サプライズ②
-クロ-
ボローニャが杖を構えて、私も身構える。
ボローニャは空に土魔法で作り出した石弾をうつ。
あの石が落ちると同時に決闘が始まるようだ。
「後悔させてやる」
ボローニャは精神を統一させている。
決闘の開始の合図と共に最高のコンディションで戦い始められるように。
しかし、私にとって決闘に勝つことは目的ではない。
あくまで勝利は前提、相手の心をおり、屈服させることを目的とする。目的を達成するために、どうすればいいか。
それだけを考えている。
バキッ、と音を立てて決闘が開始した。
まだ考えがまとまっていないというのに。
両者の距離は10数メートル、魔法を使うのに適した距離だ。
「鋭き土の力、『地の槍』」
ボローニャの魔法により、足元から夥しい数の土の槍が飛び出してくる。
魔力を籠めた震脚で強引に相殺する。
ボローニャの方に視線を移すと、いつの間にかバックステップしながら次の詠唱に入っている。
そういえば、ハナ様は詠唱せずに魔法を使っていらした。
今度は詠唱による魔法も妖精に教えさせましょうか。
「地よ、火よ、異なる力を束ねて敵を射て『溶岩の弾矢・十六柱』」
距離を更にあけながら魔法の矢を放ってくる。
合成魔法、使い手は最近多くなっていると聞いていましたが、こんな近くに居るとは思いませんでした。
反発するはずの力を融合させることで、二つの属性の特徴をもつ魔法、それが合成魔法。
燃やす性質と粉砕する性質を合わせた威力重視の属性、矢という貫通性重視の魔法、それが十六発はすこし堪えますね。
両手に魔力を集め、十六発の一つ一つに合わせて化勁をつかっていなして逸らしていく。
さらに、詠唱をして魔法を構築していく。
「光と火、交わり、反発せよ『閃光爆弾』」
光と爆風がボローニャに降り注ぐ。
詠唱の途中に察知したボローニャは素早く『地の守り(アース・シェル)』で全身をおおって回避している。
『地の守り』は地面を伸ばして半球状にし、外部からの攻撃を遮断する魔法だ。
光と爆風の両方を同時に防がれたり
しかし、視界は封じた。
縮地法で距離を縮め、『地の守り』に接近する。
このまま『地の守り』ごと発勁でぶちぬく。
「『地の槍』」
ドーム状の土から、無数の槍が生えてくる。
勢いを殺しきることは不可能と考え、思いきり飛んで力のベクトルを前から上へ変更する。
ボローニャは千里眼も使えるようだ。
なかなかに優秀な魔法使いだ。
「火よ、散れ『爆発』」
空中で爆破魔法を使い、自分を吹き飛ばして急下降する。
魔力は右足の中心に集め、全身にも薄く纏う。
蹴りで『地の守り』を引き剥がし、ボローニャをたおす。
突然、『地の守り』が自ら裂ける。
そこでボローニャは魔法を構築していた。
「火よ、地よ、そして闇よ。
混沌なる力を闇のもと束ね、全てを喰らい尽くせ『混沌の暴食』」
三つの異なる魔力による合成魔法。
それは漆黒の球体。
クロの危険感知システムがフル稼働する。
身をくねらせ、爆破魔法を使い、空中を蹴り、全力で回避する。回避しても、その球体は追ってくる。
「降参しろ、さもないと喰われるぞ」
ボローニャはだらだらと大粒の汗を額に浮かべながら呼びかけてくる。おそらく、この魔法は制御にすら大量の魔力を食らう。触れたもの全てを喰らい尽くす闇の塊。
考えがまととまった。
これを見事破壊して見せる。
それが、ボローニャの心を屈服させる方法だ。
「光れ『閃光』」
一瞬の閃光に、球体は反応した。
闇と光は属性の中でも特に反発し合うもの同士。
闇の塊では、光を喰うのに時間がかかるようだ。
距離が空いた。
構えを正して、闇の球体と向き合う。
迫ってくる球体をこれから破壊する。
先ずは震脚、次の一撃に繋げるためのステップ。
そして、光魔法と純粋な威力をのせた貼山靠を闇の球体に叩きつける。
「吹き飛べぇえええええ!」
魔力をのせた中国武術。
ハナ様の目指す武術をそのままぶつける。
『混沌の暴食』は光に浄化され、魔力を受け取りきれずに消失した。その残った魔力は地面を抉りとり、クレーターと化していた。
よし、勝った。
ぐっとガッツポーズをとる。
やはり、ハナ様は天才だ、素晴らしい破壊力。
『混沌の暴食』ごと地形を変えるほどの威力だ。
おっと、ボローニャ様はどうなったのかしら。
近くに見当たらないので、キョロキョロ見回すと、巻き上がった土に埋っていた。
「あのー、大丈夫ですか?」
「わしの最高魔法が通じんのか。
一体どうなっとるんじゃ、どうなっとるんじゃ」
ぶつぶつとうわ言を口にしてらっしゃる。
ボケるなら屋敷で芸を披露してからにしていただかければ。
「ボローニャ様、素晴らしい魔法でした。
三属性の合成魔法など初めてみました。
それほどの魔法ならば、きっと楽しませて下さるでしょう。
さぁ、我が屋敷に来る用意を為さってください」
出来るだけにこやかに、出来るだけ褒めることで自尊心を取り戻させつつ、屋敷に招待する。
合成魔法、ハナ様はきっと興味津々になるでしょうね。
喜ぶ顔が目に浮かぶ、顔がほころぶ。
「わしの魔法が面白い、か。
とんでもない化け物にあってしまったのかのう。
ここは言うことを聞いておいた方がましか」
ボローニャ様はしぶしぶと頷いてくれた。
素晴らしい誕生日になりそうです。
「はい、それでは一週間後に迎えに来ますので、準備の方、よろしくお願いしますね」
パンパン、と服についた埃を払い落とし、小さく御辞儀をして去る。これから帰って夕食の準備をしなければならない、まったくメイドは忙しい。