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空っぽのお茶会 

 離宮の一室、小さなテーブルに食べかけのお菓子と飲みさしのお茶の入ったカップが置かれている。

 その数は三セット。

 しかしそれらを飲み食いしていたはずの人物はどこにもいない。

「これは一体どういうことだ」

 シンクレア王国の王太子、アーサーは誰もいない室内を見まわした。

 いかにも重厚な黒髪の王太子は縦横に広い身体をせわしなく動かして部屋中を歩き回った。

「おかしいね、あの子は食べ物を残すなんて無作法をする子じゃないんだけど」

 そういったのはネヴァダ王太子のチャールズだった。

 見た目は平凡で、三日見なければ忘れてしまうような灰色の男だったが、その眼だけは油断ならない光を放っている。

「動かないほうがよろしかろう、アーサー殿下、うかつに動き回って大事な証拠を紛失するかもしれない」

 そういったのはアルゴン王太子、ロビンス。いかにも怜悧な印象の冷たい横顔の美男子だった。

「証拠だと?」

「いかにも、三人同時にいなくなるどんな理由があるか心当たりがあるかね、私はない。となれば第三者、この場合は第四者かな、それが彼女たちを連れ出した可能性が高い。となれば遺留品がここにある可能性がある、そのようにせわしなく歩き回って踏みつぶしたらどうするんだ」

 アーサーは鼻白む。

「とりあえず、このお茶とお菓子、適当な動物に食べさせてみないかい、多分これに薬が入っていたと思うんだけど」

 チャールズがそう言って、フォークで切り刻まれた焼き菓子を指さした。

 ねっとりとした糖蜜がかけられたいかにも甘そうなその焼き菓子を見てロビンスも頷いた。

「それがまずできそうなことだな」

 アーサーはいらだたしげに首を振る。

「まず落ち着くことだ、彼女たちはまだ生きている可能性がある」

「どうしてわかる?」

 アーサーがかみつくが、ロビンスは軽く笑って言った。

「殺したなら、ここに死体が転がっているはずだろう」

「そうだね、そうあることを信じて動くしかないな」

 それからチャールズは部下に指示を出すために出て行った。

「さて、ここはシンクレア王国の王宮内、一番できることがあるのはあなたですよ」

 ロビンスはそう言ってアーサーを見つめる。

「とりあえず同盟に対する不満分子をあぶりだす」

 アーサーはしばらく目を閉じて記憶を探る。

「我が国はアルゴン王国とは五十年前ネヴァダ王国とは三十年前、それぞれ領地争いから開戦したことがある。どちらも我々が生まれる前だが、当時を知る人間はまだ生きている。そうしたことから同盟反対を叫ぶ連中はかなりの数になる」

「確かに、うちでも似たようなことを言っている連中はいたね。愚かなことだ、帝国に滅ぼされたら元も子もないのに」

 ロビンスはため息をつく。

「誰もが合理的に考えることはできないのさ」


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