Ⅳ.
(うーん、どうすれば効率よく友好度上げられるんだったかなー…)
そんなことを考えて歩いていた翔は、前方に見知った人物二人を見つけた。
「ハッ、だから万年赤点なんじゃないですか?」
「テメェはその減らず口ちょっとは閉じたらどうだコラ…」
小柄で生意気そうな顔つきの少年と、まるで不良のような風貌の少年が火花を散らしていた。
「…またか」
このことに関してだけは、彼は“上野翔”になったことを後悔していた。
まず、小柄な少年は二蛍と言い、情報通であることから情報系のサポートキャラに分類される友人。
次に、不良もどきの少年は、一清明。
サポートキャラではないが、バッドエンドに出てくることとなる親友ポジションだ。
この二人の両方と仲良くなるのはゲームでも現実でも一緒だったのだが、何せ蛍は口調こそ丁寧であるものの、毒舌家で皮肉屋。
反対に、清明はとてつもなく口が悪く勉強嫌いで短気。
そんな二人の個性がぶつかり合えば、ろくなことが起きないのは目に見えている。
実際、ゲームの主人公も苦労していたため、今の翔が苦労しないわけがないのだ。
それでも清明や蛍はゲームの登場人物であり、最初から前後の席となる清明との出会いは避けられず、蛍の情報のサポートは受けなければ上手く進められるわけもない。
また、二人とも攻略対象とそれぞれ深い繋がりをもつため、関わりを避けてはハーレムなど夢のまた夢なのだ。
「お前ら二人とも懲りないなー」
「…懲りないというか、いちいち気に障るんですよねこの主に頭の中身が可哀想な人が」
「あァ?!それはお前がいちいち突っかかってくるからだろーがこのチビ!」
「あーもうだからやめろって!」
この言い争いだけはどうにも止められない。
当然だ。
前世の翔は事なかれ主義で、友人と喧嘩もしたことがなかったのだ。
それなのに喧嘩を止めろというのは難しい。
「もー、またやってるの?」
「!三王寺さん…」
助かった、と翔は呆れ顔で近づいてきた春花を見た。
どちらかといえば単体でも扱いにくい蛍と春花は本当に小さい頃からの幼馴染である。
そして、蛍と関係性の深い攻略対象とは、春花のことだ。
ゲーム中でも、彼女を早く登場させるためには蛍との友好度を上げる必要があった。
「アンタがまた神経逆撫でするようなこと言ったんでしょ?」
「僕は別に…」
春花が言った途端に、清明を睨んでいた顔を、罰が悪そうに逸らす。
「言ったから一君が怒ってるんじゃない」
「まぁまぁ春花。清明も短気過ぎたんだし、喧嘩両成敗じゃない?」
「オイコラどういう意味だ千鳥!」
「言った通りの意味」
そこらの女子ならば睨まれて身を竦めそうなものであるが、中学生の頃から清明の数少ない友人である千鳥は慣れており、平然としている。
「ぐっ」
「清明が短気じゃないって言ったら短気の定義ってなんなのか不思議じゃない?」
「……知るか」
ケッ、と口を尖らせて憮然とした顔を浮かべる清明。
(女って強いなぁ…こんな子たち、本当に俺が攻略できんのかな…)
現実の女性の強かさに触れる機会がほとんどなかったためなのか、翔は早くも自信を失くしかけていた。