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いらだつ男たち

 ロビンスはお菓子の動物実験の結果を聞いていた。

 やはりあのお菓子に薬が入っていたらしい。

「睡眠薬か…」

 それなら、生きて彼女たちは王宮を出たのだ。しかし、若い女がそのような手段で連れ出されたならば、命以外の危機もある可能性が高い。

 ビアトリクスはそこそこ家格が高くそれでいて学問で身を立てるものが多い権勢とはあまり縁のない家の生まれだった。

 そういうところが都合がよくて、妻に迎えた。

 物静かで、学者を大勢排出する家系だけあって教養があって物静かなビアトリクスは周囲からの評判も良く、内外からもなかなかできた王太子妃だと言われてきた。

 物静かで口数の少ないひっそりとした彼女のことを自分はあまり知らないことを思い出す。

 ひっそりとそばに控えている。空気のような女。

 何を望んでいるのかもはっきりしない。ただ、薄くほほ笑むだけの女。

 何事かあれば、古来の前例をすぐさま引き出す記憶力がいいのは取り柄だと思うが、どんな人間だったかいなくなった今でははっきりしない。

 傍らの椅子にゆったりと座り、盃をとる。

 いくら飲んでも酔えない気がした。


 アーサー王太子から連絡が入った。どうやら事態が動いたらしい。

 結局酔えないなら飲むだけ無駄と一杯だけ飲んだ酒のにおいを消すために冷たい水を一杯飲んでから、アーサー王太子のもとに向かう。

 すでにチャールズ王太子の姿もあった。

 そして足元には簀巻きにされた男が転がっている。

「これは?」

 年のころは初老に入ったほどであろうか、頭頂部から禿げ上がり半ば白くなった黒髪、かなり日焼けした荒れた肌、顔立ちは苦労が身に染みたというように疲れたやつれてしわの深く刻み込まれた男だった。

「ようやく、荷物を運んだ男が特定できた」

「それはそれは、ずいぶんと大荷物だったはずですね」

 冷ややかな一瞥をその男に落とし、ロビンスはアーサー王太子に向き直った。

「尋問は済ませましたか」

「まだと言ったら手ずから行いたいようだな」

「何もできない無為の時間よりよほどましだと思われます」

 チャールズも苦々しい顔でその男を見下ろしている。

 風貌で一番王太子らしいアーサー王太子は二人を抑えた。

「すでに終わっている、そして詳しい話は何も知らないということだけわかっただけだ。だが、荷物をどのあたりに運んだかはなんとか吐き出させた」

「なるほどね」

 剣呑なまなざしは決して温もりを戻すこともなくその手は締め上げたい衝動をこらえるかのようにわなないている。

 そうした様子におびえたのか男は簀巻きにされた状態で最大限もがいて見せた。

「すでにその場所に手勢を送っている、今はその報告街だ」

 アーサーはそう言って二人をなだめた。

「いったいどこに送られたんだビアトリクスは」

 ロビンスは唇をかむ。

「おそらくアストリッドが付いている、心配は……」

 騎士の資格を持つ自らの妻の名を呟いたが、それ以上の言葉は発せられることなく消えた。

 チャールズは来世という風に男の身体を思いっきり蹴りつけた。

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