「デボア、まさか、これの使い方もう分かったの? 僕、説明も何もしてないよ?」
「ああ、力を通せば良いのだろう。面白い土産だ」
「ははあ、さっすがデボア! じゃあさ、アスピドに見せてあげてよ!」
すんごく驚いたけど、石を触っただけで、使い方理解してくれたっぽいデボア。
僕の提案に、寝そべってた体を起こすと、前足を伸ばしつつ、体中に電気を走らせ始める。揃って眺める、僕とアスピド。
「つまり…」
「あらデボア、この辺りに敵はいないわよ?」
「えっへへ、いいから見てて見てて」
帯電したデボアから、無数の電撃が糸のように広がりだす。
雷で出来た糸の一つ一つが精霊石たちと接続して、宙に浮かび上がる。
「こうして…」
「そうそう! おおお! 僕の考えてた通り!」
おおっ、さっすがデボア! 武器なんて使ったことないだろうに、僕が考えてた通りに操ってくれる。
鉱山での戦い見てて思ったけど、デボアたちって、ある程度自由に雷操れるっぽいんだよね。
だから、各種精霊石の表面を雷の精霊石で覆えば、こうやって力をかければ自由に扱える…はず、という推測だらけで作った一品。
いやあ、成功して良かったあ!
「浮いた石も綺麗。でもシアム、やっぱり武器には見えないわよ」
「うん、今はただ浮いてるだけだからね。じゃあデボア、お願い」
「分かった。アスピド、危険なので少し離れてくれ。これを手足の延長として、扱うと……このように」
輝く精霊石たちが、デボアの意思を受けて、ゆっくり回転し始める。
回転は落ちることなく、徐々に回転速度をあげていって、すぐさま目で追えないぐらいの高速回転になった途端、僕へと……って!
「うおおおおおおわああっ?」
「すごいわ!」
「ああああ危なっ? って、僕の髪の毛っ?」
「そうやって使うのね! ねえデボア、私もやってみたいわ!」
咄嗟に頭下げてなきゃ、髪の毛どころか首もってかれそうだったんだけど!
血の気引いた僕の横で、興味持ち出したアスピドが、雷の放出を止めたデボアに近づいていく。
「多少、力の方向を決めるのが難しい程度で、それほど複雑な操作は必要ない。力が弱いアスピドには、丁度良い武器となるだろう」
「ええ、分かったわ」
デボアの感想聞きつつ、戸惑いながらも全身から雷放つアスピド。
「ええと、こう…こうして……動いたわ!」
それを、デボアより滑らかな動きで精霊石たちに引っ付けて……って!
「ちょ、ちょっ、な、んで! 僕の! 髪ばっかあああっ?」
今度はアスピドの攻撃! 華麗に回避したものの、髪の毛が結構な量切断されて宙を舞う! ついでに、脇で静かに生えてた木を一本切り倒す! 轟音を立てて芝生に倒れる木!
じゃなくて!
「あのさ! 二人共、なにも僕を標的にしなくても…」
「とっても気に入ったわ! 有難うシアム! こんなに面白いお土産をくれるなんて、貴方本当にいい人間ね」
「え、ま、まあ、一応、お世話になってるし、うん」
アスピドは本当に気に入ってくれたみたいで、未だ凶悪な回転続けてる、精霊石の武器を振り回してたり。
それがいつ、僕に飛び掛ってくるのかヒヤヒヤしながらも頷けば、デボアが首を傾ける。
「確かに面白い武器ではあるが、何故このように動かすことができるのだ?」
「ええと、原理はさ、その武器、雷の精霊石で各種精霊石の表面を覆ってて、その厚さを場所によって変えることで、力入れると風車みたいな感じで回転するようにしたんだけど」
「風車? ああ、風を受けて回る、あの道具のことか」
「うん。本当に簡単な説明すると、風の代わりに君たちが放出してる雷を使った、風車っぽい武器ってことかな」
「成程、力を入れるほど回転速度が上昇するということか」
「そうそう! もちろん上限はあるけど、速度があがるほど切れ味は上がるよ」
色々と、主に僕の髪切断したことに対して文句言いたいけど、デボアもアスピドも本当に嬉しそうだし…うん、仕方ない。
今まで僕の頭を守ってくれた沢山の髪の毛、有難う。
「あと、それ使わないときは、最後に使った方に引っ付くからね」
「引っ付く? まあ、本当」
付け加えた言葉聞いてアスピドが雷引っ込めると、精霊石たちが芝生に落下する直前、アスピドの首元に…丁度、宝石でできた首輪のような配置で引っ付いてくる。
これも、等間隔で並ぶように調整したんだけど、どうだろう?
「………」
それを黙って見下ろすアスピド……あれれ? もしかして、気に入らなかった……?
「精霊石自身に溜め込んだ魔力で付いてるから、アスピド自身の魔力? 力は必要ないよ。それに、重さは小型の精霊石だからほとんどないし、耐水耐火耐衝撃耐腐食だから、色々やっても大丈夫だよ。でも…」
「デボア、どうかしら?」
慌てて、調整する時間もあるし、邪魔なら他の方法考えるけど…と続けようとすれば、アスピドはデボアの前でくるりと回ってみせる。
「一段と綺麗になったな、アスピド」
「本当?」
「嘘をつく必要などないだろう」
「デボアったら…」
どうやら、気に入ってくれたみたいだ。ふう、良かった良かった。
デボアに頬ずりするアスピドを見て、思わず笑顔になる僕でしたとさ。
「ってああっ? アクイアの斧見せてもらうの忘れてたああっ!」
先日、投稿していた「小説のような何か」を見返していたら、誤字を発見しました。衝撃の瞬間でした。
そちらは訂正しましたが、もしありましたら報告していただけると有難いです。




