ラスボス登場
「あれに入りたいんですぅ~!」
「嫌だァァァ!!絶対やだァァァ!!」
シャルルは俺の手をデーモンハウスの方へ引っ張り、俺は全力でその場に踏みとどまる。
「いいじゃないの~?」
「うっせー!! イヤなもんはイヤじゃァァァ!」
ノリが悪いって? 今の俺にそんな余裕はない。
するとシャルルは手の力を緩めてから、俺の手を放す。そして小さく溜息をもらす。もしかして行くのを諦めてくれたのか?
「そんなにイヤなんですか、じゃあ別のやつにしましょうか」
諦めてくれたみたいだ。俺は絶叫系は嫌いだ。
俺がホッと溜息を漏らし、体の力を少し抜いたその瞬間―――。
「とでも言うと思ったかぁ! リファスは私と一緒にあれに入る運命なのだよ! ふはははははははは」
ちょ!? 喋り方がおかしくなってますよ。ていうか俺は抵抗もできずデーモンハウスの中に入らされた。
三十分の悪夢が終了した。マジで怖かった。
中で何があったのかよく覚えてない。怖かったっていう感想しかない。もうやだ、絶対入らない二度と入らない死んでも入らない。
「リファス大丈b―――」
「に見えますか?」
因みに本日二回目のキラキラだ。お化け屋敷で吐く人って普通は見たこと無いよね、でも俺は吐くんです。
流石にシャルルも少し休ませてくれるようで、俺はとりあえずトイレに行って口をゆすいだ。
「はぁ……」
喋りたくない。リファスげきおこだよ?
俺はベンチに座っているシャルルの元へゆっくりと戻っていく。
「気分は大丈夫? とりあえずごめんね」
少し落ち込んだようにそう言って俺に飲み物を差し出してくれた。俺は軽くお礼を言ってからそれを飲む。あっさりとしたウーロン茶のような味で飲みやすい。
シャルルからの提案で次はゆったりとしたものに乗る事になった。
それは観覧車だった。俺は高所恐怖症ではないので、少しは落ち着けそうだ。
これは俺のいた世界のものと同じ名前なんだな、とか思いつつもゆっくりと観覧車の列に並ぶ。形も俺のいた世界のものとほぼ一緒だ。
あまり人はいなかったので五分ほどで乗ることができた。
俺たちが乗ったそれはゆっくりと上昇していく。座席がソファーになっていてとてもフカフカで気持ちいい。横になって眠りたい気分だ。
でも多分今寝ようとしたらウトウトして寝そうになった時に下につくだろうから、我慢して起きてることにする。
「リファスが絶叫系苦手だとは知りませんでした」
まだ少ししょんぼりしているシャルルに俺は笑いかける。
「苦手だから、次からはもっとゆったりしたやつがいいね」
何とか笑顔を作ってそう言ったところで、丁度俺達の乗ったそれは下に到着した。思ったより早かったな。
俺達はそれからゆっくり降りて、もう一度今度は別のベンチに座る。だってさっきのベンチのところで吐いちゃったから清掃員さんに掃除してもらってるんだもん。本当にごめんなさい。
そのベンチで俺はシャルルが買ってきてくれたソフトクリームを食べる。なんかこうやってベンチに座ってる時が今日一でゆったりできている、気がする。
あと二時間程で日が沈む為に、これ食べ終わったらなんか最後に乗ろうとシャルルに言われた。二時間もあるんなら最後じゃなくてあと二つ三つ乗れない? とか思ったけど素直に頷いといた。
とりあえず食べ終わったので俺達は最後のやつの列に並んだ。結構人が並んでいるためにそれなりに長い時間並ぶことになりそうだ。シャルルが最後と言っていたのはこのためか。
―――と思っていた時期が僕にもありました。
看板には『超巨大ドッキリ迷路』と何ともネーミングセンスのかけらもない名前が書いてある。
『ゴールまで何分で行けるかな? 今のトップは二時間十五分!』と書いてある。
…絶対めんどくさいじゃん、俺入りたくないんだけど。でも勿論俺に拒否権はないみたいです。仮にも今日二回も吐いているんですよね、俺は。
結局ゴールまで三時間半かかった。そして二回吐いた。ちゃんと水の入ったペットボトルを持っていたので口をゆすげたのが幸いだ。なんかびっくりしたしドッキリした。道もいくつにも分かれてるし、ブリッジしたおっさんが高速で追いかけてくるし、上からムカデが落ちてくるし、ドレス着たおっさんが立ってるし、いきなり足掴まれるし、よく見たら掴んでるの転んだシャルルだったし、最後の脅かす役のおっさんが屁こくし。違う意味でびっくりしたよ。
あげていけばキリがないけど、本当に超巨大なドッキリ迷路でした。
そしてゴールから出た頃には完全に日が沈み、すでに三日月が夜空に浮かんでいた。
「んー! 楽しかったぁ。さぁ帰りましょうか」
シャルルは満足そうに俺の方を向いてそう言った。
「うん。………あ」
俺は一つ重大な事に気が付いた。それは俺達が自分の仕事をほったらかしにしてお城を抜け出したことだ。多分帰ったらジニアとリニアが鬼の形相で俺達を待ち構えているだろう。多分今日のラスボス。ラスボスを目の前に「俺達の闘いはこれからだ!」で終われたらいいんだけど、世の中そんなにうまくいくことはない。
「うん? どうしt……あ」
シャルルも気づいたのだろう、尋常じゃない量の汗をかいている。
「ど…どどどどうするぅ?」
動揺が半端ない、俺もシャルルも。
「………」
「………」
良い案が全く浮かんでこない。
「…あ、そうだ! 虫に変身してこっそり城に戻りましょう」
シャルルの変身魔法は姿形は勿論、体の大きさも簡単に変えられる。らしい。
他に良い案も思い浮かばないのでその作戦で行くことにする。とりあえず空を飛べるトンボに変身する。でも流石に借り物のバイクを置いて行くわけにはいかないので、城の近くまで人のままでバイクに乗っていくことにした。と言っても俺も忘れていたが、かなり大きな音がするために門の前で降りて押していく。何とかばれないように車庫にバイクをしまってからトンボに変身して城に戻る。
トンボだから当然だけど二人(二匹?)とも無言で飛んでいく。城の玄関前に着いたところで少し待機する。
外が暗くなってくると、玄関や窓はほぼ閉めてしまうために人の出入りの時を狙うしかない。あと五分ほどでメイドか執事がゴミ捨ての為に玄関から外に出てくる…はずだ。
そして五分後、出てきたのはなんとラスボスの一人のジニアだった。
「!!」
「!!」
俺達は驚いて声が出なかった。
正確にはトンボだから声が出なかった、か。