後処理
-クロ-
あまりにも遅いので、もしやと思い隣の倉庫にいくと、ノエル様はお倒れになり、ハナ様はうずくまっていらした。
そして、二人の前にはボローニャ様かいらっしゃる。
「ノエル様、大丈夫ですか!」
聞くべきことは山程ある。
しかし、今はノエル様の回復が一番だ。
『活性の炎』を唱える。
魔法の炎は、ノエル様を優しく包み癒した。
怪我は大したことはないが、衰弱が激しい。
しばらくは安静にすべきだろう。
「いったん、屋敷へ帰ります。
ボローニャ様、屋敷にて説明をお願いします
ハナ様、歩けますね」
ノエル様を抱え、皆を促して屋敷へ戻った。
-アラバ邸
ノエル様を部屋のベッドに寝かしつけ、二人から事情をそれぞれ聞いた。
二人の話を聞いて、照らし合わせる。
「なるほど、わかりました」
ことの始まりはボローニャ様の魔法を乱発。
大きな魔力を恐れた魔物がノエル様とハナ様に向かっていったところをノエル様が迎撃。
しかし、この魔物は<ヘルパーラビット>であった。
これは、普段は大人しく、無害な魔物だが、攻撃を受けると仲間を呼ぶ習性があり、大量のヘルパーラビットはベテランの冒険者すら手こずる相手であるため、刺激すべきではない。
そして、追い詰められそうになったとき、ギリギリでボローニャ様に助けていただいたそうだ。
疲労困憊のノエル様とハナ様は、ボローニャ様がいなければ、恐らく命はなかっただろう。
「ボローニャ様、ノエル様とハナ様を助けていただき、誠にありがとうございました」
深々とお辞儀をする。
「しかし、原因をつくりだしたのもボローニャ様であることを忘れないでいただきたい」
次に責めるような目でみる。
ボローニャ様は動じていない。
「ええ、わかっています。
確かに私の整備不良が貴方に多大な負荷を与えたことも原因の一つです。
ノエル様が森へ入ってしまったことも原因です。
ハナ様が心乱していなければ、それだけで充分に追い払えたはずです。
つまり、ここにいる全てが等しく罰を受けるべきです」
落ち着いて極めて正当な言い分の様に話す。
ボローニャ様はやはり動かない。
ハナ様は自らを責めているようだ。
「ですので、過ぎた真似とは分かっておりますが、罰を決定させていただきます。
ボローニャ様には、ハナ様を引き取っていただきます。
そして、ハナ様はボローニャ様と暫く生活を共にしていただきます。
私とノエル様はハナ様と離れて生活すること」
ボローニャ様は人嫌いでいらっしゃる。
見知らぬ他人と暮らすことには人一倍の苦痛を感じるだろう。
ハナ様は悪意、殺意、恐怖といった感情に対する耐性がなさすぎる。
ボローニャ様のような人と暮らすことにより、それらに慣れていただく。
私とノエル様は愛しいハナ様と離れることで常軌を逸する悲しみと深い絶望を与えられる。
これは親離れを兼ねている。
結局全てハナ様に利があるように考えられている。
「いやだね。
俺はお前の命令を聞くつもりはないし、甘えたぼうやのおもりをするのは絶対にお断りだ」
ボローニャ様がついに口を開く。
当たり前であろう反応がくる。
昨日までのボローニャ様と違い、自信にみちあふれている。
「いいか、小娘、勘違いするなよ。
お前が俺に命令することはできないし、俺はお前の下にいるつもりはない。
いいか、俺を見くびるな」
ボローニャ様が明確な敵意を向けてくる。
いままでにない意思の強さを感じる。
何かがふっきれたような晴々した表情だ。
でも、
「気づいていないのですか、ここにノコノコと付いてきた時点で、貴方の意思は折れているのですよ。
貴方は何も変わっていない、折れたままで無様に生き続けるといいです」
決定的な事実を突きつける。
冷静に淡々と言葉を並べる。
みるみるうちにボローニャの顔がその髪と同じ赤に染まる。
激怒の赤色だ。
「いってくれるな、小娘。
なんならここでその口開けないようにしてやってもいいぞ」
「貴方は少し心が乱され過ぎる。
似た者同士でお互いの穴を埋めるといい」
激怒の頂点、素早く喉を潰す。
魔法はここさえ潰しておけば役立たずだ。
そのまま拳で意識を刈り取る。
「ハナ様、暫くお別れです。
その甘えた心は、いずれ貴方を殺します。
辛いでしょうが、耐えてください。
なにも与えられなかった私をどうかお許しください」
首に鋭い手刀をはなつ。
幼いハナ様の意識を刈り取るのはボローニャ様よりも簡単だ。
そんな弱いハナ様を痛め付けたことをきっと私は後悔し続けるだろう。
誕生日プレゼントとして用意していたペンダントをハナ様にかけようとして止める。
ここで渡すべきではない。
もっと立派に成長したときに渡すのだ。
そして、着の身着のままで二人を辺境の地に送り出した。
不安は有るが、ハナ様はきっと乗りこえるはずだ。
生まれたときから常識の外にいる人だもの。
そして、あのノエル様の息子で私の大事な主人だ。
普通や常識がハナ様捕られられる筈がない。