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俺のやりたいことって何でしょう?

「それにしてもリファス君、本当に死んでたの?」

「えぇ…まぁ…そうみたいです」

「記憶がないってのも本当?」

「まぁ…はい」

 こうして会話だけ聞くと俺とトーカママのどちらが国王だか分からなくなってくる。

「あ、これも食べて」

「ども……」

 そう言われて俺の前に出されたのは紫色のヨーグルトのような物だった。見た目はおいしそうだ。

 俺はそれをスプーンですくって口に運ぶ。

「あ、おいしい」

 見た目からは想像も出来ないようなコリコリの食感と、フルーツをいくつもミックスしたような味で後引くおいしさだ。

「そう言ってもらえると嬉しいわー」

 トーカママはキッチンで何やらガチャガチャやりながらそう答えた。

「あ、そうだ! リファス君ちょっとこっちきて」

 俺は言われるがままトーカママの方に歩いて行った。

「ついてきて」

 因みにトーカもついてきた。



「ちょっと待ってぇぇぇ!!!」

 連れてこられた先で、真っ先にトーカが顔を赤くして俺らの前に立ちふさがる。

「なによー。旦那さんにくらい自分の部屋を見せてあげなさいよ」

「み…見せてもいいけど…五分! 五分待って」

 トーカはそう言って連れてこられた部屋の中にダッシュで入っていった。中からドン、とかゴツン、とかキュィィィンという音が聞こえてくる。中で何をしてるのか全く想像ができない。


「ささ、どーぞ」

 十分程してからトーカが中からドアを開けてくれた。

 俺は言われるがまま部屋に入った。そこは大体八畳程の広さで、白を基調とした壁紙にスライドの窓が南と西側に一つづづあり、部屋の隅にはベッド、その隣には勉強机と思われるものと文庫本らしきものがぎっしりと詰まった本棚があった。比較的すっきりした感じの部屋だ。

 初めて入った女の子の部屋で本当は思いっきり深呼吸をしたいのだが、さすがに俺にも理性はあるのでやらないでおく。

「ささ、どーぞごゆっくり。あ、ゴム買ってこようか?」

 トーカママが何故か爆弾を投下してくれた。というかこの世界にもゴムってあるんだ。

「いらないわよ!!」

 トーカの鋭い突込みが部屋に響いた。

「あ、夫婦だもんね。世継ぎ問題とかあるから基本はナマでナカだもんね」

 おっと、何を言っているんだこのお方は。

「やかましい!! いいから出てって!」

 またしても部屋に響く、トーカのキレのある鋭い突込み。

「まぁまぁ、早くシたいからって怒らないの」

「いいから出てけって言ってんだろうが!!!」

 トーカが野球ボールを投げるようにベッドを投げつけながらそう突っ込んだ。トーカママは素早くドアを閉めて、それをガードした。

 ……俺置いてきぼりなんだけど。というかなんでベッドを投げれるの? ドアとかってベッドが当たった程度じゃ壊れないのか。初めて知った。

「全くあの人は……」

 トーカはぶつくさと文句を言いながら投げたベッドを拾って元の場所に置いた。

 一つ気づいたのだが、慣れって恐ろしいな。だってトーカがベッドを片手で楽々持ち上げても、俺は驚かないんだもの。


「さて、二人っきりになったところでリファスにお話しがあります」

 え、なに? 告白の展開ですか!? ………わかってます、そんな展開あり得ないって。だって夫婦だもの。

「率直に聞きます。記憶がなくなった今でも国王でいたいですか?」

「それはどういう……」

 俺の予想に反してトーカの口から出てきたのはとても真面目な質問だった。

「今は記憶がないままズルズルと国王としてやってますが、リファスは今どう思ってますか?」

 なんて言ったらいいのか分からない。

 元々俺はニートだ。何かの手違いで大魔導士で英雄の国王として異世界召喚なんかされちゃって、美人な正室と側室がいて、可愛いペットもいてメイドもいて。

 トーカは俺に何を期待しているのだろう。『国王として頑張っていきます』って答えか? それとも『国王なんかやりたくないよ』って答えか? そのどちらでもない答えか? 俺はなんて言ったらいいんだか本当に分からない。

「リファスはこれからどうしたいですか?」

 本当に俺はどうしたらいいんだろうか。

「……いきなりこんなこと言われてもなんて言ったらいいんだかわからないですよね。時間はたっぷりありますのでそのうち答えを聞かせて下さい」

「………」

 俺は何も言うことが出来なかった。

「多分お城のみんなは、いえ、国民のみんなはリファスに国王を続けてほしいって言うと思うの。でも私はリファスのやりたいことをやってほしい」

 やりたいこと……か……。なんだろう。元の世界に戻りたいわけでもないし、この世界で何をしたいっていうのも特にない。

「しいて言うなら…何で俺が異世界召喚なんてされたか知りたいな」

 でもこれも知らなければ知らないで構わない問題だ。このままだとただ漠然とこの世界過ごしていくことになりそうだ。


「トーカ様!! リファス様!!」

 窓の外に小さな黒い鳥が飛んでいて、小さい声だけど俺達を呼ぶ声が聞こえた。トーカが立ちあがって窓を開けるとその鳥は勢いよく部屋の中に突っ込んできて、くちばしから床に突き刺さった。

 トーカがそれを引っこ抜いてベッドの上に置くと、それがいきなり焦ったように話し出した。

「トーカ様!! リファス様!! 至急城の方にお戻りください!! 敵襲です! 数は百を超えていて、どいつもかなりの実力を持っていて苦戦を強いられています!! 至急お戻りください!!」

 鳥は途切れ途切れにそう言うと、ポンと消えてしまった。

「戻ろう」

 トーカにまっすぐにこっちを見られてそう言われた俺は、断れずに頷いてしまった。

 そして俺達はトーカママにお礼を言ってから急いで城に戻った。




「マジか……」

 思わずそう漏らしてしまう程、皆さんでかくていかつかった。そこには報告の通り、百以上の数の人間(にしてはみんな三メートル近くあるが)いて、城の兵士たちと交戦していた。

 というかなんで城が攻撃されてんの? 訳わからん。反国王軍みたいなやつか?

 というか、戻ってきたけどどうしよう。怖い。俺に何ができるんだよ。

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