第二次成長
-ハナ-
「ダメだ、完全に見えなくなった」
魔力を変換し続け、身体能力を向上させて追いかけていたものの、体格や魔力許容量のてんで劣る俺が更に魔法のサポートまでされては完全に勝ち目はなかった。
魔力の使用法を切り替える。
体全体の強化をうちきって、魔力の流れを感じる。
まだボローニャは走っているようだ。
「あれ、なにか違和感が、…そうか!」
魔力の流れに生じる違和感を感じとる。
どうもボローニャは魔力を周りから吸収する量が少ない。
それどころか、魔力を放出する量の方が吸収する量より遥かに多いのだ。
その原因、それは自らの体内にある魔力だ。
魔法を使うときにそのつど変換している俺のスタイルより、先に変換しておき、貯蔵しておく。
そうすることでいざというときに備えられるし、変換の過程をとばしてつかえるので、魔力を使うだけなら一瞬でいい。
「なるほど、こうやって学んでいけということか」
クロのいっていたことは的確だ。
おそらくボローニャといれば、いままでにない経験ができるだろう。
そして、あのときの合成魔法もいづれ。
しかし、今のままではボローニャと行動を共にすることすら出来ない。
まずは、体力と魔力の底上げだ。
今の俺は魔力の補助によって走ることを可能にしている。
素の身体能力を上げることで、魔力の使用量を減らすことができる。
「みてろ、今にお前に追い付いてやる!」
まずは魔力強化を切る。
自分の筋力だけでたつのは久し振りだ。
そして走る、もちろん数歩で転ける。
立ち上がってまた走る、転ける。
この動作を足腰が立たなくなるまで繰り返す。
ほかにも、腹筋や腕立て、背筋などの筋トレも限界までやった。
この世界に来てから初めてのことだった。
魔力というぬるま湯に浸かっていた俺は昨日まで、死に物狂いで上を目指す。
数時間後、完全に体が動かなくなるまで筋トレをした。
次に、ボローニャ式の魔法の特訓だ。
魔力の流れを感じる動作にはいる。
そういえば、ボローニャもクロも母さんも、魔法を使うときは名前を口にしていた。
魔法をイメージするのに名前を口に出した方がやり易いのかもしれない。
「オリジナル魔法か」
魔力を感じる、『フィール』でいいか。
イメージが重要なんだから、直感を大事にしよう。
早速、『フィール』と呟いて体内の魔力を感じる。
なんとなく、むずかゆい感じだが、強くなるためには仕方ない。
定着させるためにも、これからは使う機会が増えるだろう。
「確かにある、俺の魔力だ」
奥底の方に、手付かずでおいてある魔力。
魔力の質はいつも変換している俺のものだ。
魔力回路を通さないで使用できそうだ。
早速自分の魔力でクロの使っていた『活性の炎』をつかう。
魔力の質を変える作業が省かれ、炎を発生させる作業、炎を性質を変化させる作業の2アクションで出来るようになった。
そして、魔法の炎は完全に破壊された筋繊維を回復させる。
破壊された筋繊維は、反動で一回り大きくなる。
とても効率的な筋トレだ。
体を鍛え、魔法の練習をかねた回復、また鍛える。
これを繰り返しておけば、常人の何倍も効率よくパワーアップできる。
反面、貯蔵の魔力は『活性の炎』1発で枯れかけていた。
しかし、いつもの要領で周りから集めた魔力を吸収すると、貯蔵の魔力は復活した。
この方法でひたすらトレーニングし続けた。
筋トレ、回復、魔力吸収、筋トレ、回復、魔力吸収。
筋トレはする度に限界を更新していく。
自分が強くなることを実感していく。
ボローニャを越える日はそう遠くないぞ。
しかし、このトレーニングには穴があった。
周囲にある魔力を使い続ければ、永久的にトレーニングができる。
しかし、魔力を取り入れる度、魔力回路のろ過装置のような部分に溜まりができるので、永久にトレーニングすることは不可能だ。
『再生の炎』をとなえて回復し、魔力を取り込もうとしたときだった。
魔力を捉えた感じがしない。
魔力が回復したときの感じがしないのだ。
妖精のいっていたことを思い出した。
魔法を使いすぎるとろ過装置がつまるのだと。
たぶん、もう魔力を回復させることはできない。
寝れば治ると言っていたので、拠点を造ることにした。
『フィール』で残りの魔力を確認する。
魔力を貯蔵しているうちに微々だが、許容量が増えていた。
『活性の炎』をつかうには足りないが、火をつけるくらいなら出来そうだ。
体の方は完全に回復している。
まだトレーニングを始めたばかりなので、長距離を走ることはできない。
腕力も5、6歳時位のものだろう。
流石に木を切り倒すのは今は不可能だ。
あなぐらや巣を探して、主に取って変わるしかない。
こちらも生き死にがかかっている。
死んでも文句は言わないでほしい。
『フィール』で弱い魔力が2、3固まっている所を探す。
弱い魔物の巣を襲うってなりかわるしかない。
強い魔物や弱くても大勢群れる集団にはほぼ魔力なしで戦えそうにない。
ちなみに『フィール』はやっていることは精神統一の様なものだから、魔力は使わない。
『フィール』で察知した弱い魔力の方へ歩いくと、正体はヘルパーラビットと判明した。
木の根本に開けた穴で呑気に寝ていた。
穴の大きさは俺が入るには十分だ。
まず『フィール』で周りに仲間がいないことを確認する。
兎の数は二体、周りに援軍なし。
ヘルパーラビットは、手を出すとすぐに仲間を呼ぶ。
しかし、仲間を呼ぶ前に対処すれば、簡単に処理できる。
ノエルはラビットを殺さず、風で飛ばしただけだったので仲間を呼ばれた。
一切の良心すてて、躊躇いなく殺すことが重要だ。
そっと近づいて、一瞬で首を360°回転させる。
声を発することなく殺し、もう一度同じ処理をする。
二匹目の首を折るのに少し手がかかった。
途中で起きたようだったが、首を絞めているので声は出せない。
じたばたと暴れだしたが、なんとか首を折れた。
手に嫌な感触が残る。
しかし今日の寝床がてにはいった。
しかも、ヘルパーラビットの住んでいた木は、燃料の原料のピネの木だったので、何本か枝を集めて焚き火を作った。
しかし、ここで問題が発生した。
兎をさばいたことがないうえ、刃物なんかもない。
ヘルパーラビットを捌くことが出来ないので、そのまま火にくべて焼いた。
毛皮や骨ごと焼けて、気持ち悪い臭いがするが、食べなければ衰弱していまう。
焼け残ったヘルパーラビットの肉をかじって食事を済まし、火を消して穴蔵のなかに隠れて眠った。
今日一日だけで、サバイバルできるか不安になってきた。
また明日も食料にありつけるのだろうか。