繭
身動き出来なくなった私は繭になりました。私が自らを保護するためにそうなったのか、外的作用でそうなったのか、定かではありませんが、私は繭になったのです。外の世界は見えるのですが、とてもぼやけているのです。耳も聞こえるのですが言葉の意味がよく理解出来ません。話すことも出来ますが言葉を発する力が出ないのです。感情というものがどこかへ去っていったようで喜怒哀楽がわかりません。痛みも空腹も感じません。ただ生かされているようでした。眠りたかったのですが、眠ることも力を要します。力がないのです。やはり、私は繭なのです。このもっさり纏わり付いている生糸を外さない限り。
あのとき、私は溢れるものを抑えることが出来なかった。なぜだかわからない。初めてだった。ディスプレイに浮かぶ無機質な文字を言葉として捉えたとたん、心が満ちてきた。ぽろぽろぽろぽろ引いてゆく。生糸がぱちんと弾け飛んで、生々しい現実の風が私を突き飛ばした。立っていることが出来なかった。たまたま波長がぴったり合ったのかもしれない。けれどあの日の衝撃を涙を私は一生忘れない。あなたの書いた文字が言葉となり魂となって私にぶつかった。それが世界で私一人だったとしても、たった一瞬だったとしても、私にとってあなたは光りだ。