気が付けば森の中
思い付きですよ。
木漏れ日はキラキラと輝き、鮮やかな緑が目に美しい。
足元を見れば草地に小さなかわいらしい花が見える。なんてうららかな光景だ。
しかし、周囲はうっそうとした森。道らしいものは全く見えない。
「どうして私たち、こんな場所にいるの」
そう呟いたのはアストリッドだ。褐色に近い金髪を大振りに結い上げて、高い背に女性にしてはやや横幅がある。それもぜい肉ではなくかっちりとした筋肉だ。
女性騎士だったという前歴はたっぷりとしたドレスでも隠し切れない。
そして、優雅な舞踏会にでも着ていくようなガウンドレスはこの風明光美な景観から激しく浮いていた。
袖口から垂れる豪奢なレース。たっぷりとひだをとった膨らんだスカート。
それは大自然の中では不自然極まりなかった。
長い黒髪を結い上げたビアトリクスは顔の半分を隠す眼鏡を押し上げて周囲をうかがう。
「建物は見えませんわね、いつの間にこんな郊外に来てしまったのでしょう」
この風景を見る前の最後の記憶は都市の中心部にいたはずなのだ。
ビアトリクスも優雅なドレス姿だ。膨らんだ袖には宝石が縫い取られ、きゃしゃなかかとの高い靴を履いている。
「あの、ここどこかわかりますか?」
おずおずと聞いたのはこの中で一番小柄なターシャだった。
見渡す限りのうっそうとした森の中やはり豪華なドレスを着こんでいる。
ずっしりとした錦織のドレスは重厚過ぎて、小柄なターシャはドレスに切られているような印象を受ける。
柔らかな栗色の髪と栗色の瞳がどこかリスを思わせるかわいらしい少女だ。
そんな彼女はおずおずとアストリッドに詰め寄った。
ここがアストリッドの母国である以上当然の質問だ。
しかし、アストリッドにも大体の見当はつくが、正確な場所はわからなかった。
「おそらく、都の西南の森だと思うのですが」
森は弧を描く形になっており、そのどのあたりか知らなければ例えば太陽や月、あるいは星などで方角を確かめたとしても人里にたどり着くことはできない。
「これはやはり、帝国の仕業なのでしょうか」
ビアトリクスが眼鏡を押し上げながら呟く。
彼女たちの国が仮想敵国としているダンバッハ帝国。その脅威に対抗するためアストリッドの母国シンクレア王国、そしてその二つの隣国アルゴン王国とネヴァダ王国との同盟締結のためそれぞれの王太子がシンクレア王国に集結した。
そしてその妃が、アストリッド、そしてアルゴン王太子妃ビアトリクス、そしてネヴァダ王太子妃がターシャだった。
森の中で我に返るまで、彼女たちは王宮の中の離宮にいたはずだ。
「いったいどうやって私たちを連れ出したというのでしょうか」
ビアトリクスがそう言ってアストリッドを見る。
アストリッドとしても肩をすくめるよりほかはない。
「まさか、離宮に努める者の中に帝国の間者がいたなどと、考えたくはないのですが」
そう言って言葉を濁す。
そして見上げた空は嫌になるほど青かった。