密会
初めて見た妖精。
抱いた感想は綺麗、の一言だ。
キラキラと輝く火の魔力を人の女性の形にしたモノ。
手を近付けると仄かに暖かい。
「あら、積極的ね。貴方、詩的なのね」
妖精はクスクスと笑う。
妖精は魔力の塊なので、人の思いを魔力から感じ取る、と本にかいてあったが、本当のようだ。
「そうよ、考えてることは全部筒抜けなんだから」
こちらが話していなくても会話が成り立つ。
まだしゃべれない俺にとっては都合がいい。
今まで、本を読んで貰うこと位しか暇潰しが無かったので、とてもよい話し相手を見つけた。
「そうね、私も貴方と話せるのは楽しいわ。
心が読まれるのを全く怖れない人間は初めてよ」
寂しげな笑みを浮かべる。
複雑な事情があるのだろう。
(なぁ、何でここにいるんだ?)
声に出さず、頭の中で念じてみる。
「この家、メイドがいるでしょ?
私、あの子に惚れて着いてきたんだけど、逃げ出さないように鳥かごの中に入れられちゃったのよね」
クロが妖精を閉じ込める?
クロは普段書斎に閉じ籠ってるのは、妖精に会うため?
いや、それよりも気になることがある。
(その鳥かご、壊して逃げればいいじゃん)
「別に、この生活に不満はないのよ。
クロ、と話すのも嫌いじゃないわ。
欲望に素直な子で、魔力についてばっかり話してる。
でも、たまにこの家のことも話すの、貴方のこともね」
(どんな風にいってる?)
「とても賢いっていってる。
本が大好きなところは、父親に似てて
母親とは目元がそっくりだから、美形になるってね」
父は本が好きだったのか。
節約家と聞いていたが、本を買うために節約してたのかな。
それにしても、おしゃべりなクロは少し見てみたい。
といっても、クロも生活しているうちにボロは多少出ているし、その内にもっと打ち解けられるかもしれない。
「仲良くなれるとおもうわ。
クロは少し周りが見えなくなるときもあるけど、とてもいい娘だから、私が惚れ込む程度にはね」
(それはよかった)
「ハナー、どこにいるのー?」
「ハナ様、どこですかー?」
妖精と話している内にクロが鍵をとってきた様だ。
二人が俺を呼ぶ声が聞こえる。
(ここに来たこと、クロには内緒にしてくれない?)
「ええ、いいわよ。
その代わり、ばれない程度にここに通ってね。
クロが出掛けてると暇なの」
(もちろん。こちらからもお願いだ。)
「ありがとう。
それと、クロたちがもう来てるから、どこかに隠れた方がいいかもね」
(了解、それじゃね)
妖精はご機嫌で手を振る。
俺も手を振る。
背を向けて、ノエル達のいる方に向かう。
適度に近づいた所で、その辺の本を一冊抜き取り、読む。
「あ、こんなところにいたのね、ハナ。
まぁ、本を読んでいるの?」
ノエルに発見される。
本を読んでいる俺を見て、驚いている。
クロに読んでもらった本を熟読したお陰で、基本的な言葉は読めるようになっている。
この世界の言語は、発音は日本語なのに、文字はまるで違うので、翻訳するのに手を焼いた。
「ああ、ハナ様、お怪我はありませんか?
普段は私しか入らないので、お屋敷ほど整頓出来ていませんので、埃がたまっているので不快でしょう。
早くここから出ましょう」
クロは俺を抱き抱えて、ノエルと一緒に急ぎ足で書斎を出た。
クロは妖精の存在を、ノエルと俺に隠しておきたいのだろうか?
ノエルや俺はそんなに信用ないかねー。
胸が少しだけざわついたのは、埃が不快だっただけではない、とおもう。