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●第117話(欺)

※いつも通り、あらすじはイメージであり、実際の内容と異なる場合がございます。

※また、あらすじ、本文、特に後書きは予告なく変更する場合がございます。






 とっても柔らかい日差しが、窓から差し込む今日この頃。同時に、そよそよと、眠気を誘う穏やかな風が白い部屋に漂っていて。

 お庭へ続く大きな硝子窓は少し開いていて、そこから小さな影が元気一杯に飛び込んでくる。


「はい」

「まあミノアちゃんったら。嬉しいわ」


 飛び込んできたのは、勿論、ミノアちゃん。

 今日も可愛らしく、お杖さんを片手に、もう一方の手に握り締められていたのは、色とりどりの小さなお花さんたち。

 それを受け取ったカトレア様は、椅子から立ち上がると、近くの花瓶へと挿していく。


「はい」

「まあ、わたしにも?」

「うん」

「ありがとう、ミノアちゃん。本当に、可愛いお花さんたちだこと」


 背伸びして、わたしにも、一つ手渡してくれたミノアちゃん。小さくて黄色いお花が、とっても可愛いらしい。

 そんな、わたしたちの様子を横で見ていたカトレア様、同じ色のお花さんを手に、最近新調してくださったわたしの、ドレスの首元に手を伸ばして首を傾ける。


「そのお花、貴方のドレスに似合いそうね」

「そう、かしら」

「ええ。例えば、簡単に、ここへこう……どうかしら」


 何かをしてくださったカトレア様が、わたしのドレスから身体を引いて、満足そうに頷いてみせる。

 その視線を追ってみれば、首元に小さなお花さんが付けられていて、つい見入ってしまう。


「まあ……綺麗」

「残りのお花も、ここで飾ったままにしておくのは勿体無いわね…」


 折角ミノアちゃんが抓んできてくれたお花さんなのだから、押し花にしましょうそうしましょう、とカトレア様としばらく談笑してから。

 今度は一生懸命、花瓶へお花さんを入れていたミノアちゃんの背中に声をかける。


「ところでミノアちゃん、さっきまで派手な音がしていたけれど、今日もドラゴンさんと魔法の撃ち合いをしていたのかしら?」

「うん」

「やっぱりそうだったのね。お怪我はしていない? お顔に傷はない? どこか痛いところはないかしら?」

「平気」


 わたしの問いかけに、振り返ったミノアちゃん、手にしていたお杖さんを握り締めて、答えてくれる。

 とっても嬉しそうなその様子を見ていると、わたしもつい、頬が緩んでしまう。けれど、魔法はとっても危険なものだし、ちょっと心配。

 そんな気持ちを分かってくださったのか、すかさずカトレア様が身を乗り出して、ミノアちゃんの頭を撫でて撫でで言い聞かせるように、目を合わせる。


「ミノアちゃん、怪我をしたら、我慢せずに言うのよ。すぐに治してあげますからね」

「うん」

「そうよ、ミノアちゃん。カトレア様の治癒魔法はすごいんだから! ドラゴンさんのお怪我だって、なんだって治しちゃうんだから!」

「うふふ、そこまで大それたものではないわ」

「治療師の方たちも、カトレア様に追いつきたい、尊敬してるってお話ししていたぐらいなのよ!」

「あらあら、お世辞でも嬉しいわ」

「んもう、カトレア様ったら!」


 本当のことなのに、謙遜しちゃうカトレア様。本当のことなのに。

 お互いに笑いあって、ふと、ミノアちゃんの背後、お庭で優雅に宙を舞っている、綺麗な綺麗なドラゴンさんを見つける。


「あら、ミノアちゃん、ドラゴンさんが退屈そうよ。早く行って遊んであげてはどうかしら」

「遊ぶ」


 最近は、ミノアちゃんやカトレア様と一緒に、魔法の撃ち合いをして遊んでいるドラゴンさん。そのお陰で、ミノアちゃんの魔法の腕が、めきめきと上達しているらしい。

 そのうち、ドラゴンさんと並べるんじゃないかって、カトレア様もドラゴンさんも期待しているみたいで、本当に楽しそう。


「気をつけて…そうだわ、言い忘れていたけれど、お昼は久しぶりに三人で食べることができるわ」

「まあ、本当に?」

「ええ。天気も良いから、お庭で食べるのもいいわね」


 そう言って、微笑むカトレア様。

 ここ最近、とっても物騒な事件が続いているみたいで、カトレア様も毎日、お城の内外問わずにお仕事が立て込んでいるみたい。

 だから、三人でこうしている時間はとても貴重で。今日のように、こうやって、三人でいるのも本当に久しぶりのこと。


「それはいいお考えね! 三人でお昼ご飯を食べることができるなんて、何日ぶりかしら!」

「そんなに喜んでもらえて、私も嬉しいわ」


 今日のお昼は何かしら、おやつの時間も三人で過ごせるのかしらん、待ち遠しいわ…だなんて想像をしていると、頬が緩むのを止められない。

 カトレア様のお話は多岐の分野に渡っているから、それを聞くのも楽しみで。


「…あら?」


 だなんて、期待に胸を膨らませていると、扉を叩く音が、わたしたちの耳に飛び込んできたり。

 ミノアちゃんはお外で、ドラゴンさんと遊び始めたから、その軽いけれどもしっかりとした音に、わたしとカトレア様が反応して顔を見合わせて。


「誰かしら」

「は。カトレア様、フリギアで…」


 問いかけに返ってきたのは、低くて通りが良いお声で。

 それは、まさしく先日までご一緒していた、フリギア様のもの。


「まあ! フリギア様、お久しぶりですわ!」

「………は?」

「先日の報告ね。フリギア、入りなさい」

「…………失礼、します」

「外の近衛は下がらせておきなさい」

「は……」


 カトレア様からの許可を得て、普段から冷静沈着のフリギア様にしては、どこかぎこちない返事と同時に、扉が開かれて……


「……………」

「フリギア久しぶりね」


 変わらず、勇ましいお姿のフリギア様は、一度口を開いて。


「………………」

「フリギア様、ごきげんうるわ…」


 何かに悩むようにして、口を閉ざして、黙考数秒。


「カトレア様、早速で大変申し訳なく失礼であるとは思いますが、報告については後ほどさせていただいてもよろしい、いや、後ほどさせていただきます」

「ええ、いいわよ」

「それから…」

「フリギア様?」


 さすが騎士様のフリギア様。はきはきと、一息でそこまで言い切ると、大股で、わたしのところまでやって来て。


「ええと、どうかなさって?」

「……これを借りていきます」

「え……?」


 音がする勢いで、わたしの頭を鷲掴みにしたのですけれども?


「シアムさんと久しぶりに会えて、嬉しそうよ」

「そう、かしら? カトレア様、その、少し、掴まれている頭が痛いのですけれども」


 嬉しそうにしては、尋常ではないぐらいの握力で、わたしの頭を掴んでいらっしゃるような気がするのでございますが。

 ……そう、例えなくとも、みしみし、頭の中に音が響いるような握力で。


「ええ、間違いないわ」

「カトレア様がそう言うのでしたら…そうでございますの、フリギア様?」

「……失礼します」

「ええ」

「フリギア様? あの、先程から、その…」


 わたしの問いかけにも、フリギア様は目すらあわせずに、カトレア様へと頭を下げるだけ。

 そうして、部屋に入ってきた時と同じように、大股で、それでいて、わたしを引きずるようにして、部屋から出ると、静かに扉を閉めなさって。


「あだあっ?」


 人気がない廊下で、殴りかかってきましたの。


「この……馬鹿者が! 何をしているのだ、お前は!」

「だあっ? いたっ? 痛い! 痛いってフリギア! ちょ、ちょっとま、待って、って! 僕、ていうか、わたしは楽しく! 仲良く! ミノアちゃんとカトレア様と、って痛い痛い! だから少しはわたしの話を聞いあだだだだだだだあああああっ?」


 そうして、この日、城中に、僕の悲痛な叫びが響き渡ったのであったとさ。











 お久しぶりでございます、第117話でございます。続きです。

 前回、絶讃~(計)にある通り、続きは一切考えていなかったのですが、続きです。


 早速ですが、今回は、前回以上に更新が遅くなり、また、場面が飛び飛びになる、場面転換が急となってしまう可能性が高くなります。とはいえ、各種描写は普段通りの水準なので、特段困ることはないかと。

 ですが、申し訳ないです、と先に謝罪しておきます。恐らく、これから先、数十回ほどこうして謝罪することでしょう。


 相も変わらず物好きな方々、忍耐力に満ち溢れた方々、それでも構わないという皆々様、いらっしゃいましたら、これからどうぞ、色々と宜しくお願いいたします。

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