●第137話(欺)
「うわあ! ねえ見てアキュアさん! あそこあそこ!」
「あら…まあ! フェノ様見て下さいまし!」
「どうした下僕君、アキュア」
「ほらほら! フェノもさ! 空! 空見てよ!」
「フェノ様、あそこですわ! あんなに大きくて空を飛んでる魔獣、私、初めて見ましたわ!」
「口に何か咥えて……あれ、獲物なのかな!」
「本当ですわ! 巣に戻る途中なのかしら?」
「その程度で喜ぶとは、可愛いヤツだな。アイツはここいらじゃ良く見る魔獣で、コッチから手出ししなけりゃ無害なモンよ」
サファレとの面会の後、鉱山見れるのは嬉いけど、やっぱりフェノがいて、しかもいつもの囮だし…だなんて沈んでたのも、昔の話。
いざ当日となれば、雲ひとつ無い快晴、天気が良い中、今まで見たことないほど豪華な馬車に乗れば、不安なんてどこかに吹き飛んだり。
でもって、ナントカ国の城門を出れば、背が低い草が一面広がってたり。
色とりどりの花まで咲いてるそこを抜ければ、穏やかな傾斜が続いて、見たことない魔獣っぽいのが空飛んでたり、岩と砂だらけの山肌を魔獣っぽい蜥蜴が走ってたり、魔物化した植物が小動物を平らげてたりしてる、実に平穏な光景が広がった山に到着。
そう! ここが! こここそが! 夢に見た鉱山! の通り道になってる山!
「ぐえっへへへ……」
「シアム様? どこか具合でも悪いのですか?」
「放っておけアキュア、下僕一号君は頭が病気でな、いつもこうよ」
あらゆる鉱石に囲まれた僕。どの子も自分を使って武器を作って欲しいだなんて言ってきて、嬉しいけどちょっと困るなあ、でへへへへ…
つい妄想に沈んで、頬が緩む僕。対面に座ってるアキュアさんは外を見て楽しそうだし、フェノも満足そうに頷いてるし、皆ご機嫌、いいことだ!
「あ。そういやフェノさ、息子…えっと、サファレが持ってる剣、使ったことあったりする?」
「うん? サファレ君が持ってる、とくれば、おたくが拵えたとか言う、アレのことか」
ふと思い出して尋ねてみれば、ウチの家宝もどきか、だなんてフェノは首を傾ける。
「うんそれそれ。タソガレさんは剣としても魔法道具としても、しっかり使いこなしてくれたけど、フェノはどうさ? 息子なんでしょ? 使えるんだよね?」
息子の、剣の反応からして、フェノのこともサファレのことも気に入ってるみたいだし…
とはいえ、フェノが剣に触れる機会、なかったような気がするから、あんまり期待してないけど。
「聞いてどうする? ご主人サマである俺の動向以外に、興味持つ必要なんざないだろう?」
「そういうの、今いいから。あそうそう、サファレは魔法道具としては、使えなくてさ。だからフェノはどうかなあって思って。折角精霊石で作ったんだから、誰か魔法使ってくれないと寂しいじゃん」
サファレには、何度か確認してみたんだけど、やっぱり雷の魔法を展開できないって言ってたし。
実際、僕がアレコレ説明して、サファレに実践してもらったけど、やっぱり駄目だったわけで。
「……そうか…」
「フェノ?」
「そうか…サファレが……」
「おおい、フェノ?」
珍しい。なんでか分からないけど、フェノが考え込んでる。
「……まあ、シアム君相手に隠す必要もないか」
「で、どうなのさ?」
「おたく、本当に武器に関しては食いつきが違うのな。嫉妬するぞ?」
「もしかして、使えない? いやいや、そんなはずないでしょ」
苦笑気味なフェノに、まさかと思って聞いてみれば、肩をすくめられたり…なんで?
「本当に面白い奴だな、おたくは。その熱心さに答えてやるが、俺はサファレ君と逆だ。あれを剣としては使えねえが、魔法道具、それも雷専門の魔法道具としてなら、それなりに使用できるな」
「え、それ本当っ? 嘘じゃないよねっ?」
「やれやれ、俺はいつも真実の…」
「フェノさ、ソレ、僕に見せてよ!」
「ほう、俺の勇姿を見たいと」
「うん! 前にさ、サファレの剣術、見せてもらったんだ! でさ、やっぱり切れ味が凄くて凄くて! サファレも刃こぼれしないし、切れ味いいから使いやすいって褒めてくれたんだよ! こうしてさ、ちゃんと使ってくれてるって分かると嬉しいよね!」
タソガレさんも凄かったけど、サファレも裏庭にあった木をずばっと切り倒してくれたし、ちゃんと息子を信用して使ってくれてるみたいだから、本当に本当に嬉しい。嬉しすぎて笑いが止まらない。
「おたく、本当にアレなのな…」
きっとフェノの魔法も凄いんじゃあいやいや絶対すごい威力出してくれるだなんて確信してると、珍しく、腹立つような笑みが引っ込んでて、なんか微妙な顔してて。
「でへへへへへへえ……ってフェノ?」
「見たい気持ちは分からんでもないが、今は無理だな」
「えええ……折角なのに。でも、そっか…そうだよね。フェノ、なんか仕事、溜まってるみたいだし」
「溜まってる、ねえ」
残念だけど、ちょっと前に見たフェノの部屋、そこでフェノが向かってた机の上には、紙の束が冗談のように置かれてたのを思い出す…あれ全部処理するの、一日二日じゃあ無理だって、僕にも分かるぐらいの迫力だった。
諦めきれないけど、仕方ない、だなんて溜息つくと、フェノがいつもの、他人を馬鹿にしたような笑みをアキュアさんに向けてたり。
「お前と過ごす時間を確保するために、仕事を片付けてるっていうのに、誰かさんのお陰で、一向に減りもしねえからな」
「フェノ様と一緒に過ごせないのは少し不満ですけど……毎日遅くまでお仕事なさって、お体の方は大丈夫ですの?」
「ああ、お前のためならこの程度、大したことねえさ」
でもって、わざとらしく疲れた顔するフェノ。すかさずアキュアさんが労わるように、フェノの肩に手を置く。
そのままアキュアさんは、フェノにもたれかかって嬉しそうな顔して、フェノはフェノで、そんなアキュアさんの髪の毛梳いたりして。
「見たかったんだけどなあ、フェノの魔法…いつか見れるかな……」
「そこまで見たいのならば、俺の命を狙う低俗な賊が出てくるよう、神にでも祈っておきたまえ」
「なんでそんなこと、祈らないといけないのさ。それに山賊のオッチャンとか盗賊のオッチャンとか海賊のオッチャンとか、お腹一杯体験したからいいよ」
確かに、この、やたら豪華な馬車を狙って、疚しい事情持ったオッチャンたちが来てくれれば、フェノの雷の魔法見れるかもしれないけどさあ…
でも、誰かさん…そう、誰かさんたちに出会ってから、そういうの十分経験したし。
だから、せめて今回ぐらいは、今回ぐらいはさ、平穏に、無事、何事も無く鉱山をさ!
…そうだ、今だって、本当は僕一人でのんびり鉱山に行けるはずだったのに! 誰かさんが! 誰かさんが嫌がらせして!
「そうだ……そうだよ……」
「シアム様、お一人で旅をなさっていたのでしょう? 山賊様たちに襲われたのでしょうに、よくご無事でいらっしゃいましたわね」
「そういう時の対処法があってさ…それに途中から一人じゃなくて、フリギアたちが…そうだよ、フリギア、フリギアめ……」
「ああ、フリギアの旦那か。さて、どこまでご存知なのやら」
最近続いてる災難を思い出してたら、嬉しい気分が一気に沈んできた。
…ついでに頭の中で、悪魔の笑み浮かべてるフリギア殴ろうとしたら、綺麗に避けられて、しかも馬鹿にされるし。
「フェノ様、フリギア様とは、どちらの方ですの?」
「ああ、王城にいる、俺なんざ足元に及ばねえ位の極悪非道なお方よ。お前は知らんだろうが、三年前に起きたマリティマの乱で、部隊を率いて国中を震え上がらせた御仁でな。今でも一部の貴族は旦那の顔見ただけで、逃げるぐらいよ」
「そのようなお方と、シアム様はご友人というわけですのね」
「え、ええっ? ご、ご友人……っ? じゃあないよ! うん! 全然ご友人じゃないから!」
「そうですの? ご一緒に旅をなさっているほど、仲が良いように…」
「それ無理やりだから! 確か無理やりだったから!」
「まあ、そうですの」
「う、うん、そう! そうそう!」
恐るべしアキュアさん。あのフリギアとご友人だなんて、おっそろしいこと、純粋な目して言わないで欲しい。
「しかし、丸ごと全てご存知とは流石に有り得ねえな…だが、向こうの婚約者はアンスリム……知られている、か? 当然その可能性は……先の件も掴んでたしな……とはいえ俺のことを……」
慌ててアキュアさんの言葉を否定してる僕の一方で、視線を下に彷徨わせ、珍しく真剣な顔で考え込むフェノ。
そうしてれば、立派でマトモなお貴族様に見えるっていうのに…アキュアさんも、滅多に見ないフェノの表情をまじまじと眺めてる。
しばらくして、僕とアキュアさんに見られてたことに気付いたみたいで、フェノがニンマリと笑みを浮かべる。
「おっと悪い悪い、折角の観光だっていうのによ。そうだな、詫びに屋敷に戻ったらお前が好きな服飾の店にでも行くか」
「まあ! 本当ですの?」
「勿論よ、分かったな、下僕一号君」
「あのさ、まだソレ、続けるつもりなの?」
「ソレが何なのか馬鹿な俺には分からねえが、しっかり覚えておけよ、シアム君、もとい下僕一号君?」
「はいはい…」
それにしても、なんで狭い馬車で、なんでこんな性格歪んだフェノと一緒にいないといけないんだろ?
向こうにはサファレが乗ってる馬車があるし、他にも護衛の人が乗ってるっぽい馬車とかもあるのに。
「今からでもいいから、向こうの馬車に乗せてくれないかなあ…」
「アキュア、今までお前には大分不自由させてきたな。ああ、下僕一号君、君もよ」
「そんなことありませんわ! 私フェノ様がいれば幸せですわ」
「不自由なのは今だよ! 過去に君と大変な思いした、とかそんな記憶とかないし!」
「俺とお前、最初の観光場所が鉱山なんて、しみったれた場所で悪いな。大した人間がいるわけでも、面白いモノがあるわけでもないのにな」
「心配なさらなくても、私はとても楽しんでいますわ」
「僕は十分面白いし楽しみにしてるけど。けど…けどさあ……」
一応仕事らしいフェノと、鉱山楽しみで仕方ない僕はいいとして。
一番退屈なのは、仕事にも鉱山にも興味ないアキュアさんだと思う。しかも、僕と同じで囮っぽいし。
それでも、フェノと一緒にいれば楽しいって笑ってるのが、なんかもう、フェノの性根が腐ってるのが分かるというか、なんというか。
「くくっ、そうだな、下僕一号君。無事に辿り着ければいいなあ?」
「僕何も言ってないんだけど」
「このままだと退屈だしなあ、刺激の一つや二つ欲しいもんよ」
「僕はいらないし。平穏無事に到着して欲しいって全力で祈ってるんだけど」
「さすが下僕一号君、ご主人サマの無事を第一に願うとは、中々殊勝じゃないか」
「誰もそんなこと言ってない!」
でもって、この発言。どっかの誰さんを尊敬しているのか、はたまた性格なのか。
どこまでも嫌がらせを忘れないフェノは、立派だと思います!
とりあえず…
すいませんでした。
以上。




