初体験
生まれてから3ヵ月がたった。
なんとか這って動くことが出来るようになった。
ベッドの中でハイハイしていると、ノエルが驚きの声をあげた。
「ウチの子最高っ!天才かっ!」
テンション高すぎてうるさいが、ベッドから下ろしてくれたことには感謝する。これで、家の中を自由に動ける。
部屋に積まれた本をドアの側につみ、ドアノブを回して部屋の外に出る。初めて部屋の外に自分から出た。
人の理性は魔力を拒む。
なので、能動的に魔力を吸収するには訓練が必要だ。
だが、感情ごと理性をなくせば、魔力を取り込める。
さらに、魔力を取り込むことで魔力の流れを掴める。
何も考えないようにし、魔力だけを感じる。
体に魔力が流れこみ、魔力の流れを感じ取る。
魔力の流れを辿ってみる。
次第に魔力の濃い場所にいく。
すると、書斎に辿り着いた。
書斎の中から高濃度の魔力を感じる。
しかし、書斎のドアノブに手がとどかない。
なんとかして入りたいのに入れない。
魔力を扱う方法が判ればドアが開けられそうだ。
「魔力は見えてる、これを変換出来れば…」
そこまでいって、ふと思い付く。
漂う魔力を固めれば、物理的な攻撃力があるのでは、と。
無心になり、体に魔力をとりこむ。
右拳を握りしめるようにして身体中の魔力を集め、殴る。
ドアにギリギリとおれる位の穴が開いた。
これが、魔力を操る感覚か。簡単だな。
「ああ、ハナ、大丈夫?一体なぜこんなところに?」
ドアの破壊音をきいたノエルが駆けつけた。
流石に生後3ヶ月の赤ん坊がドアを壊したとは思わなかったらしく、俺の心配をしてくれる。
こういうときは赤ん坊のフリをして泣いて誤魔化そう。
「ハナ、ベッドに戻りましょう」
ノエルが俺を抱き上げる。
このままだと部屋に連れ戻されてしまう。
なんとか書斎のドアノブに掴まって留まろうとする。
「書斎に行きたいの?本が好きなのね。
わかったわ、後で部屋に持っていってあげる」
ノエルはやはり勘違いしている。
下手したら部屋から出してくれなくなるかもしれない。
俺の好奇心を満たせなくなってしまう。
必死にドアノブを掴んで留まろうとするも、赤ん坊の力ではかなわない、引き剥がされる。
「奥様、どうかいたしましたか?」
クロが話しかけてくる。
水を川から組んできたのだろうか、その手にはバケツを持っていた。
ノエルの気が逸れた隙にドアノブに飛び移る。
腕の力が足りずにべちゃっと地に落ちるが、そのまま穴から侵入する。
「クロ、書斎の鍵を持ってる?」
「寝室にあります、今取ってきます」
二人は俺の入ってきた穴からはいるには体が大きすぎる。
もう一度集中して魔力の流れを辿る。
すると、書斎の隅に鳥かごを発見する。
「あら、可愛い赤ん坊が何の用かしら」
虫かごの中には燃えるような赤色をした妖精がいた。