まず安心できる場所を
斧は数本の細めの木を切り倒したら砕け散った。どうやら石が合っていなかったらしい。
しかし、その木を枝に渡してなんとか座る場所を作った。
木登りはターシャもアストリッド器用にこなしていた。ビアトリクスはそれを下から見ていたが、ターシャがビアトリクスの身体をつるで縛って固定し、上から引っ張り上げる形で何とか上に上がることができた。
枝に渡した木で座る場所だけができた。基本的に王族はソファに深く腰掛ける状態で眠るので、それくらいのスペースでもなんとかなった。
木の蔓で固定する。そして、借りたナイフで下草を刈りターシャはそれを枝の上に積み上げる。そしてある程度の厚みが出たらアストリッドのドレスをかぶせ、敷物にした。
アストリッドのドレスが一番面積を持っていたからだ。
たっぷりの下草で下の枝や木の硬さも気にならなくなった。
こんもりと茂った上の枝の上にも、適当に折り取ったほかの木の枝をかぶせる。
小さな木の上の家。こんな状態でもなければなんだかメルヘンだと思うところだが。
「一仕事したら、腹が減ったな」
アストリッドがつぶやく。
先ほど食べた魚はとっくに消化したらしい。まあほんのひとかけら程度だったけれど。
「ああ、あの葉っぱは間違いない」
ターシャは目を細め、ある一定方向を見据えている。
「間違いない、木苺の木です。今の季節なら食べられる実もなっているはず」
そういって軽々と木の上から飛び降りた。
「騎士団にスカウトしたくなる身のこなしだな」
ターシャの見事な着地を確認してアストリッドはつぶやいた。
「なんだか、彼女の独壇場ですね」
「ああ、一応野外訓練をしたんだが、私もターシャには一歩及ばない気がする」
「苺苺と鼻歌を歌いながらかけていくターシャは随分と元気だった。
「私たちのドレスとコルセットもここに上げましょうか、あれももしかしたら役立つかもしれない物資です」
「まったくだ、何が役に立つかわかったもんじゃない」
アストリッドはそう言ってターシャと同じように飛び降りた。
後に残されたビアトリクスは木の上で途方に暮れていた。
先ほどやっとの思いで登ったけれど、降りようとすれば足がすくんでしまう。
ダンス以上の激しい運動をしたこともなかった。
以外に運動神経の発達したターシャと元騎士のアストリッドを見て、ついていけるだろうかとビアトリクスは不安になった。
ターシャはシュミーズを片手でつかんでたるんだ場所に苺を積みいれていた。
多少虫食いもあったが、これくらいなら軽く洗えば落ちる。
水場のある場所を見つけられてよかったと思った。
魚と苺、それに食べられる草があれば何とか生きていけそうだ。
そう考えて何かが引っかかるものを感じた。
食べられる草は生食できるものもあるが、たいていは何らかの加工をしなければ味的に大量に食べられない。
塩漬けか、あるいは茹でる。水はあるが、お湯を沸かすことは状況的に難しそうだ。
塩は論外。
先ほどから何種類か食べられる草を見つけていたのに、加工しなければ食べられない。
火であぶってもいいが、焦げて食べられなくなる可能性もある。
加工手段さえあれば食べられるものがあるのに。
新たな問題にターシャはしばらく途方に暮れた。