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「……ん」

 メイド服を来ている女性―――リニア―――は目を覚まして、自分の体が動かせない事に気づく。

 手足と腰、胸あたりを金具のようなもので壁に固定されている。口にはテープが張られている。幸い目には何もされていないので辺りを見回すことができた。が、周囲は真っ暗で良く見えない。辛うじて自分の近くには何もないことが確認できた。


 ―――怖い―――。


 それが彼女が真っ先に思ったことだった。

 何も音がしない、何も見えない、何も匂わない。そんな状況なら誰だって恐怖を抱くはずだ。

 だが彼女は恐怖を感じていたが冷静だった。

 だが全く情報がない状況で場所を特定する事など不可能だった。

 脱出することも当然考えたが、さっきから魔法が使えない。彼女が魔法を使えばこの程度の拘束を解くことなど容易い。恐らく魔封(魔法の力をとある条件下でのみ制限、又は封印する魔法)が施されているのだろう。


 ―――助けて……リファス様―――。


 この絶望的な状況の中で彼女の頬に一滴の涙が流れた。





「誰が休んでいいと言ったァァ!!」

 身長2m以上はある筋骨隆々の男が立ち上がる事のできない骨と皮だけのような小柄な男を怒鳴りつけて、鞭で叩いた。

「………」

 小柄な男は今の一撃がトドメになったようで動かなくなった。

「チッ、またか」

 筋骨隆々の男は動かなくなった男を蹴りとばした。


 この地に元々いた先住民達に今は人権などという物はない。

 男達は一日中休みなく働かされ、女子供は慰み者となっていた。労働力にもならず、慰み者にもなれない年寄りたちは全員殺された。

 この地に住んでいたおよそ九千万の人々の平穏な暮らしは、僅か百人の人間達によって約二年前に突然幕を閉じた。


首領(ドン)、商談の時間です。ご準備を」

 黒ぶち眼鏡をかけたスーツの男に首領(ドン)と呼ばれた男は、ゆっくりと立ち上がった。

「んあ、もうそんな時間か。わかった、今行く」

 鉄の首輪をつけた四人の裸の(ペット)達全員の額に軽くキスをしてから頭をなでる。

「ちょっと出かけてくるからな、帰ってきたら好きなだけ相手してあげるから待っててね」

 慈愛に満ちた瞳で見つめ、優しい声で四人にそう言って服を着てから歩きだす。

 約180cm程の身長でガタイも特別良いわけではない。男性にしては少し長い肩まで伸ばした銀色の髪にとろんと垂れた目に小さな口から発せられる声はまるで虫をも殺さぬような穏やかさを感じる。

「相変わらず奴隷にも優しいんですね」

 一緒に歩く黒ぶち眼鏡の男は彼にコートを渡しながらそう言った。

「うん? まぁ僕はあんま恐怖で支配、みたいなの好きじゃないからね。それに恐怖で支配するよりも愛で支配する方が後々やりやすいし」

 事実、とある組織ではトップからの強大な力におびえてた者よりもトップの人間に尊敬や愛情を抱いている人間の方がより良い働きをしている。

 だが、彼の言う愛情とは計算されたものだ。90%のムチと10%のアメ。倒れるまで働かせ、回復したらまた働かす。甘い言葉と少しのアメ、キツイ状況になればなるほどほんの少しのアメを求めるようになる。




「まず向かう前に敵の確認です。恐らく今回の主犯は『スイレン団』、トーカ、間違いないですね」

「おそらくね、あいつらバカだだけど強かったよ。なんせ『俺達名誉あるスイレン団はお前ごときに名乗る名はねぇ!!』って言ってたし」

 サキナが確認するかのようにトーカに聞いた。

 確かにバカだ。でもトーカを倒すくらいだから確かに強い。

「敵の確認、と言っても敵がスイレン団と分かったらそれ以上に確認することはありません」

 サキナによるとスイレン団とは闇の世界では知らぬ者はいない程の組織で、警察等もうかつに手を出すことはできないらしい。スイレン団について分かっていることはこのくらいしかないらしい。スイレン団の目的、構成人数、本拠地、などすべてが不明らしい。と、いうのが警察から発表されている内容。でも俺達の国の王族だけはスイレン団の首領と目的は知っている。

 なぜならその首領は元々サニア王国の王族だったから。そいつの名前はロンチ、かつて執事をしていた者だ。思い込みが激しいのが玉にキズだったが、仕事熱心な青年だった。

 彼の目的は蘇生と復讐。

 ドラゴンの襲撃で死んでしまった、たった一人の家族である妹を生き返らせること。現在、死人を生き返らせる魔法というのは発見されていない。少なくとも表の世界では公表されていない。それを見つけることが彼の目的の一つ。

 もう一つは妹を見殺しにしたこの世界への復讐。全てを壊すこと。

 つまり自分達以外の全てがなくなった世界で妹と二人で生きること。

 恐らく自分の部下たちには本当の事を話してないのだろう。話していたとしたらこんな大きな組織にはなってない、最後には捨てられると分かってて従う者なんていないだろう。

 彼が執事の頃に使えた魔法はたった一つ、幻惑魔法。相手に幻を見せる魔法だ。そして愛用の武器は短剣(ダガー)。彼の使う魔法に直接的な攻撃力はない。幻はあくまで幻、触れることはできない。幻を実体化させる魔法も存在しているのだが、彼は使えない。

 サキナの話をまとめるとだいたいこんな感じだ。でも今回何故俺達を狙ったのかは分からないとのこと。



 今の話を部屋の外で聞き耳を立てていた人物が一人いる。

「ムカデ、いるね」

「はい…」

 どこからともなく気配は全くないのに渋い声が聞こえてきた。

「スイレン団を三日で洗い出せ」

「御意」

 普段の彼女からは想像できない程の冷静な声で小さく言った。

「ん―――…もうこんな時間か、お風呂に入っちゃうか」

 ナナフシ夫人は浴場に向かって歩き出した。

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