一緒に仕事しましょう
「頭いてぇ~」
どうやら飲みすぎて二日酔いしたようだ。俺だけではなくジニアとリニアとお姉さま以外。
お姉さまはともかく、ジニアとリニアはかなりベロンベロンになっていたはずなのに、流石は仕事人と言ったところか。
「皆さん頭が痛いから、という言い訳は聞きません。仕事してくださいね」
今ここで頭が痛いから休みます、と言いたい。でも先手を打たれてしまったために言えなくなった。
「お腹痛いんで仕事休みます!!」
どうやらシャルルさんは頭が悪いらしい。そんな笑顔で元気よくそんな事言ったらすぐにばれるだろうに。
「そんだけ元気なら問題ないですね、働いて下さい」
シャルルは唇を尖らせて膨れてしまった。「可愛い!」って叫びたくなるのをグッとこらえて、俺達は渋々仕事に戻る。
が、案の定すぐに俺の部屋のドアを叩く音が聞こえてきた。
やっぱり誰かが仕事抜け出してきたな。多分トーカかシャルルあたりだろう。なんだかんだでサキナはちゃんと仕事はするからな、俺と違って。
「ドゾー」
ドアを開けて入ってきたのはやっぱりシャルルだった。
「あの…仕事が進まないんで、ここで一緒にしてもいいですか?」
少しもじもじしながら言ったシャルルの注文は、自分が予想していたものとはまるっきり正反対だった。シャルルの事だから、「遊びに行っちゃいましょー!」とでも言い出すものだと思っていた。
俺は少し戸惑いながらも了承した。この部屋には仕事用の机は俺がいつも使っている一つと、予備のやつが一つあるのでシャルルにはその予備の机でやってもらう。
向かい合わせに机をくっつけて、シャルルは静かに仕事を始める。
シャルルは何か喋るわけでもなく、黙々と仕事をする。俺もなんか話しかけづらくて、黙々と仕事をする。
「ねぇシャルル」
二時間程経ったところで俺の仕事が一区切りついたのでシャルルに話しかける。なんで急に俺の部屋で一緒に仕事をしようと言ったのかを。
「禁則事項です」
自分の右手の人差し指を唇の前で立てて、そうほほ笑むシャルルの姿は何故か別の誰かで見たことあるような気がした。シャルルさんはもしかして未来人ですか?
はぐらかしたということは特に理由がないか、言えない理由があるかのどっちかだろう。多分、いや絶対前者だろう。
質問の答えをはぐらかされてしまったために、俺はそれ以上は聞けずに仕事を再開する。
そしてまたそのまま一時間程経過したところで、シャルルがお茶を入れますねと言って一旦席を立った。
シャルルの考えが全く分からない、一体何がしたいのだろうか。シャルルはバカっぽくて子供っぽい部分が目立つ女の子だったはずなのに、そんな彼女でもミステリアスな行動をするとは。女子とは分からないものだ。
「どうぞ」
シャルルが出してくれたお茶を俺はゆっくりと飲む。猫舌なのでフーフーと冷ましながらちょびっとずつ飲む。そんな俺を見たシャルルは顔を寄せて、自分の髪を少しだけあげて俺のお茶をフーフーと冷ましてくれた。
顔が近い上に妙に色っぽくて、しかもいい匂いまでするもんだからなんか恥ずかしくなって目を背けてしまう。
「はい、冷めましたよ。でも気をつけて飲んでくださいね」
「うん」
俺は言われた通りにゆっくりとお茶を飲む。お茶の美味しさや熱さなんかよりもシャルルの事の方が気になる。今までも可愛いとか思ってたけど、なんか胸がドキドキしてまるで恋する乙女にでもなったような気分だ。
「シャルル、お菓子あるよ」
「本当に!? 食べ………大丈夫です」
今一瞬お菓子に反応したぞ。お菓子に反応するってことは普通にいつものシャルルだ。でもどうして断った?
「食べないの?」
「……大丈夫です」
これは絶対に食べたいけど我慢してるな。
流石に少し心配になってきたので、からかうのを止める。
「ねぇ今日どうしたの? なんかいつものシャルルよりも落ち着いてるっていうか…」
シャルルは少し顔を赤くしてから、観念したかのように小さく溜息をついた。
「あー、やっぱ私にこういうキャラは合わないな」
キャラ? 何のことか全く分からない。なので俺はこの後の説明を待つ。
「………」
「………」
「………」
「………」
「いや説明しろよ!」
何故か沈黙が続いてしまったので思わずツッコミを入れてしまった。
「うん?」
「うん? じゃねぇよ! 説明する流れだったでしょ!」
シャルルは右手を握って左手の掌にポン、と叩いた。
なるほど、じゃねーよとか思いながら説明を待つ。
「いつも私って子供っぽいような感じじゃないですか? だから少しはクールな大人の女性になってみようと思ったんです」
今度はちゃんと説明したな。というか子供っぽいって自覚あったんだ。
「ほー、でどうでしたか?」
シャルルは俺の出したポテチに手を出しながら答えた。
「いやー無理でしたね。この年になって性格なんて変えられないですよ」
だよね。性格なんてそんな簡単に変えられるものではないですよね。
「だから! 私は私のままでリファスにアピールしてきます!」
シャルルはそう言って俺の頬に優しくキスをした。勿論キスされた、という事実を俺が把握できたのはキスされてから数秒経ってからだった。