サプライズ①
クロが主役のストーリーです。
-クロ-
もうすぐハナ様が1歳の誕生日をお迎えになる。
この一年でハナ様は異常なほど成長なさったり
一歳にすらならない身で、会話が出来、その足で歩き、更には魔力の操作までしていらっしゃる。
最も、魔力の操作は妖精に習っていらっしゃるようだが。
私がいない間に書斎に誰か入った形跡があったので、妖精に問い詰めると、ハナ様が訪ねているらしい。
「ああ、できることなら私が教えて差し上げたかった!
でもだめ!私はメイド!必要以上干渉してはいけない!」
生後一週間の頃だっただろうか、初めて本を読んで差し上げたとき、あの笑顔、笑顔、笑顔ふぅぅぅぅ。
笑顔に我を忘れた私は大失態を犯した。
クールで知的なメイドのはずが、寸劇に興じてしまった。
あのときのことは寝るときに思い出しては悶える。
そして、私はハナ様と距離を置くことを決意した。
家事はしっかりとこなし、書斎にこもって千里眼の魔法で見守る。
ハナ様の行動を見守り、幸せに過ごせるように根回しする。
ハナ様は妖精との会話を楽しみにしている。
なので、気にならない程度に出掛ける回数を増やした。
しかし、妖精が気に入られているのが気にくわないので、ハナ様と会話する度に風魔法で煽ってやった。
また、ハナ様は武術の修練をし始めたら、
その本をハナ様が寝ている間に読み込み、ポイントのページが開くようにクセをつけた。
気づかない所で足運びがずれていることに気づいたので、妖精にいって助言させた。
最初は不審がっていたが、修正することで目に見えて動きがよくなったことに気づくと、妖精に更に信頼を寄せた。
気にくわないので、水魔法を鳥かごの上からかけてやった。
そして、ハナ様の誕生日が一週間後に迫った。
ノエル様と一緒にとある計画をした。
サプライズパーティーだ。
ノエル様にはハナ様をひきつけていただき、その間に準備を進める。
ハナ様は屋敷中を歩きまわっているか、武術の修練をしていらっしゃるので、パーティーグッズを隠す場所が必要だ。
そこで、近くの町の倉庫をひとつ借りた。
ハナ様はまだ家からおでかけになることはないので、これでひと安心だ。
次は、パーティーグッズの用意だ。
出来るだけ盛大に祝ってあげたい。
そこで、町の住民の皆様にに相談したところ、野菜やお肉などの食材をたくさんいただいた。ノエル様の普段の行いの結果だろう。
だが、ハナ様はまだ一歳児、料理はそれほど多く食べられない。なにか別の方法で楽しませてあげたい。
町の住民の皆様はこのまちに凄腕の曲芸師がいるとおっしゃられた。しかし、その人物はとても気難しいので、町の皆様ですら最近は関わりが薄いそうだ。
これでは雇えるかどうかわからない。
とにかく、その人物の家に案内していただいた。
町の端に構えた家は、無骨で飾り気がなかった。
とんとん、と木で作られたドアを軽くノックする。
「クロ・アカバと申します。
ボローニャ・ベアクロー様はいらっしゃいますか」
待つこと30秒ほど、ドアがきぃ、と開く。
家の中から赤髪を短くし、髭を生やした体の大きな中年の男性が現れた。
「チッ、帰れ」
扉が壊れんばかりの音を立てて閉められた。
無骨な家の前に、メイドが一人。
とんとん、と軽くドアをノックする。
「あのー、ボローニャ様はいらっしゃいますか?」
ドン、とドアが向こう側から蹴られる。
取りつく島もない、といった様子である。
落ち着くの、ここでドアを吹き飛ばしたら絶望的だわ。
「死ねぇ!」
魔力で強化した腕は容易くドアを貫く。
そして、そのままドアを引き抜く。
家の中で男は呆然としている。
「大変、ドアが壊れているわ」
「ふざけんな!お前がやったんじゃろうが!」
「まぁ、証拠もないのに決めつけですか」
なんて失礼な男だろう。
いきなり帰れといった次には濡れ衣を着せてくるなんて。
きっと他人との関わりを絶つ内に礼儀を忘れてしまったのだわ。
「てめぇ、表に出やがれ!」
「いいでしょう、貴方を教育して差し上げますわ」
やれやれ、なんとか会話が出来るように成りましたね。
あとは、無理矢理にでも引きずっていくつもりでいけばなんとかなるでしょう。
ハナ様、待っていてください、クロが必ず最高の誕生日にして差し上げますわ。