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数字と哲学

「なるほど……1845-921ですか…なんですかこれ?」

 俺はさっき寝てた部屋に戻って、ナナフシ夫人からお説教を受けた。

 とりあえずシャルル以外は目を覚ましたので部屋に来てもらい、城でのことを説明した。

「1845-921……ですか……」

「何の数字なの?」

「なんだろう…なんか引っかかってるんですよねぇ…」

 唯一希望があるのはサキナだろうか。

 優愛は早々に諦めて、棚にある本を手に取り出した。トーカとサキナはずっと考え込んでいる。


 ぐ~~


 誰かのお腹が大きな音を出した。

「あ…ごめん」

 俺でした。

「そう言えばお腹すきましたね、何か食べましょうか」

 サキナがふふふっと笑った。

「何食べるの!?」

 部屋のドアが勢いよく空いて、そこにはシャルルが立っていた。

 どんだけお腹空いてるんだ、俺も人の事言えないけど。

 そのあとナナフシ夫人が食事を用意してくれた。そしてリオックさんや二人の子供たちと一緒に食事をとった。

 とても美味しかった。

 食事が終わったあと、最初の部屋に再び集まり、あの数字の意味を考え始めた。

「それ座標じゃないの?」

 でもすぐにシャルルが何気なくそう言った。

「あっ! あーあっ!!」

 サキナが思い出したかのように声をあげた。

「そうです! 座標ですよ!」

 サキナはわざとらしく大きな声をあげて、ナナフシ夫人からお借りした世界地図を開いた。

「この世界の座標は四桁と三桁の数字で表されています。1845-921、この数字だと……ここです!!」

 サキナがそう言って指をさした場所には『ヴァリアス』と書いてあった。

「ヴァリアス、通称『雷の降る地』。その地は一年中が雨季で水分が豊富な地域です。かつて水不足に悩んでいた国の国王がその地を制圧するためにおよそ三万五千の兵を送りこみました。が、僅か三日にして全滅。理由は敵の強大さもあったが一番は天候。その地では雨と同様に大きな雷や雹が沢山降っていたのです。兵士は次々と雷に打たれ、大人よりも大きな雹に潰されて生き残った唯一の兵士もその地に住む屈強な先住民になすすべなく殺されたのです」

 怖っ! やべー行きたくねーよ。でも手掛かりがそれしかないなら行くしかないな。

 行くしかないけど、流石にみんなを連れて行くなんて出来ない。

 そんなことを考えていると不意に肩をトントンと叩かれた。

 振り向いた瞬間に顔面を殴られた。

「また一人で行こうとか考えてましたね」

 ごめん、痛すぎて何言ってるか分からない。

「私達だっていつまでも貴方に守られるだけの存在じゃ無いんです」

「闘う事は怖いけど、仲間の為なら怖くはない」

「一緒に向かいましょう」

「じゃあ後は任せた」

 ………ん? トーカ、シャルル、サキナの順で喋っていってみんなで救出に向かう流れだったじゃん? 優愛さん?

 全員が優愛の方を見ている、ポカンとした顔で。

「冗談だよ、私だって戦える」

 冗談でよかった。

「戦えるって貴女…魔法使えないでしょう? 元々こっちの世界の人間じゃないわけだし」

 サキナの言う通りだ。俺は例外としても、俺が元いた世界では魔法なんて創作の中だけのものなのだから。

 優愛は自分は任せてと言わんばかりに自分の胸をポン、と叩いた。俺は知っている、優愛が陰で努力をしていたのを。


 皆の気持ちはありがたいが危険な場所だとわかった以上、言い方はきついが力がない者を連れて行くわけにはいかない。

 トーカは戦闘用の魔法を使えるしそれなりに名前も通っているから別としても、サキナとシャルル、優愛は戦闘用の魔法を使えない。

「私は剣が使えます。足手まといにはなりません」

 確かにサキナは剣が使える。その剣技は一度俺もこの目で見ているが、正直俺の目では剣閃を追えなかった。それほどまでに素早かった。

「硬化の魔法も使えます、それに奥の手だってあります」

「連れて行きましょう、彼女は確かに戦力になります」

 うんうんと唸っている俺にトーカがそう助言した。

「分かった、サキナは連れて行く」

「「私達は?」」

 俺がそう決めた瞬間に優愛とシャルルが声を合わせてぐいっと迫ってきた。

「えー………」

 俺が渋ると、二人はまるで打ち合わせでもしていたかのようにゴネた。おもちゃをねだる子供のようにゴネた。

「連れて行かないとリファスのPCの『哲学』フォルダの中身を城中にばらまきますよ」

 そして脅しか。シャルルが何故それを知っているのかは置いといて、あれが皆に知られるのはまずい。非常にまずい。

「……わかった、二人とも連れてくから黙っててくれ」

「なんですか? 哲学フォルダって?」

 トーカが純粋な瞳で俺を見つめてきたが無視しておこう。


 結局全員で行くことになってしまった。因みにドリューは強制だ。地上は危険なのでドリューに穴を掘ってもらって途中から地中で向かう。

 本来なら逃げ場が無くなる地中はいかないが、ドリューは聴覚と嗅覚が非常に優れている。およそ3㎞先の針が落ちる音も聞き取ることができるし、数百の音を同時に聞き分けることも可能だ。嗅覚に至っては、ただとんでもなく先の匂いも正確に距離までわかる、と言う事しか分からない。本人も把握していない。


 なるべく早く向かいたいが、体力も回復しないうちに向かって全滅してしまっては元も子もない。なので今日はみんなゆっくり休んでから明日の早朝に向かう事にした。

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