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不適切な衣装は改善しましょう

 川を見つけたとターシャに伝えられて、アストリッドは川の流れていく方角を見る。

「川沿いに人の住処までたどり着けないだろうか」

「やめたほうがいいですよ、川沿い、こんな人の入っていない場所は危険なことが多いんです」

 ターシャは山岳地帯に領地を持つ伯爵の娘だ。そのため山歩きには通常の令嬢や貴婦人より相当な知識がある。

 川がまっすぐ流れていればいいが、蛇行したり、人が通れない場所を流れていたりあるいは滝で途切れていたりで、遭難する可能性が高いということは幼少期から叩き込まれていた。

「そうなのか?」

「はい、実際にそういう行動をとって、遭難した人を知っています」

 その人物は九死に一生を得たと周りの大人たちは言っていた。普通は死ぬらしい。

「迷子になったときは、あまり広範囲を動かないほうがいいらしいですわ、そう、誰かに見つけてほしい場合は」

 ビアトリクスはそう言ってターシャに視線を向けた。

 どうやら一番頼りになりそうなのはターシャだと判断したらしい。

「この川を起点として行動するのがいいと思われますわ」

「それはよろしいのですが、難点もありますよ、川は雨が降った場合増水します。そのため少々高台にいたほうがいいのですが、近くにそれらしい場所はありませんね」

 ターシャは周囲を見回す。起伏がないわけではないが、特に高い場所というのが見当たらない。

「それより、雨が降った場合、どうやって雨を避けるんだ。洞窟なんかないし」

 ビアトリクスが空を仰いで呟く。

「あの、ここ狼や熊が出ますの?」

 恐る恐るという風にターシャは訊いた。

「出てもおかしくない程度だな」

「ここはやはり、木の上で休みましょうか、建物の二階ほどの高さになれば狼も熊も登っては来ませんから」

 ターシャは適当なつる植物をむしり始めた。

「こういうもので身体を固定すれば、落ちる心配もありませんし、いい方法だと思いますよ、狼だけでなく、雨もしのげますし、身体を寄せ合えば冷える心配もありません」

 周囲は人が入らないだけあっていい枝ぶりの木が多い、女が三人乗っても大丈夫そうだ。

「あの、木に登るのでしたら着ているものをどうにかしなければならないのでは」

 そういってビアトリクスは自分のウエストをたたいた。

 確かにとアストリッドは遠い目をした。

 今は慣れてしまったが幼い頃、自分はコルセットを鎧の一種だと思い込んでいた。

 きつく締めあげれば腰を曲げることもままならないため、身体を倒すには太腿と脹脛に大きく負担をかける姿勢をとらなければならない。

 脹脛に走る激痛をものともせず微笑みを浮かべられるくらいにならなければ貴婦人とは言えないのだ。

 身体も曲げることもままならないコルセットを付けたまま盛で生活するのが自殺行為に他ならないのはアストリッドも納得できる。

「まず、服を脱ぐべきだな」

 アストリッドの提案に二人頷く。

 それぞれ協力しながら服を脱いでいく。そしてターシャのスカートの下を見て、アストリッドとビアトリクスは目を丸くした。

 二十枚のリネンのペチコートをつけていた。それでスカートを膨らませていたらしい。

 アストリッドの国ではそんなやり方は祖母の時代に終わっている。

 ビアトリクスのパニエを興味津々という感じでいじっているターシャに、ビアトリクスはため息をついた。

「若い女が不埒な輩につかまって妙な真似をされていないのは不思議だと思っておりました」

「あのペチコートに恐れをなしたらしいな」

 危ないところだったと二人は大きく息をつく。

 パニエで膨らませた、あのふんわりとしたドレスの下はすぐ生足だったのだ。もし最初にスカートをめくられたのが自分だったなら。

 そうでなかったことに、二人は神に感謝した。

パニエ、ボンブスカートを膨らませる提灯を半切りにした枠のこと。

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