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第118話(欺)

「だからさ!」

「そうだな」

「なにも、殴ったり蹴ったりすることないじゃないか!」

「そうだな」

「ちょっと一言言ってくれればそれだけで済んだ…ってフリギア! 聞いてるっ?」

「ああ、そうだな」

「聞いてないよね!」


 全力の叫びに対して、すまんな、だなんて返すけど、これっぽっちも感情が篭ってないし謝罪の言葉を放ったフリギアの視界に、僕は入ってない。

 当然のように机に向かって仕事っぽいことしてる、人でなし対応中。


 あれだけ、人をボロクソ言って、ボロボロにしたくせに……!


「気持ちが篭ってない! 僕どれだけ酷い目にあったと思ってるのさ!」

「そうだな」

「今度こそは、ちゃんと謝ってもらうからね! ってだから聞いてるっ?」

「まったく…」


 怒れる今の僕は、ミノアちゃ…ミノアたちが用意してくれたドレスから、ごくごく普通の服に着替えさせられてたり。

 髪飾りなんかも取られて、何かこう、全身が軽すぎて、どうにも落ち着かない格好。


 そんな、そわそわしつつ怒ってる僕の前で、フリギアはようやく手を止めると、大層面倒くさそうに、一つ頷く…っていうか頷くと見せかけて溜息吐いたの、見逃してないからね!


「喚くな。お前のその喧しい声が、聞こえてないわけがあるまい」

「じゃあ、今回はちゃんと謝ってよ! じゃなきゃ、せめて反省してよ!」

「そうだな」

「……へっ?」


 言えば、わりと真剣な顔で同意してくれたり。これって、もしかして…


「少なくとも人気の無い場所か、地下牢で矯正すべきであったと、反省はしている」

「……その、フリギアさ、それちょっと違う方向の反省だと思うんだけど。しかも遠慮して欲しい感じしかしないし」


 折角、ミノアとカトレア様と、楽しく三人でお茶したり、ご飯食べたりお喋りしたりと、色々やってたのに…だなんて思返していれば、これだ。

 地下牢、とか矯正、だとか、恐ろしい言葉を平然と吐いてきて、それが冗談に聞こえない。


「我ながら、軽率であった。すまんな、シアム」

「そこ謝られても困るんだけど…軽率で良かったよ。でも、地下牢に入れられるようなこと、してないと思うんだけど、僕」

「確かにそうだな。地下牢など入れようものなら、加減出来ず、お前を殺していたかもしれん」

「…それってさ、冗談、だよね?」

「何故冗談を言わねばならんのだ?」

「……………そう」


 さらっと他人事のように言わないで欲しいんだけど。しかも、その諸々の暴力を受けてた当人の前で。


「まあ、怪我は治してもらったから、いいけど」

「カトレア様の優しさに感謝しておけ」

「そりゃあ感謝してるけとさ、そもそも、誰かさんが僕に暴力振るわなきゃ良かっただけじゃん」

「そうだな」


 ちなみに、フリギア曰く手加減してくれた暴力による怪我は、カトレア様が完璧に治してくれたり。

 さすがドラゴンの怪我さえ治しちゃうカトレア様、あっという間に僕も元通りになって、しかも間近で治癒魔法を見れたから、そこだけは良かったとは思う。

 なんか、ほわあっ、て光ったと思ったら、一瞬で腫れも痛みも痣も引いていって……隣で見てたフリギアも、軽く驚いてたし。


 そんなわけで、僕に残ったのは、楽しく過ごしたここ数日間の記憶と、若干地獄めいた記憶だけで…………できれば、後者も癒して欲しかったデス。


「うん、もうさ、フリギアが僕に対して酷い態度とったり、謝ったりしないのは、いつものことだからいいとしても」

「そうだな」

「……僕はいいけど、アザレアさんとっても怒ってたよ。ドレス、あんなに汚してどうするつもりなんですかっ! って。髪飾りとかは無事だったけど、フリギア、ドレス足痕だらけにしたからさ」

「ドレス、か。先に謝罪はしたが、後ほど再度謝罪しておかねばならんな」

「カトレア様はなんでか怒ってなかったけど、あのドレス、カトレア様とミノアが二人で一生懸命装飾とか考えてくれたやつだよ」

「そうか…」


 さすがのフリギアも、汚しちゃったドレスと、それを手にしたアザレアさんには勝てなかったみたいだ。

 珍しく、心底後悔してるっぽい顔して考え込んでるけど、それ、汚したドレスに対してであって、僕に対して、じゃあないんだよね、当然。

 分かってるし、分かってるんだけど、こう、なんか胸のもやもやが取れない…


「はあ…本当に相変わらず僕の扱い、酷いよなあ。最初はもうちょっと労わってくれたりとかして…ないっけ」

「どうしたシアム。詰まらん顔をして」

「つ、詰らない顔って! 悪かったね! 大体、それ誰のせいだと思」

「ああ、伝え忘れていたが、今日より、お前を俺の屋敷に戻す。分かったな」

「…………」


 でもって、また当然のように、僕を無視して一方的に話し始めるフリギア。


「カトレア様は何故か引き止めていたが、このような不審者を、いつまでも王城へ置いてはおけん。さすがのお前であっても理解しているとは思うが、今回のことも特例中の特例だ」

「うんさすがのぼくでもりかいしているよふりぎあ」

「そうか、なれば良い」

「そう……いいんだ」


 要所要所で僕を馬鹿にしてくれるくせに、すんごくどうでもよさそうでございますね。


「でも、僕がフリギアのお屋敷に帰れるってことは……えっと、ドラゴンの幼生だっけ? 見つかったの?」

「それは言えん。が、カトレア様の命は遂行した」

「ふうん、そうなんだ」


 お披露目会の時、確か、宝珠から解放されたドラゴンがカトレア様に望みを言ってたような…と聞いてみれば、こんな感じの答えが返ってきたり。

 まあ、一小市民たる僕がこれ以上踏み入れちゃいけない世界の話だろうし、興味あるけど、ここは冷静に、大人らしく一歩引いて…


「大層下らんことを考えている最中悪いが、任務中、お前と気が合いそうな者を見つけたのを思い出した」

「ふうんそうなんだ! そりゃあ良かったね!」


 全くこれだよ! これでこそフリギアなんだろうけど、本当に、本当に、本当に腹立つ!


「何故怒るのだ。全く相変わらず理解できんな」

「そうだね! ってわ! 何さ! ちょっと! これ!」


 不思議そうな顔をしつつも、毒舌なフリギアは僕へと何かを放り投げてくる。

 それは、右へひらり、左へひらり、と紙っぽい何かで、落ちてきて。


「わ! と! と! わ!」

「…全く、忙しない奴だな」

「忙しないとか言うけど、僕悪くないじゃん! 紙を放り投げてくる方が悪いんじゃないか!」

「どうせやることも目的もないんだろう、暇なれば行け」

「あの、僕の言うこと無視しないで…それに、暇って…あのさあ」


 どうしてこう、フリギアはとことん一方的で失礼なんだろう。僕、怒られるようなこととか、悪いこととか何もしてないのに。

 それに第一、僕にだって、やることとか目的ぐらいあるわけで。

 時間有り余ってるんだろう、みたいな言い方されて腹立つんだけど。


 そう! 例えば、ほら……その………あれ、あれで……そう…たと…え…ば……


「えっと…」

「二度も言わねば分からぬのか…」

「ああもう! 分かったよ! 暇なんだから行けばいいんでしょ! 行けば!」


 折角、何か思い出しそうだったのに! 思わず手にした紙、握りつぶして立ち上がれば。


「なんだシアム、お前、まだいたのか」

「いて悪かったね! ふんだ!」


 やっぱりフリギアは、どこまでもフリギアだった。


 ……全然嬉しくない!

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