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不意打ち

 窓から屋敷を抜け出した俺はまず自分達の城に向かった。なるべく体力と魔力は温存したかったので、変装してから公共機関を使って城に向かった。

 城の門のところには普段いるはずの警備員の姿も見当たらない。とりあえず敷地内を歩き回って何か痕跡のようなものがないか探した。さっきは探していなかった訓練場の前に着いた。

 とりあえず訓練場の周りをぐるっと一周歩いてみてから中に入る。そして電気をつける。がスイッチに手を触れた時、何故かぬるっとした。悪い考えを振り払い電気をつける。

「……!」

 明るくなった室内は真っ赤に染まっていた。

「血…か……」

 血はあるのにけが人も居なければ死体もない。

 普通に考えれば何かしらの暴行を受けて連れ去られたってのが妥当だろう。例えそうだとしても何故連れ去った? そして何故城には誰もいない?

 あまりの血の多さに我慢していたが、耐えきれなくなって訓練場から駆け足で出た。俺はその後敷地内を隅々まで歩きまわった。結果、主に被害が大きいのは城とペットルーム、そして訓練場だった。途中花壇が壊れていたり、植えてある木が折れていたりしたが調べても何も出てこなかった。

 とりあえず俺は城の中に行ってみる事にした。何か少しでも手掛かりが欲しかったからだ。

 一階、特に何もない。二階、廊下の壁に血が飛び散っていた。でもそこまで多くはなかった。

「うん? …なんだ?」

 三階に行く階段のところの壁に赤い文字で、恐らく血で何か書いてあった。

「えーと『1845-921』……?」

 なんだこの数字は? 全く見覚えがない。とりあえず思いつく限りのことをしてみることにする。

 まずは足してみる、……2766。次に引いてみる、……924。掛けてみる、………1699245。割ってみる、………約2.003。うーん、特にピンとくる数字はない。因みに近くの部屋からペンとメモ帳を拝借した。

 全く答えが出なかったのでとりあえずその数字をメモしてポケットにしまった。

 そして三階、さっきの戦闘で壊れたところ以外は何もなかった。

 とりあえず手掛かりはさっきの数字だけ、もしかしたら全く関係のない数字なのかもしれないが、今はこれを調べてみるしかない。

「うん?」

 トーカから電話だ。あ、これは確実に怒られるやつだ。

 俺は覚悟を決めて通話をオンにする

『オイコラリファス!!! てめぇどこ行ってんだコラァ!!!!』

 普段のトーカから想像できないくらい怒っていらっしゃる。

『言い訳は後で聞くからとりあえずリオックさんの城に戻ってこいやコラァ!!! さっさと戻ってこないとお前の【自主規制】を【自主規制】してやるぞ!! この【自主規制】野郎がァァ!!』

 彼女は言いたいことだけ言って切ってしまった。あんな声のトーカさんは初めてです。漏らすかと思った。

 とりあえず俺は急いでリオックさんの城に戻った。城に入る前に防御魔法を展開してから入った。多分、いや絶対殴られるから。

 城の玄関をそっと開けるとトーカさんが鬼の形相で腕を組んで仁王立ちしておられた。

「リファス――――!!!」

 見たこともない速さで突進してきたトーカさんを俺は避けることが出来なかった。と言うか避ける必要すらなかった。なぜならいつまで経っても俺の顔面が殴られることはなかった。

「なんで…なんで…私達に黙って出て行くんですかぁ!!」

 彼女は泣いていた、俺の胸元に顔をうずめて。

「なんで…そういう事するんですか、……また…私の前から勝手にいなくなるんですか……!!」

 また…? なんのことだ?

「ごめん、みんなをもう危険な目にあわせたくなくて」

 俺は謝る事しかできなかった。

「だったら! 自分は危険な目にあっても構わないんですか!?」

 彼女は俺の目を真っ直ぐに見つめていた。大粒の涙を流しながら。

「貴方が私達に危険な目にあって欲しくないと思うように、私だって貴方に危険な目にあってほしくないんです。怪我だってしてほしくない! 死ぬなんてもっての外。……私は…私はリファスとずっと一緒に居たいの!!!」

「………ごめん」

「許さない」

「ごめん」

「許さない」

「ごめん」

「許さない」

 謝る事しかできなかった。彼女が俺を強く抱きしめるから、俺も彼女を強く抱きしめた。

 俺は本物のリファスじゃないけど、彼女の事は絶対に守り抜こうと決めた。何があっても守り抜く、誰一人傷つけさせはしない。

 トーカは俺の目を見つめながら話し出す。

「前に話しましたよね? 私と本物のリファスの結婚は親に決められた結婚だったって。サキナもシャルルも」

 俺は彼女の涙を指で優しく拭った。

「私は結婚当初はリファスの事は良く思ってなかった。ほとんど初対面の人と夫婦になれって言われて仕事ばかりで私とあまり話しをする時間もない、仲良くなれるはずはなかった。でもたまたま時間が空いた時に彼は言ってくれたの。『自分の妻の相手もせずに仕事ばかりの形だけの夫婦だが、どうか嫌いにならないでくれないか?』って。私は何勝手なことを言ってるんだって思ったの。でもその後に彼は続けた、『まぁ、少なくとも僕は君を大事にするよ。君が僕を嫌いでも僕は君が好きだから』って」

 トーカの目元には再び涙が浮かんでいた。

「それから数ヶ月後、彼は亡くなった。ドラゴンによる攻撃で。ラファス様をかばったというのは本当ですがそれ以外はウソです。私の事もかばってくれたんです。戦えなくなった私を守って、最後に愛してるって言って亡くなりました」

 俺は黙って聞くしかなかった。

「自分の妻を命を懸けて守るなんて、惚れちゃいますよ。でも死んじゃったから彼に伝えられなかった。だからもう死なせない。貴方は私の事を守ってくれたリファスじゃないけど私は貴方を愛してる、もう好きな人を死なせたくない。だから一人にさせない、嫌と言ってもついていく」

 俺は彼女を強く抱きしめた。お互い離れないように強く、強く。

 


 どれくらいこうしていただろう、俺達はゆっくり離れた。

「ごめん」

 俺は頭をさげて謝った、もう勝手にいなくならないと決めて。

 ゆっくり頭をあげる、そして彼女を見つめる。

「へぶぅ!?」

 思いっきり顔面を殴られた。完全に油断していた俺は体ごとふっとび壁に思いっきり激突した。

「許す!」

 彼女は満足そうにそう言った。

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