命は一つしかないのさ
ビアトリクスは木の上に座って目を凝らしている。
木の枝に周囲は遮られ、さらに刈り取った下草も積み上げられているので、周囲の視界はあまりよくない。
ビアトリクスの姿を隠すが、ビアトリクスの視界も妨げられるのだ。
アストリッドの金色の頭が見え隠れするのみ、ターシャの姿は全くと言っていいほど見えない。
しかし高さはかなり遠くまでま渡すこともできる。アストリッドからは見えない侵入者の姿もわずかながら見て取れる。
しかしいくらかかたまった人数でいる。それが二組。それぞれ離れた場所でいる。
二手に分かれるのかと思ったが、どうもそれぞれが意識しあっているようには見えない。
ビアトリクスは軽く首をかしげた。
片方が片方をうかがっているのだ。
「もしかしたら」
おそらく自分たちを拉致した連中を王太子たちが泳がせていたとしたら、いずれ王太子妃たちのところに案内させるつもりだったとしたらもう一方は王太子の手のものだろう。
なんとか顔を確認したいが、ビアトリクスの視力ではかろうじて人がいるとわかる程度だ。
なんとかアストリッドやターシャに伝えられないだろうかと思ったが、極力静かにしていろと厳命されている。
ターシャがこちらに戻ってくればと思うが、おそらく安全が確認されるまで戻ってこない。
今はここにいるということも知らせることができない。
どちらが味方でどちらが滴下ビアトリクスには判断がつかない。
籠の中の石を握り締めた。
今は籠城の時間だ。
ターシャは石を弓につがえた。
慎重に狙いを定める。兎を仕留めるのに比べれば人間は割と大きな的だ。
次は外さない。相手は完全に腰が引けている。
彼は完全にパニックに陥っていた。
安全な仕事のはずだった。衰弱した相手と死骸を運び出すだけの仕事、なのに、相手は元気いっぱいで殺意をむき出しにしてくる。
すでに一人やられた。
「あ、ああ、た、助けて」
膝が笑っている。そのまま崩れ落ちた。その頭上に石が通過し、彼を盾にしていた誰かにあたる。
「何をしているんだ、役立たずめ」
そう蹴り飛ばされたが、それでも命があった。それを考えていたら彼は立てなくなった。
彼を引き起こして再び盾にしようとしたが、必死に暴れた。
「なにをしているんだ」
目の前の醜態にアストリッドは呆れ果てた。
誰が先に行くかもめた挙句一斉に飛び出してきた。その場所にはつる草で足を引っかけやすくするための罠を張っていた。その周囲にはとがった石を撒いて、ダメージを大きくする工夫もしてある。
もつれあったまま転んで、さらにターシャの石礫の餌食になっていく。
「どうしよう」
傍観を決め込んでいた彼らは途方に暮れる。
このまま出ていけばまとめて攻撃を食らうかもしれない。
確実に殺すつもりの攻撃を好き好んで食らいたいわけではない。
そろそろ時間だ。よもや夫の顔を彼女たちは忘れているわけではないだろう。後しばらく待つことにした。
あの調子ならまだ大丈夫だろう。命は大事にしなくては。




