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守りたいもの

 全身を黒いスーツでつつみ、頭にはフルフェイスのヘルメットをかぶった男女三人は現在とある廃城にいる。

 三人は周りに誰もいない事を確認してからヘルメットをとる。

 真っ黒の肩までの髪に少し潰れ気味の丸い鼻とたらこのような太い唇、そして細い眉毛に決して大きくない目とその下にはくまが出来ている。身長はおよそ百六十センチメートル位のやせ形の女は、被っていたヘルメットを投げ捨てた。同じように二人の男もヘルメットを投げ捨てた。二人とも髪の毛は生えておらずに太く短い角が生えている。角が一本で右目に四本の爪でつけられたような傷がある男と、角が二本で傷がない男。二人とも身長は軽く二メートルは超えていて、体格もがっしりとしている。


「とりあえず、第一段階は終了だな」

 女が覇気のない声で呟く。

「あぁ、うまくいったな」

 一本角の男が少し口元を緩めてそう言った。

「ちょりあえじゅひとあんしんでしゅね?」

「「え? なに?」」

「ちょりあえじゅひとあんしんでしゅね?(訳:とりあえず一安心ですね)」

 二本角の男は恐ろしく滑舌が悪い。同じ言語だけど通訳が必要なほどに。二人は慣れているので必要ないが、というか二人が通訳だったりする。

「とりあえず首領(ドン)に報告だな」

 女の声に二人の男達は小さくうなずいた。











「みんな無事か!?」

 俺は地下にいるみんなに合流をした。

 トーカとシャルルは気絶しているが、ほかのみんなは不安そうな顔をしていた。

「リファスは?」

 サキナの不安そうな問いに俺は静かにうなずいた。本当はまだ耳鳴りがしている。腐臭はなくなったし、さっきよりはマシになったが。

 俺はみんなにさっきの事をすべて話した。


「………」

 みんな口を開かない。

 とりあえず早くこの場所を離れよう。とは言っても行く当てがない。さっきはとっさにリオックさんのところに行け、と言ったが頼れる人が他に思いつかなかったからだ。もしも自分が死んだ場合の事を考えて、そこならみんなが生きていくには不自由しないだろうと思ったからだ。

 とりあえず俺とみんなは別行動がいいだろう。仕方ない、みんなをリオックさんに匿ってもらって俺は一人で動こう。もうこれ以上…みんなを危険な目にあわせたくない。大ケガを負ってしまった二人には申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、だからこそ犯人達の目的を突き止めないと。

 ……そう言えば俺っていつからこんな勇敢でかっこよくなったんだっけ? …別に勇敢でもかっこよくもないか。実際怖いし。

 というわけでディノポネラ王国に向かった。一旦城に戻って乗り物を使って地上から戻ろうとも思ったが、もしかしたらまだ敵の仲間たちが潜んでいるかも知れないし危険がないとも限らない。だからそれはやめた。でも例え地下から向かったとしても敵に遭遇でもしたら逃げ道がない。なにより二人を早く手当しなければならない。例え俺が地上からみんなを抱えて全力で走ったとしてもリオックさんのところにはどんなに急いでも四時間はかかる。今この場にはリニアもいないし十分な医療設備などない。

 もう選択肢は一つしかなかった。瞬間移動の魔法を使うしかない。

 瞬間移動の魔法は元々体力をかなり消耗する魔法だし、こんな大人数を運ぶとなるとすぐに敵を追うのは恐らく無理だろう。……敵を追う事、家族を安全な場所で治療してあげる事、どっちが大事かなんて考えるまでもない。

 みんなに俺の体のどこでもいいから触れるように指示をしてから大きく深呼吸する。

 目を閉じて移動先をイメージする、ディノポネラ王国のリオックさんの城の前。そして俺はもう一度大きく深呼吸をした後に全力で魔力を放出する。

「ハッ!」

 目を開けるとそこには大きな城があった。

 …成功だ、ちゃんとみんなもいる。

 俺は一歩踏み出したと同時に膝に力が入らなくなり、崩れ落ちてしまった。体に力が入らずに立つことが出来ない。

 そんな俺の代わりにドリューがドアをノックしてくれた。

 少しして中から出てきたのはアブさんだった。

「み…皆さん! どうしたんですか!?」

 彼は慌てたように俺達に駆け寄ってきた。

「済まない…事情は後で説明するから…とりあえず二人を治療して…くれ。あと少し休ませてくれ……」

 何とか言葉を振り絞った。

 アブさんはすぐにリオックさん達を呼んで来てくれた。



 ぼやけた視界には真っ白い天井が映った。

 上半身をベッドから起こすと少し両手が痺れた。

 今何時だ? 俺はどのぐらい寝てた? 腹減った。そんなまとまらない思考のまま俺は立ち上がり、部屋の出入り口に向かう。

「どこに行くんです?」

 落ち着いた女性の声が部屋の奥から響いた。当然部屋に自分一人しかいないと思っていた俺は少し大げさに肩をふるわせてしまった。

「あ、ナナフシ夫人……」

「みんな隣の部屋でお休みになってますよ、うちの執事が見守っているんで安心してください。貴方は大体八時間くらい眠ってましたかね、あ、お腹すいてますよね? 今シェフに何かつくらせますね」

 ナナフシ夫人は俺の知りたい情報を教えてくれた。

 俺はお礼も言えずにただ黙って彼女を見つめてしまった。

 そう言えばいつの間にか腐臭と耳鳴りが消えている。体は普通に動く、でもまだ魔力が完全に回復してないため魔法が満足に使えない。

「落ち着いたらで構わないので何があったのか話して下さい。場合によっては協力できるかもしれません」

 なんかとても落ち着く口調と雰囲気の人だな、お言葉に甘えたくなるけど、これ以上彼女たちを巻き込むわけにはいかない。ここの人達にはみんなを匿ってもらうだけにしよう。

 俺は回復の魔法は使えない。俺の使える魔法はほぼ移動系と攻撃系と防御系、そして隠密系なのだ。回復の魔法は使えない。百種類以上の魔法を使えるのだから回復系の魔法を使えてもいいのだが、全く使えない。因みに言えば俺がこっちの世界に来てから新しい魔法は覚えてない。すべて本物のリファスが俺が来る前に覚えたものだ。俺がしたことは、リファスが覚えた魔法をリファスのように使えるようにしているだけだ。正確に言えば俺の魔法はまだリファスの魔法には及ばない。

 それでも、例え力が無くても、今の俺はみんなを守りたい。

 俺は彼女の気持ちだけもらって部屋の窓から抜け出した。

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