Ⅱ.
魔法と呼ばれる、誰でも超常現象を引き起こすことの出来る超科学技術が一般化された時代。
この千万高校では、生徒に魔法の知識を正しく教えたりと、近代的な授業も行われている。
その魔法の授業をはじめとした理系科目で常にトップクラスに君臨する2年生、三王寺春花。
彼女は活発そうな外見をしているものの、実際は文化部の一つ、図書局に所属している。
「あっ、春花ー!」
名前を呼びながら駆け寄ってきたのは、春花同様2年生である四月一日千鳥。
彼女は運動神経抜群であり、身軽さに最も自信を持っているため、チアリーディング部に入っている。
「千鳥。部活は?」
「今日はミーティングだけだったから、図書室行こうと思って」
「なるほどね。なら一緒に行きましょうか」
「うん」
この二人は性格や好みこそまるで違っているが、仲の良い友人同士だ。
「あっ、三王寺さんに四月一日さん」
二人に話しかけてきた男子生徒は上野翔。
「上野?貴方、帰宅部じゃなかった?」
「本当だ。上野君こんな時間まで何してたの?」
春花と千鳥が首を傾げる。
「えーと、先生に分からないところを質問しに行ってたんだ。もう帰るよ」
「へぇー。勉強熱心ね」
「本当に。私じゃ無理ー」
感心する春花と苦笑する千鳥。
二人に手を振って歩いていく翔は、人気の無い場所に来たところで複雑そうな表情を浮かべた。
(あの様子じゃ、三王寺は上がったけど、四月一日は変化なし、もしくは下がったかな…何でギャルゲーみたいに選択肢が出ないんだよ)
誰かが彼の脳内を覗くことが出来たのなら、間違いなく気でも違っているのかと疑われる内容だが、それには理由がある。
彼は、生まれ変わる前の記憶を持っている。
前世の彼は、割とアクティブなタイプの二次元オタクだった。
彼がやりこんだゲームが、今彼が“上野翔”として生を受けたこの世界を舞台とするギャルゲーだ。
攻略対象の必要とするステータスを上げながら学園生活を送り、時にはデートなども繰り返しながら最後には結ばれるものだった。
何度もクリアした大好きなゲームではあったが、彼には一つだけ不満があった。
それは、男のロマンであるハーレムエンドが無かったこと。
だからこの世に生を受けた彼は決意したのだ。
―「モテてモテてしょうがない、ハーレム状態になってやる!」
そんな思考に至ってからは、攻略対象からの好感度を上げるため、必要とされるステータスに関わる事柄について努力をしてきたのだ。
しかし、彼はこれから先、思い知ることになる。
―ゲームはゲーム、現実はそんなに甘くない、と。