眼鏡万歳
最終的に三人は下着のアンダードレス姿になった。少々肌寒いが、動きやすさを考えればこれがベストだ。
アストリッドは脹脛にベルトをまいてナイフを忍ばせていた。
武器が手の届くところにないと落ち着かない性分なのだ。両足に一本ずつなのは左右で重さが違うと歩きにくいからなのだという。
本格的に寒くなればガウンタイプのドレスを羽織ればいい。そして後にはペチコートとパニエとコルセットが残った。
大量のペチコート、これは何かに利用できるのではないだろうか。
そうビアトリクスが提案した。
ペチコートと考えなければこれは大量の布だ。
けがをした時の止血に、身体をふくタオル代わりに、何かを包む袋代わりにといろいろと用途は考えられる。
そういわれてターシャはしばらく考え込んでいたが、アストリッドからナイフを借りて一枚のペチコートを引き裂き始めた。
細いひも状にし、そのひもを編んでいく。最終的に出来上がったのは靴底のようなものだ。そして靴を脱いで、その靴底を足に当てる。そして、別のひも状のもので足の甲にそれを固定し結びつけた。
「これで、この靴を履いているより、裸足よりまし程度ですけど、ね」
布でできたサンダルを履いていると、少し足が楽だ。
「薄い板状のものがあれば、より安全なのですが」
残念ながら、木を切り倒して、板を切り出すような道具は持っていない。
「すまない、同じものを作ってもらえないだろうか」
アストリッドが懇願する。
やはり、細い踵の靴で足場の悪い場所を歩くのは相当足に負担がかかってるようだ。
ターシャは快く承諾し、再び布を裂き始めた。
ビアトリクスが適当な木の皮をむしり始めた。そして枝先の細い小枝も折り取った。
「何をしているんだ?」
「ちょっとした実験ですわ」
そういってビアトリクスは眼鏡をはずした。
ほとんど眼鏡に覆われていたビアトリクスの素顔を二人初めて見た。
ほっそりとした輪郭に小づくりな鼻と唇。そしてすっきりとした切れ長な目をしていた。
どこか怜悧な印象を与える美女といえた。
「焚火はどうやるのでしょう」
アストリッドは騎士団の実習で焚火のやり方は何度かしたことはあった。
「あの、どうやって火をつけるのだ?」
火をつける道具を何も持っていない状態で、どうやって火をつけるのかわからず聞き返す。
「道具ならあります、火をつける準備だけしていただけるでしょうか」
ビアトリクスはそう言って適当に地面に小枝や木の皮をまいた。
「ちょっと待て」
アストリッドは木の枝を組みなおし、その上に木の皮を乗せた。
乾いた木の皮は火をつける火口にちょうどいい。それくらいの知識はアストリッドにもあった。
用意ができたのを確認し、ビアトリクスは眼鏡を木の皮にかざした。
光の焦点を目を細めて確認している。
「今日は天気がいいので何とかなるといいのですが」
しばらく待っていると、木の皮から煙が立ち上ってきた。
煙が上がれば、それからの要領はアストリッドのほうが慣れている。
細く息を吹きかけて、それを続けていくと小さな炎が上がった。
「太陽光をレンズで集めると火が付くのだそうです」
眼鏡をかけなおしてビアトリクスがいう。
「ナイフと火があれば、いろいろできますね」
ターシャの顔が輝いた。
「火の用意ができたなら、次は食事ですね」
ターシャは目をらんらんと輝かせて川を見た。
ぐるぐる眼鏡の下は美人。お約束です。




