ビアトリクスはやってみる
お湯を沸かすことができないかとターシャに言われて、ビアトリクスはしばらく考え込んでいた。
未開の原住民の暮らしという書物を何冊か読んだことはある。そうした中に鍋を使わずお湯を沸かす方法を記されていたものもあった。
川のよどんだ場所を探す。そんな場所にはあれがあるのだ。
ビアトリクスはすでに籠と化したコルセットを片手に川の中に入っていった。
川の水深はビアトリクスの膝に届かない。そして流れの緩やかな場所であれば歩くのにも困らない。
川底の泥を掬い取る。この泥がターシャの望んでいたものの材料となるのだ。
たっぷりとそれを掬い取ると、まず、それを成形しやすいように、ターシャのべちこーとの上に開けて水けをとる。
「これは一体?」
興味津々といった風にターシャがビアトリクスの手元をのぞき込む。
「これは粘土です。ああいうよどみにきめの細かい土が沈んでいるんですよ」
水けをきりながら、小石などが入っていないか粘土の中を描きませて確かめる。
適度に水分が抜けたころ、ビアトリクスはターシャに焚きつけに使う木を探してきてもらった。
枯れ枝がこんもりと用意される。
ビアトリクスは地面に穴を掘り、大き目のボウルほどの穴を空けた。
そして用意のできた粘土を穴の中に丁寧に塗り込んでいく。
「何してんの?」
ビアトリクスの行動が理解できず、ターシャは用意してきた焚き付けをどうしようかと立ち尽くす。
アストリッドは寝床にしている場所をもう一度整備しなおしていたのだが、二人が何をしているのか気になって寄ってきた。
ビアトリクスは二人の戸惑いなど気にせず十分な厚みに粘土を塗り込むと、ターシャの用意してきた焚き付けを粘土の中に積み上げていく。
そして、また燻っていた焚火から小枝に火を移し、焚き付けに点火した。
ぱちぱちと音を立てて火が燃えだす。
「粘土っていうから、土鍋を連想したんだけど」
ターシャが下を見下ろして尋ねる。
「そうですよ」
もしかして、掘り出すのか?」
火が消えたら、取り出せば鍋の形状になるかもしれないとアストリッドは考えたようだが、ビアトリクスは首を横に振る。
「とにかく、使えるのは明日以降ですよ」
そういいながらビアトリクスは焚き付けを足していった。
「そうなの」
それからターシャは取っておいた苺があることを思い出した。
「とりあえず、苺を食べよう」
そういって三人で苺を分け合って食べた。
それからビアトリクスは何度か薪を足し続け、一晩おいた。
まだ燻るそれをしばらく放置するように言い置いて、再びターシャとアストリッドは食料探しを続け、ビアトリクスは木の枝でこんもりと積もった灰を取り除き、そこにひび割れがないのを確認した。
最終的に出来上がったのは、土のくぼみに陶製の覆いができたものだった。
「これをどうやって火にかけるんだ」
アストリッドは本当に不思議そうに聞いた。