ペットがいました
俺達は魔法訓練場を出てから庭の東側にあるペットルームと言うところに俺達は向かった。勿論庭内専用車で。
「これが…ペットルームっすか……?」
「そうですよ」
サキナがそう言ってくれたが俺は自分で聞いたにも関わらず、全然耳に入ってこなかった。だってそこには家らしきものは見当たらず、一つの大きな門しかなかったから。
何とかこの世界に追い付いてきた頭で、サキナが説明してくれたことをまとめると、体の大きなペットとかいるから大きな門だけここにおいてそれをくぐるとだだっ広い異空間につながってるんだとか。もう割と何でもありだな、さすが異世界。
「入りますよ」
シャルルが門を開けながら笑顔でそう言ってくれた。俺は少しドキッとしたけど頷いてついて行った。
「リファス様! 本当に生きておられるのですね!」
門をくぐるや否や、とんでもなく大きな紅く燃え上がる怪鳥が号泣しながら飛んできて俺に向かってのしかかりをしてきた。
「ちょっとカムス! そうやって毎回リファスに抱き着くのをやめなさい! それに今のリファスは記憶がないんですから説明が先です」
トーカが二階建て程の大きさのその鳥を持ち上げてからそう言った。
トーカさんってそんな力持ちなんですか…? というかあの異様にでかい鳥はなに?
そんな俺の考えを読み取ったかのようにサキナが説明を初めてくれた。
「あれは数いるリファスのペットの内の一番の古株のフェニックスっていう種類の動物で名前はカムス。あぁ、あとトーカは魔法で身体能力強化してるからあんなに力持ちなの」
そ…そうですか。というかフェニックスて……、空想上の動物だと思っていたぜ、ついさっきまではな。
するとそれに続くように沢山の見たこともない生物がぞろぞろと出てきた。
俺はもう何を言ったらいいのか分からなかった。
するとその動物たちをかき分けてとても大きな四メートルはあろうかという人らしき小さな角が頭から二本生えたいかついサングラスをかけたのが出てきた。
「若ァ! 生きてたって本当なんすね! 俺は感動っすよ!!」
低くダンディな声でサングラスをくいっとあげてそう言った。少し驚いたのだが右目のところに刀傷らしきものがあった。
「あ、でも記憶はなくなってるんすよね。……俺はこのペットルームの管理人のジワブって者ッス。オーガっす」
なんかヤーさんみたいだ。俺が見上げる形で見つめていると何を思ったのかさっきと同じような口調で喋りはじめた。
「あぁ、この傷っすか。この傷は昔俺が盗賊団の頭やってた時に若にボコられた時につけられた傷っすよ。昔は俺、結構な賞金がかかってて聞く人が聞けば震えが止まらなくなるくらいだったんすよ」
こ…こわぁぁ。それよりも怖いのはそれをボコったリファス様だ。
「ジワブは懸賞金が一億もかけられた大悪党だったんですよ」
トーカがそう耳元で囁いてくれた。
……高い。怖い。
「若はどのぐらい覚えてますか?」
ジワブがしゃがんでから俺の方を見てそう言った。
「ま…全く……」
俺は本当にこんな人を
ボコれたのだろうか。今しゃがんでくれたのに若干怖い。
「…そうっすか、じゃあこの中案内しますんでついてきてください」
一瞬悲しそうな目をしたジワブだが、立ち上がって元気よくそう言った。
今までみんなリファスの記憶がないっていうと決まって悲しそうな目をしている。国王をやってるくらいだし、色んな人から親しまれてたっていうのがわかる。どういうわけか今は志木春也である俺が、ミスティリア・アポロン・リファスっていう人物って事になってるけど色んな人に悪い気がする。自分の名前もやっと憶えられた俺がこれからやっていけるか不安だ。
「リファス、本当に生きていたんだね。僕は嬉しいよ」
草陰から狐のような体をしていて真っ白いきれいな体毛に何本もある長い尻尾の生物が出てきた。
「こいつは自分の次に古株のキュウビって種族で名前はマキュリです。私と同じで火を使うことが出来るんです」
カムスが俺の遥か上からそう説明してくれた。よく見ると尻尾は名前通り九本あった。
火を使う白い体毛の尻尾が九本ある狐……さてはこいつキュ○コンだな。多分こいつは昔はロ○ンだったけど炎○石を使って進化したんだろう。体の大きさも俺と大差ないし。
「リファス、疲れるだろうから僕に乗って」
落ち着いた口調でそう言うとマキュリは伏せの体制になった。俺は頷いてからマキュリにまたがった。ほんのりと暖かくて体毛もやわらかくて気持ちいい。
なんとなくだけど、このマキュリっていうのは記憶が無くなってるのを知っているのだと思う。本当になんとなくだけど。多分トーカあたりが先に説明してくれたんだろう。
「若、ここは管理人室ッス。おーい」
ジワブが部屋、というか普通に二階建ての一軒家のドアを開けてそう言った。するとドタタタ…ゴツン! という音と共に身長百六十くらいのスタイル抜群の露出高めの服を着た、額に小さな角を一本だけ生やした桜色の髪をポニーテールにまとめた女性が出てきた。胸は……恐らくB!
「若! 本当に……」
その女性はいきなりそう言って泣き出してしまった。ジワブがティッシュを差出し、涙を拭いて鼻をかんで二人とも深呼吸をした。
というか何でジワブといい、この女性といい呼び方が『若』なんだろうか。
「若の…記憶が無くなっているのはジニアから聞いてます。私はここの副管理人のクリオネっていう者です。このペットルームはこのクソ…ジワブと私で管理してます」
「ねえ、今クソって言った? 俺の事クソって言った? ねえクリオッ……!」
クリオネはジワブの腹あたりを裏拳して黙らせた。ジワブはうずくまってうめいている。
この一瞬でこの二人の関係が分かった。クリオネのが上なんだな、役職的には下だけど。
「あれはあんなんになってしまったので私が案内させてもらいます」
お前がしたんだろ、とか思いながらジワブを横目に俺達は歩いて行く。マキュリ曰く、いつもクリオネとジワブはあんな感じなんだとか。
クリオネの説明を聞きながら俺はマキュリに乗り、トーカとサキナとシャルルも同じキュウビと思われる動物に乗りながら移動を続ける。というかマキュリの背中はふわふわだし、暖かいし、歩く時の振動が丁度よくてすごく眠くなる。何とか眠気に耐えながらみんなの話を適当に受け流す。
「リファス、リファス、起きて」
受け流していたつもりが完全に寝てしまったようだ。
「んぁ……」
「記憶が無くなってもこういうところは変わらないんだね」
マキュリがクスクスとほほ笑みながらそう言った。
リファスはマキュリの背中に乗ると八割くらいの確率で眠ってしまうんだとか。お茶目だなリファスって。
「今日はもう休みます?」
クリオネがこっちを見てからそう言った。俺は頷いてからマキュリに部屋まで送ってもらってからマキュリと一緒に眠った。すごく気持ちよく眠ることが出来た。