黄葉の世界樹
この世全ての魔力を生み出す世界樹。
数千年の間、樹は青々とした葉を茂らせて、世界に魔力を供給する。
豊かな魔力は資源となって人々の生活を潤していた。
その世界樹が黄葉しその葉を散らし始めたと世間が騒ぎだしてから、もう二年になる。
供給される魔力量はぐっと減り、あっというまに世界は荒れた。
二年をかけてゆっくりと枯れていく世界樹は、未だ葉は残っているもののあと数年で完全に枯れるだろうと映像の荒くなったテレビの向こうで研究者は語っていた。
●
「何度来たって返事は変わらねえぞ」
お昼時、そこそこ混雑する店内。
知る人ぞ知るって感じの、隠れ家的な飲食店。
注文されたメニューを作りながら、こちらに一切の視線を振らず芝鶴さんはそう言った。
「そこをなんとか」
僕を雇ってください。そう言い通って三日目。
芝鶴さんは成人男性で見た目や雰囲気は少し、いやかなり怖いけど、作る料理の味は絶品で彩も綺麗。
帰る家もなく空腹で死にそうだった僕に美味しい料理を食べさせてくれた。
一飯の恩を返したいと、労働力として名乗り出たもののあっさり拒否され、さらにはその日の晩御飯までもらってしまう始末。
二日目も同じように「働かせてくれ」と言い、断られ、食事を貰う。
これではもう引き下がれない。なんとしても恩を返さねば。
「雇ってあげればいいのに」
芝鶴さんの妹のベルさんが出来上がった料理を受け取りにキッチンまでやってきた。
大きくて綺麗な瞳が印象的な美少女でお店の看板娘だ。
「うちにそんな余裕はねえ」
「お金なんていらないんです! 僕はただ恩を返したいんです!」
「無給料で働いて、恩を返したそのあとどうすんだ。また行き倒れる気か?」
もっともな言い分にうぐっ、と言い詰まった。そりゃそうだ。
「飯やった上に、金を出してやる余裕はねえの」
淡々とそう言われてしまうと、もうどうしようもない。
恩返しだなんだと意気込んでいたが、結局先立つものがなければ何もできない。
「そう、ですよね。……すみません」
落ち込んでいると芝鶴さんは作業する手を止めないまま、
「表通りの牛乳屋が配達員募集してんだろ。あそこは住み込みもさせてくれる」
「そうなんですか」
「どうしても恩返ししてえなら、客としてうちに飯食いに来い」
「……!はい!」
そうして芝鶴さんは僅かに口角をあげた。
一連のやり取りを聞いていたベルさんは嬉しそうにぱちぱちと拍手をしてくれる。
「お前は早く料理をもってけ」
「……は!忘れてた!」
芝鶴さんの一声でベルさんが慌てて動き出した。