終わって始まる
ものすごい勢いで馬が跳ねた。思わずアストリッドは顔を覆う。
ギリギリのところでアーサーは馬にしがみついて落馬を免れた。
しばらく暴れる馬を何とか抑え込もうと必死で努力し、馬が疲れ果てたころようやく収まった。
「あの、申し訳ありません」
だらだらと冷や汗を流しながら、アストリッドはその場から真剣に立ち去りたい衝動と戦っていた。
不可抗力、間違いなく不可抗力なのだが。
よりによって助けに来てくれた相手、それも一応最愛の夫に罠を仕掛けてしまうなんてこんなこと考えもしなかった。
アーサーは表情のない顔で周囲にいた部下に命じた。
「弓兵出よ、アストリッド以外の動くものはいるように、アストリッド、ほかの妃たちを連れて、こちらに来るように」
アストリッドは慌ててターシャを迎えに行った。
一連のことはすでにターシャの目にも入っていた。
「とりあえず、降りるからどいて」
下にいる連中に通告する。
「言っておくけど、私を人質にどうこうってやるだけ無駄だから、それぐらいなら、おとなしく投降して、命だけは助けてってやったほうがいいと思うわよ」
今までさんざん石を落として痛めつけた相手に言う。
「もう一度言っておくけど、さっさとどいたほうが身のためよ」
木の上で仁王立ちしてターシャはそう言い放つ。
そして近づいてきたアストリッドに向かって言う。
「大丈夫、アストリッド、私も一緒に謝ってあげるから」
罠を仕掛けた連帯責任をとると言ってあげると、アストリッドのこわばった顔も少し緩んだ。
ターシャは軽々と木から飛び降りる。
さっきの脅しが利いているのか一向に動く気配はない。いや、アストリッドが来てしまった以上迂闊に動けないのだ。
「じゃあ、まずビアトリクスと合流しよう」
ターシャは黒りと頷いた。
「思った以上に元気でしたね」
チャールズが呟く。
「何があったんだ?」
心底疑問という顔で、アーサーはアストリッドが歩いて行った方向を見る。
全員無事、それはありがたい、が、それでもここで何があったと問い詰めたい。
「さっきのを見る限り、うかつに動くと危ないようだな」
無事だった、それは喜ばしい、しかしなぜだろう、見てはいけないものを見たような気がするのは。
ビアトリクスのもとに駆け寄ると、ビアトリクスもするすると降りてくる。すっかり身のこなしがこなれている。
「敵が二手に分かれていると思いましたが、どうやら味方が敵を追ってきたようですわね」
ビアトリクスは薄々状況を読み取ったようだ。
「つまり、適当に追い詰めて、私たちを連れ戻して人質にしようとしたところを泳がされていたと」
夫との付き合いが一番長いアストリッドも言われて思いついたようだ。
「帰れるんならそれでいいじゃない」
ターシャの心は柔らかいベッドにと向かっている。
雨風を避ける用意があるとしてもごつごつとした木の上で寝るのは安眠とは程遠かった。
安眠できる状態でもなかったが。
「そうだな、これでお終いだ」
帰ってからまたいろいろあるが、いまこの状態はお終いだ。
三人は元来た道を帰りながら、それぞれ今後のことを脳裏に浮かべたりしていた。




