把握
俺が生まれてから1週間がたった。
俺の名前は、≪ハナ・アカバ≫になった。
可愛らしい名前だ。
俺には父がいない。
権力争いのなかで死んだらしい。
そんなわけで、俺は貴族だが、権力はあまりない。
ただし、財力はある。
父が倹約家であったためだ。
メイドは一人しか雇っていない。
家も豪邸と言うほどではなかった。
実家の一軒家と同じくらいで、書斎が後から付け合わされたようにくっついて異質な感じを出していた。
家業はもっぱら土地転がしで、地域の民に格安で貸出、恩と金を回収する。
もっとも、母親はそんなつもりはないのだろう。
緑の髪をゆらして、椅子にすわってうたた寝している。
名前は<ノエル>、全身からほわほわ感が漂っている。
これで、そんな賢い一面があるなら、なんと優秀なことか。
この家の唯一のメイドはとても有能である。
名前は<クロ>、褐色系で、黒髪を肩で揃えている。
この家に埃がたまったところを俺は見たことがない。
そして、ノエルが料理しているところも。
洗濯ものはいつの間にか干されて、いつの間にか取り込まれている。
そして、クロは家事を終えると書斎に移るのだ。
一日中、家事か読書をしている。
そして、俺は早くもこの生活に飽きていた。
働かなくてもいい。食事にもありつける。
しかし、刺激が足りない。
働かない、ということはすることがないということ。
食事もノエルの乳だけだ。
変化がない。
なので、クロにジェスチャーで本を読んで貰うことにした。
ちなみに、ノエルにジェスチャーすると、なぜかいないいないばぁを全力でやってくる。天然だ。
クロは書斎に行った後、なかなか戻ってこなかった。
帰ってきたとき、珍しく肩に埃がついていた。
持って来た本には、可愛らしい絵が描かれていた。
おそらく、おれでも読めるような本を探していたのだろう。
心遣いまで出来る良いメイドだ。
本の中身は、この世界の構造を出来る限り噛み砕いたものだった。この世界には、そこらじゅうに魔力が溢れている。
火、水、風、土、光、闇の属性があり、それぞれが反発し合う。
その魔力が塊になったものが意思をもち、妖精になる。
妖精は、魔力を自由に操れる。
そして、人は魔力を取り込み、魔法として放出する。
大きな違いは、取り込むか、否かだ。
取り込まない方がスムーズな上に許容量も多い。
そして、この本の主人公、伝説の勇者は妖精のように魔法を素早く、強力に放ち、魔王を倒した。
ありがちな話だが、クロは出来るだけ身ぶり手振りを加えて、盛り上がるシーンでは、もうオーバーすぎるリアクションをとった。そんなクロの普段とのギャップに笑うと、さらにオーバーになった。
ノエルはそんな様子を面白くなさげに見た後、魔王役として登場、クロはそのまま勇者役として劇が始まった。