攻撃は最大の防御かもしれません
ターシャはパニエを解体し、弾力性に富む骨部分を加工していた。
何度も曲げ伸ばしをしてみれば、その弾力は十分に弓として利用できそうだった。
弦になりそうなものは蔦を細く咲いてないだものを採用した。
動物の腱は弓のつるとして理想的なのだが、そうした大型の獣をとらえるすべもなく、また解体に使う刃物も日本だけでは非常に心もとなかったので断念せざるを得なかった。
適当な長さに切り落とし、弦をひっかけるための刻み目を淹れる。
弦を引いてみた。やはり弦自体に弾性がないのであまり力を入れることができない。
しかし、弓として使う本体のしなりは十分だと思われた。
しかし、飛ばすものが石となると、ターシャ自身弓は何度か使ったこともあるし、兎くらいなら仕留めたこともある。
しかし石を弓で放ったことはなかった。
そしてまず弦を真ん中で切った。
そして、ドレスを刻んで作った当て布を結び付ける。
布で石を押さえて射る動作をした。
弓自体にあたらないように角度を調整する必要性がある。どうやら確実に当てるにはかなりの修練が必要となりそうだ。
縦に構えるより、水平に構えたほうが安定がいい。
取り合えず、まっすぐ飛ばすに支障はない。後は動く的にどう対応するかだが。
そうターシャはできたばかりの弓を片手に試行錯誤を繰り返していた。
ビアトリクスが一掴みほどの草を片手にやってきた。
「ああ、お手伝いありがとうございます」
そう言ってビアトリクスの手の中の草の形を確かめていたターシャの眉がみるみる寄った。
「手伝ってくださるのはありがたいのですが、これは全部食べられませんよ」
子供のころ母親から絶対取るなとしつけられた草ばかりビアトリクスは摘んできたのだ。
「いえ、食べられますよ」
ビアトリクスはそう答えて、草をターシャから取り返す。
もしかしたら自分が知らないだけで食べる方法があるのだろうかとターシャはビアトリクスの手元をのぞき込む。
「食べることは可能ですよ、食べた後に死ぬだけです」
「それを普通食べられないというんです」
ターシャが突っ込んだ。どうやらビアトリクスは無知からそれらの草を摘んできたわけではなくよりによって選んでとってきたらしい。
「考えてみたのです、我が君達が私達を見つけてくださるのが一番いいのは間違いないのですが、ですが私達の居場所を一番よく知っているのは我が君達より、我が君達の敵ではありませんか?」
ビアトリクスは分厚い眼鏡の奥で目を細めた。
「私達はもっと自分たちの身を守ることを考えてもいいと思うのです」
ビアトリクスの言葉にターシャはしばらく考え込む。
自分たちは思った以上によくやっているが、それは相手の想定外だろう。
おそらく自分たちがある程度困窮したころに再びやってきて、何らかの条件で助けるとか言い出す可能性は決して低くない。
ターシャは自分が自作した弓を試すがめす眺めてみた。
対人間を考えた時、これの殺傷力はどの程度だろう。
「これを使えば、かすり傷でも十分ではありませんか」
ターシャの考えを読んだようにビアトリクスは手の中の毒草を指し示す。
「罠でも仕掛けておくかな」
ナイフ投げで、兎をとらえたアストリッドが獲物を片手に戻ってきた。その時には二人の話声が聞こえていたのかすぐに話の輪に入る。
「アストリッド様」
「ビアトリクス、すまない、その可能性に思い至らなかったのはうかつだった」
「いえ、私もついさっき思いついたのですわ」
「迎撃態勢を整えるのは賛成だ、ではどのような手段をとれるか」
三人は真剣な顔で話し合った。