罠を設置する
結局罠を作っておくことにした。
まず落とし穴を掘り、その落とし穴に先をとがらせた木の枝を植えておくというものだ。
その枝にはビアトリクスが採ってきた毒草をすりつぶしたものをたっぷりと擦り込んでおく。
「まあ、三人しかいないから、必ずこの場所を覚えておくように」
アストリッドが重々しくそう言うと二人はこくこくと頷く。
「効き目が薄くならないように定期的に塗っとかないとね」
ターシャがそう言うとビアトリクスが任せておけと胸をたたいた。
「それじゃ、食事の準備をしますか」
ターシャが、食用の植物を用意し、ビアトリクスが攻撃用の毒草を用意するという風に役割分担を決めた。
ターシャも毒草の見分けがつくが、それでも安全を考えればそれがベストだと判断した。
「あと、殺傷力のない罠も仕掛けておかないとな」
つる草を使って足を引っかけやすくする罠も用意した。
「まあ、これで敵が引っかからず、鹿や猪がかかってもそれはそれで食料が調達できたと思っておこう」
「捌くんなら任せて」
ターシャが力強く宣言する。
もし罠に鹿や猪がかかったら、捌きたては硬いけど翌日以降に味が慣れて。
じゅるりと思わずよだれがこぼれそうになるのを必死にこらえた。
「まあ、かかるとは限らないが」
獣の類は鼻が利く、木の枝で作った杭に塗り込められた毒草の匂いをかぎ取って避けて通る可能性のほうが高い気がした。
「まあ、それはそれで危険な獣を追い払う役割を果たしそうなので良しとすることにしようか」
「いきなり夢も希望もないことを言わないでくださいよ」
ターシャがつかの夢から覚めて突っ込んだ。
「しかし二人がいて助かった。私は食用植物と、毒草の区別がつかないから」
「騎士団では習いませんでしたの?」
アストリッドが騎士団に依然所属していたと聞いていたターシャが不思議そうに尋ねた。
「習わない、騎士団は基本的に集団行動だからな、こういう技術は最初から授業にない」
ターシャは軽く首をかしげる。
戦場というものがいまいちわかっていないため、騎士団になるにはいろんなことができるようにならなければいけないと思い込んでいたのだ。
「ターシャ様、戦場となれば、大勢の人間が一斉に戦うのです、それはそれは広い場所でしかできないのですよ」
「そういうもの?」
領地と王としか知らないターシャは戦場になるような広い広い場所のイメージがいまいちつかみづらい。
「でも、王の首を採れば勝利なのでしょう、奈良、戦場につく途中の行軍中に責めるという可能性もあるのでは」
「まあ確かにあらゆる可能性を考えなければいけないだろうな、負けたら命どころか国すら危うい場合は、それに行軍にはぐれる可能性もあるし、もし帰れたら殿下にぜひお伝えせねば」
「もし帰れたらですか」
ビアトリクスが空を仰ぐ。
「絶対帰りますから」
ターシャはそう言ってこぶしを握り締めた。