何故それを知っている?
「ふあ~ぁ」
俺は大きなあくびをしてから起き上がった。
「起きたのかい、リファス」
聞き覚えのある声が聞こえて振り向いてみるとワイシャツ一枚しか着ていない、狐のような耳になぜか九本もある尻尾を持った優しそうな顔をした肩までの黒い髪のスレンダーな女の子がいた。
「どちらさん? ていうかマキュリは?」
周りを見回してみてもマキュリの姿は見えない。
「僕だよ」
「へ?」
「だから僕がマキュリだよ。人に変身できるんだ」
ずっとマキュリの事はオスだと思ってた。
「記憶の無くなったリファスはこういうのは嫌い?」
マキュリは女の子座りで上目づかいをしながら頭の上にある狐の耳をぴょこぴょこと動かしながらそう聞いてきた。
いいえ、大好物です。
「いや、別に…」
思ったことを言えずに目を逸らしながらそう言うのが精いっぱいでした。
というかこっちの世界にきてから俺寝過ぎじゃね? なんか疲れてるのかな。
「僕達ペットはみんなリファスに少し魔法を教えてもらってるんだよ、それぞれ好きな魔法を。でもみんな擬人化の魔法は使えるからペットのみんな人に変身できるんだよ。それ以外にもう一つくらい好きな魔法をって感じかな」
ニコニコと笑いながらそう言うマキュリは可愛すぎて僕大変だよ。
というか獣耳とか最高。もうやばい、めっちゃやばい。リファス様よくやった。
「リファス様、いらっしゃいますかー?」
リニアの声がして俺は立ち上がってドアを開けた。ジニアからの伝言で『酷かもしれませんがそろそろ仕事してください』、とのこと。
俺はリニアのきれいな手を掴んでマキュリと一緒に自分の部屋に連れていかれる。そして訳の分からないまま部屋の奥にある執務机のところにあるイスに座らされ、ドン、ドン、ドン、ドンと何十センチもつみあがった書類の山を置かれる。
「うーわー……」
こういう展開アニメとかで見たことある。
万年筆を持たされ、一枚の書類が目の前に置かれる。
フムフム。読めねぇ。
てゆうかリファス様死んでたのになんでこんなに仕事あるの? お仕事サボってお城を抜け出してました、みたいなやんちゃお姫様みたいなことでもしてたんですか。
ていうかこっちに来てまだ初日っすよ!? そろそろ仕事してくださいとかひどすぎですよ。……え? 三日経ってる? あ、そう……。
アニメなんかで見る国王の仕事まんまだな、寝る間もなさそうとはこのことだな。
「ねぇ、読めない」
「「え……」」
俺がそう言ったらマキュリとリニアの驚きの声が重なった。まぁ普通そう言う反応するよね、トーカたちもそう言う反応してたし。やっぱ国王が主言語読めないってのはまずいよなー。勉強しないとな。
「仕方ないですね…じゃあこれを食べて下さい」
そう言ってリニアが持ってきたのは赤い色をした白滝のようなものだった。赤いから白滝とは言わないかもしれないけど。……赤滝?
「これを食べてもらえば一か月はどんな言葉も読めるようになります」
それは便利なものですね、一か月っていうのも結構長いし。
「その名も魔界777ツ道具、ホンヤクシラタキ!」
「詰め込みすぎだろ!!!」
思わず突っ込みを入れてしまった。てゆうか何で知ってるの? こっちの世界にそう言うのでもあるの? なぜその二つを合体させようと思った?
疑問と突込みが絶えないけどそんな事お構いなしにリニアは話を続ける。
「とりあえず食べて下さい、味付けの調味料は沢山あるので好きなのをどうぞ」
どこから出したのか沢山の色々な物が入った瓶がテーブルに並べられた。瓶になんか書いてある紙が貼ってあるが読めないため、適当にとってシラタキにかけようとするけどマキュリに止められた。
「リファス、それは激辛だけどいいの?」
じゃあやめときます。俺はその瓶を戻してどれをとろうか迷っているとまたマキュリに話しかけられた。
「僕のおすすめはこれかな。少し甘味があって独特の味でおいしいんだよ」
じゃあそれでお願いします。って思って俺はコクンと頷いた。
マキュリは「よいしょ」と可愛らしく瓶を開けて適度な量を振りかけてくれた。俺はお礼を言ってから皿に乗っているシラタキを取ろうとしたら、先にマキュリにヒョイと素早く取られた。そしてマキュリのふふ~んて感じのドヤ顔。可愛い。
「はい、あーん」
マキュリに素手でつかまれたシラタキが俺の顔の前にやってくる。もう、色々と嬉しくて死にそう。
俺は勿論恥ずかしくてマキュリの顔なんか見れないから少し下に目線を逸らしながらシラタキにかぶりつく。
なんか味よりもいろいろな物を感じてしまってすごく嬉しくてやっぱりマキュリの顔を見れない。チラッと視界の端にリニアの姿が入ったが、こっちが長くなると思ったのかイスに座って読書を初めてしまっている。
……なんかごめんなさい。
「おいしい?」
「う…うん」
勿論目を逸らしたまま何とか答えた。
実際は調味料の味しかしなかったけど、そこでおいしくないと答えられる程俺は勇者ではない。
「あ、ほっぺにシラタキついてる」
今の言葉に何か不思議な違和感を感じたのは俺だけだろうか? なんかリア充みたいな雰囲気だけど、ついてる物がシラタキだけにどうもそんな雰囲気になりきれない。
「とってあげるね」
「あ、うん」
リファスにそう言われてリファスの手が俺の口元あたりに触れた瞬間、何故かポン! と音がして同時にサクッという音も聞こえた。
「あ」
「ん?」
何故か目の前にキュウビの姿をしたマキュリがいて、マキュリの鋭い爪が俺の口元に刺さっていた。
「痛いんだけど…割と結構」
「……ごめんね、時間を忘れてた」
聞くとマキュリはまだ変身魔法が完全ではなく、まだ四時間しか変身が出来ないみたいだ。で、今時間になってしまったというわけで。
キュウビの姿のマキュリがトコトコとリニアを俺のもとに連れてきて口元の傷を治してくれた。
「そろそろいいですか」
リニアが白色の渕の眼鏡を外してそう言った。
スイマセン、大丈夫です。
俺の返事を待たずにリニアに執務机のとこのイスに座らされて、一枚の書類を目の前に置かれた。
「おぉ、読める! 読めるぞ!!」
一回くらい言ってみたかったんです。
「ぶふぅ!」
「?」
リニアが横で口元を押さえて笑いをこらえていた。
このメイドさん元ネタ知ってるの? なんで?
「すいません、ちょっとお手洗いに」
少ししてから、リニアは落ち着いたのかいつも道理の口調でそう言った。
少し、試してみるか。
「三分間待ってやる」
「ぶふぅぅ!」
これは確実に知ってますね。
「ちょっとやめて下さいよ……決壊してしまい…ます」
全然かまわないよ。ウソです、ごめんなさい。いや、別にウソってわけではないけど。因みに小さいのですか、大きいのですか、小さいのなら一回くらいしてるところを見てみたいと思う。大きいのはそういう趣味はないので遠慮しとこう。
……え? 変態? 違うよ僕は変態じゃないよ、仮に変態だったとしても変態という名の紳士だよ!
こうやって話してるとメイドっていうより友達みたいですごく楽しい。今まで引きニートの俺は友達なんて居なかったからすごく嬉しくて、生きててよかったと思う。本当は死んでるみたいなんだけどね。でもやっぱり、楽しくて、嬉しくて、自然と笑みがこぼれてしまう。
「あの~」
リニアがもじもじしながらひっきりなしに手を動かしながら声をかけてきた。
「お手洗いに……」
「どぞー」
「すいません」
リニアはぺこりと頭を下げてからそそくさと部屋から出てった。
「さてと」
俺はとりあえずそう呟いてから椅子に座り、机の上に置いてある書類に目を通してみた。
…………フムフム、よくわからん。
というわけでイスから立ち上がってみる。
「そう言えばトーカたちは?」
俺はきれいにお座りをしているマキュリに聞いてみた。
「それぞれの部屋で仕事をしてるよ」
皆さん案外真面目なんですね。僕も真面目に頑張ってみようかな、明日から!! (結局やらないパターン)
そう言えばここに来てから三日も経ってるのに風呂に入ってない、というわけで入ろうか。
そう思ってドアを開けようとしたらドアが勝手に空いて、リニアが入ってきた。
「逃がしませんよ?」
俺はリニアに笑顔でそう言われて、なすすべもなくイスに座らされ、そして勿論仕事をさせられた。リニアの厳しい監視の中で頑張っていろいろ覚えながら六時間程やらされました。