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襲来

 ここの温泉は冷え性や肩こり、肌荒れに効果がある。そして一望することが出来る青い海は、心も体も癒してくれる。また温泉にゆっくりとつかりながら、木々が揺れる音などに耳をかたむけたりするのもまた一つの楽しみだろう。

「はめられた……」

 俺は今温泉につかりながら一人で青い海を眺めている。

 確かにトーカは混浴があると言った。だが混浴に入るとは言ってなかった。

 はめられたもなにも最初から期待してなかったよ、わかってたよこういう人だって。

 皆は女湯の方に入ったんだろう。

 最初から分かっていたさ、俺に主人公属性がないってことくらい。もし俺に主人公属性があったらこの状況にはならないはずだ。絶対に一緒に女の子とお風呂に入っていちゃつくことだってできたはずだ。

 夜這いされたり、ハーレムができたりな。こうやって除け者にされるのは大体主人公の友人とかの役だろう。


 男湯と女湯の丁度真ん中にある混浴風呂に入っている俺には、女湯の方から女子達のウフフキャッキャな声が聞こえてくる。

 とても気になるが、また覗いたりでもしたら本当に半殺しにでもされかねないので声だけを楽しむことにする。


 それは別としても本当にここの温泉は本当に気持ちいい。体の疲れが一気に抜けていくようで、本当にリラックスできる。


 途中キリンからお酒の差し入れがあったため、暖かくて気持ちいい温泉につかりながらゆっくりとお酒を飲んだ。


 およそ三十分ほどで俺は温泉から上がって部屋に戻る。部屋に戻ってから女部屋の方に声をかけてみたが、返事がない。ただの屍のようだ。じゃなくて、まだ温泉に入っているのだろう。


 俺はみんなが出てくるまで近くを散歩することにした。

 来た時は分からなかったが、宿から出るとすぐに海が見えた。少し遠いが、海の青と空の青がとてもきれいだ。

 俺は魔法を使って海まで行き、砂浜を一人で歩いてみる。大人ほどの大きさの蟹が歩いていたり、二足歩行の亀がいたりする。遠くの沖の方では大きな魚が水面から飛び上がっている。

 こうやって何も考えずに歩いてみるのもいいもんだな、と思いつつも俺は裸足になって浅瀬を歩く。水はひんやりと冷たく、何故か足にヌルっとした感覚がした。恐る恐る見てみると黒く一メートルくらいの太くて長いものが俺の右足に引っ付いていた。

「ニャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 後から聞いたが俺の猫のような叫び声は宿まで聞こえていたらしい。

 ムカデのような足が生えたナマコ、と言う表現が一番近い気がする。要するにとてつもなく気持ち悪いのだ。

 俺は夢中になって逃げだし、気が付いた時には裸足で宿の前まで来ていた。

 当然みんなの「何してるんですか」というセリフを聞いたが、聞かなかったことにしておいた。


 部屋に戻ると食事が用意してあり、真ん中の区切りを払ってから頂くことにした。

 みんなで一緒に食事をとる。俺の右側にはシャルル、左側には優愛が来た。

 食事の名前をキリンから聞いたが何一つ覚えられなかった。でも今まで見たことのない料理の数々で、匂いも楽しむことが出来る。当然味はどれもおいしく、ほっぺたが落ちそうだった。



 最後に出てきたデザートは、なんとさっきのよりもかなり小さいがムカデのような足が生えたナマコが水の入った深い器の中でうねっている。

 これを見た時にはさすがに全員顔が引きつった。

「エビナマコの踊り食いです。コリコリした食感で甘くて美味しいですよ」

 そんな事を言われても、キリンは笑顔でそう言うけども、全員がフリーズしてしまっている。

 一番最初に男気を見せたのは意外にも優愛だった。周りの誰もが食べないのを見て、器を持って口の中に流し込んだ。

「―――!! ―――! ―――!」

 声にならない声でなんとなく驚いていることは分かる。

 少しして口を開いた優愛の第一声は「やべぇ」だった。

「口に入れた瞬間ビチビチ暴れ出して、噛んだら出てくる液体が甘くて本体はコリコリしててクセになる!!」

 目を大きく見開いて興奮したように話す優愛は、キリンにおかわりを頼んでいた。

 みんなその言葉につられて、恐る恐るだが口に入れる。

 全員美味しいという感想を出しておかわりを頼む。

 俺はみんなに続けずに、いまだに渋っている。そんな事をしていたらシャルルに無理矢理口に入れられた。

 確かに口に入れた瞬間にびっくりするくらい暴れ出して、噛むと甘くてコリコリして確かに美味しい。

 ゲテモノ程うまいってことか。

「因みにそれに似ている奴がよく浅瀬にいることがありますが、それは絶対に触ってはだめですよ。触ると触ったところが腫れてきて三日くらいかゆみが止まらなくなりますよ。ま、死ぬことはないですけど地味に辛いです」

 キリンは子供なのに色々知ってるな。今度海行くときは気をつけよう。

「まぁ、かなり似てますがそれは今食べたのと違って一メートルくらいあるので区別はつくと思いますが」

「え………」

 待て待て待て、そう言えばさっき一メートルくらいのエビナマコみたいなのに触った気がするぞ。

 俺は大きく深呼吸してから右足を見てみる。腫れていた。

「………かゆい」

 痛くてかゆい、無意識のうちに右足をボリボリとかいてしまう。

 キリンからは冷やすとある程度かゆみが治まると聞いたので俺は廊下の水道で水を桶にくんでくることにした。


「………?」

 すると突然カサカサという物音が壁のむこうからした気がした。

 その音は段々と近くなってきた。


 グォォォォォォォォ……!


 唸り声も聞こえる。この宿自体森の中にあるから不思議ではないが、なにか嫌な予感がする。かゆい。


 グォォォォォォォォォォォォォォ!!!


 唸り声もだんだんと近くなってきている。

 俺は水を汲まずに急いで部屋に戻る。

「みんな早くこっちに来い!!」

 部屋の戸を乱暴に開けて俺がそう叫んだ瞬間、トーカ達の近くの壁が崩れた。俺は魔法を使い、瓦礫の下敷きになりかけていたみんなを廊下の方に連れてくる。正確にはみんなを掴んできた、だが。

 そして崩れた壁の穴から現れたのは、人間の数十倍の大きさの見たこともない巨大な動物だった。

「ドラゴン……?」

 俺はシャルルの言葉を疑う事しかできなかった。

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