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お酒って本当に怖いね

 その日は何の前触れもなくやってきた。ただ俺が知らなかっただけなのだが突然やってきた。

「プレゼントは?」

 そう、この日はサキナの誕生日だったのだ。

 突然プレゼントなんて求められても勿論用意していないし、何もあげるものなんてない。

 俺は隣にいるリニアの肩をちょんちょんとつつく。

「なんで前もって言ってくれなかったの?」

 勿論小声で話す。

「言いましたよ。ただリファス様は寝ぼけてましたが」

 クッソ、やられた。コイツは俺が聞いてないのを分かっていたな。いや聞いてなかった俺が悪いだけなんだけど。

「そう言うときはもう一回くらい言って! 頼むから」

 チッ

 今舌打ちしたか? このメイド舌打ちしたか? 本当にこいつメイドか? 自分が仕える主に向かって舌打ちしたよな? 流石にこれには俺も興ふ…怒っちゃうよ?

 リニアはその後俺の耳元で小さくこう言った。

「ごめんね」

 許した。すべてを許した。あぁこんなんだからリニアにこんな態度とられるんだろうな。


「流石にプレゼントナシはサキナ様がかわいそうなので、こう言ってください」

 リニアはそう言って俺にさっきよりも小さな声で耳打ちしてきた。


 …………………



「はぁ!?」

 思わず声をあげてしまった。何を言っているんだコイツは。そもそもそんなのプレゼントになってないし、サキナが喜ばないだろう。

 というかそれは漫画やアニメの中でも冗談で言うようなセリフじゃないか。それも女の子が。

「さぁさぁ、言って下さい」

「やだよ」

「言って下さいよ~」

「やだよ」

「言えよ」

「はい」

 最後は脅しになっていて、しかも顔は笑顔なのに目は笑っていなかった。

 やだなー言いたくないよ。絶対恥ずかしいセリフじゃん。

 リニアが期待した目で俺を見ている。

 何故か他の連中も俺の事を期待した目で見ている。

「……ぷ…プレゼントは………」

 どうしても言わなきゃだめですかね…俺はそんなキャラじゃないんだぞ。

「やっぱ無理!」

 言えなかった。

「つまんないですね」

「言って下さいよ」

「絶対面白いですよ」

「言~え! 言~え!」

 誰が何を言ってるか分からなかったけど、なんとなく誰が何を言ったのか予想は出来る。

「何で言わないんですか」

 リニアがニヤニヤしながら聞いてきた。

「恥ずかしくて言えるわけないだろ! プレゼントはわ・た・し。なんて! ……あ」

 自分でもびっくりしました。急に恥ずかしくなってきて俺は部屋の隅に逃げ込んだ。そして壁の方を向いて体育座りだ。


 十五分ほどして俺は何とか立ち直ることが出来たために、みんなと一緒にサキナの誕生日を祝う事にする。

 と言ってもみんなでケーキを食べ、立ち飲みで酒を飲んでワイワイと騒ぐだけだ。



「そう言えばぁ、リファスのプレゼントはリファスでしたねぇ」

 誕生会もピークに達してきたところで、ベロンベロンに酔ったサキナが俺の右肩に両手を置いて見つめてきた。

 顔が真っ赤になり少しトロンとしている目で見つめられて、俺は不覚にもドキドキしてしまった。

「てことはぁ、一日リファスを自由にしていいってことですよねぇ?」

 なんか嫌な予感がする。俺もお酒を飲んでいるから、気のせいだろうか。

「あれは冗談だよ、あとでちゃんとしたプレゼントあげるから」

「えぇー…私はリファスが欲しいですぅ。貴方がほしいぃ。…ハムッ」

 そう言ってサキナはなんと俺の耳を甘噛みしてきた。

「はぁぁぁん!」

 サキナの不意打ちに、俺は何とも情けない声が出てしまった気がする。他のみんながいる中でこんなことをされるとは全く予想できなかった。二人きりの場合でも予想は出来ないと思うが。

 柔らかい唇でハムハムと耳を甘噛みしてくるサキナが、見えないけど可愛くて、それにとても気持ちよくて、力が抜けてしまいそうになる。

 そして口を離したかと思うと、今度は耳の中をなめられたような気がした。

 横目で何とかサキナを見ると、俺の耳の穴に舌を軽く入れてチロチロと舐めまわしてる様子がうかがえた。

 お酒って怖いなと思いつつも、気持ちよくてもっとやってほしいと思う気持ちが俺の中で大きくなってくる。

「気持ちよかったですか?」

 俺もお酒が入っていていつもより素直になっているのだろうか、「うん」と何のためらいもなく答えてしまった。

「もっとやってほしいですか? それとももうやめてほしいですか?」

「もっとやってほしいなー」

 あれ、俺ってこんなに素直だったっけな?

「リファスから私への誕生日プレゼントって何でしたっけ?」

 なぜだろう、この状況に興奮してきている俺がいる。いや、別に不思議ではないが。

「プ…プレゼントは……俺です―――!」

「はい、ありがとうございます」

 サキナはもう一度俺の耳の中に舌を入れてチロチロと舐めまわしてきた。

「ありがとうございます――――――!!!」

 嬉しさのあまり叫んでしまった。いや、男ならこんな状況になったら誰だって叫んでしまうだろう。

 サキナは今度は横から目の前に移動してきて、俺の胸に優しく手を置いて上目づかいで俺を見つめてきた。

 これだけでも破壊力抜群だ。俺のHPは残り僅かだ。

「私、明日は今日誕生日だから特別にお仕事お休みでいいって言われたんですよ。それでぇ私行きたいところがあるんですよぉ」

 俺の服の中に手を入れて乳首をこねくり回しながらそう言うサキナの言葉なんて半分近く頭に入って来ず、気持ちよくてドンドン俺のHPが削られていく。

「デステニーランドに行きたいんですよぉ」

 …え? デステニーランドってマジか。そこは以前シャルルと一緒に行った場所じゃないか。自分の側室と二人で一緒に行った場所に別の女の子と二人きりで行くのか? あ、でもサキナも側室だ。ならいいのかな?

「前にシャルルと二人で行ったみたいじゃないですかぁ? 私とは行ってくれないんですか?」

 乳首をこねくり回しながらニヤニヤとそう言ってくるサキナは心底この状況を楽しんでる気がする。

「えーっと…その…」

 俺が口ごもっていたら、サキナは俺の乳首から手を離してしまった。すごく気持ちよかったのに……

「行ってくれないんですか?」

 上目遣いで俺を見つめるサキナ、こうかはばつぐんだ!

「…明日、行こうか」

 サキナの顔をまともに見れず、何とか絞り出せた言葉が終わるとサキナは俺の顔を両手でガチっと掴んだ。そしてそのままサキナは自分の唇と俺の唇を重ね合わせた。

 一瞬状況を把握できなくて、サキナの顔が目の前にあるという事実にすら理解するのに数秒かかり、そしてやっと自分がキスされたという事を理解できた。

「!?!?!?」

 俺の口の中に何かが侵入してきて、それが口の中で動き回る。もしかして舌を入れてきたのか!? 俺の口の中で激しく絡み合う俺とサキナの舌。絡み合う事が気持ちよくて、何も考えられなくなる。

 そしてどのくらい経ったか分からないけどサキナの唇が離れていく。少し名残惜しいけど、お酒を飲んだ赤さとは違う赤で染まった彼女の顔は、とてもいとおしく思えた。

「ありがと、それと大好き」

 リファスのHPはゼロになった。

 お酒って本当に怖いけど、サイコ―と思いつつもHPはゼロになった。

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