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側室に

 翌日俺はリニアから優愛の事で一つ注意を受けた。

 国王の知人と言うだけの居候をいつまでも城に置いておくわけにはいかない。言いにくいことですが、早いうちに優愛をどうするか決めていただきたい。と。

 俺にはよくわからないが優愛の存在は国家機密レベルの事らしい。現れ方といい何から何まで不思議なことだらけなのと、使用人や王族以外の人間を城に住まわせるのは基本的に国律(日本で言う法律)で決まっている。それにミスティリア家の家訓にもそう書いてある。因みに俺は十ある家訓のうち、二つか三つくらいしか覚えてない。

 その日の昼に俺はずっと考えていたことをみんなに言ってみる事にした。現在リニアとお姉さまと優愛以外は集まっている。

「優愛を第三側室に迎えようと思っている」

 全員が口をポカンと開け、ご丁寧にもジニアは注いでいる紅茶をカップから溢れているにも関わらず注ぎ続ける。トーカは食べ物が口の前で止まっていて、シャルルはポロッと食べ物を落とす。

「あれ…? そんなに驚くこと?」

 全員もれなくフリーズ中である。

 次第にみんなのフリーズが解けてきて、動き始める。

 ジニアが紅茶をこぼしたテーブルと床を掃除してから話し出した。

「リファス様には説明してませんでしたが側室に迎えたいと言って、すぐに迎え入れられるものではないんです」

 そのくらいは予想できている。ただ、どのくらい複雑な手順かは予想できてないけど。

「まずは本人とその家族の意思確認が必要です。次に国民の許可投票があります、がこれは相手が盗賊とか犯罪者でない限りほぼ通るので問題ないです。因みに投票期間は一ヶ月です。で、これが承認されたら最後に側室決定の式典をやって正式に側室に迎えられます。これはどの国でも同じです」

 一ヶ月か…思ったより長いな。それに最後の式典が絶対にめんどくさい気がする。

「式典てなにするの?」

「特別なことはしません。ただ国民集めて優愛様がちょっとした挨拶した後に、みんなでお祭り騒ぎするだけです」

 サキナがそう答えてくれたが、シャルルとサキナは経験してるんか。正室の時も同じようにやるらしい。

 この世界では優愛に家族はいない。元の世界に戻って加奈やおばさんに聞くことも出来ないし、本人の意思確認だけだな。


 そういうわけで優愛を呼び出して聞いてみることにした。

「私が側室に…ですか?」

 当然優愛は驚いているようだ。

「どうかな?」

 提案したのが俺だから、当然優愛には側室になってほしい。

「少し考えさせて下さい」

 優愛はそう言って自室にこもってしまった。当然と言えば当然の反応だが、優愛も気持ちの整理が必要なのだろう。


 余談になるが、優愛は俺と二人きりの時は俺の事を『ハル』と呼んでくれるようになった。まだ少し恥ずかしながらだけど、それでも俺はとても嬉しかった。



 ―――と、いった感じで優愛が答えぬまま三日が経過した。

 そろそろ俺も答えを聞きたくて限界だ。勿論この三日の間に優愛と話す機会は何度もあった。でも優愛は自分から言う出すこともせず、そんな優愛をみてまだ考えているんだろうと思っていたら三日も経っていた。

 少し聞きづらいけど、聞いてみる事にしよう。

 俺は優愛の部屋に行き、少し遠慮がちに優愛に聞いてみた。

「あぁ、勿論オーケーですよ」

「えっ!?」

 あっさりとしすぎていて逆に驚いてしまう。

「だから、私側室になります」

 聞き違いではなかった。

 聞けば、ただ報告するのを忘れていただけらしい。勿論初めて言われた時は驚いて考えがまとまらなかったみたいなのだが、すぐに側室になりたいと思ったらしい。

「志木春也様、不束者ですがこれからもよろしくお願いします」

 深く頭を下げて優愛はそう言った。

「こちらこそよろしくお願いします」

 俺も深く頭を下げてそれにこたえる。


 そしてその後二日間の準備期間を経て、一ヶ月の投票期間がスタートした。

 後からジニアに説明されたのだが、投票期間と言っても勿論黙って期間が過ぎるのを待つだけではない。ちゃんと自分の顔を売って、「私はこういう人ですよ」と国民に知ってもらう必要がある。

 そしてアッという間に投票期間の一ヶ月が過ぎた。実際この一ヶ月は自分の仕事と並列して、優愛と一緒に街へ出かけて優愛のアピール活動もしていたのでかなり忙しかった。

 側室にするにあたって、急いで優愛に国籍と仮の家と住所を与えて優愛を一国民として扱えるようにした。

 流石に国籍不明の者を側室にすることは出来ないためである。

 この許可投票は、国民の70%以上が許可すればオーケーである。そして今回は国民の95%が許可してくれた。因みにこの投票権はサニア王国の約三億七千万人の全国民に与えられる。大人子供関係なくだ。


 そして式典は最終日から二週間後に開催される。この二週間の間に優愛はスピーチの内容を考え、正装用の服を作ってもらう。俺達その他の王族は、会場の準備をすることになる。正室や他の側室、国王までが準備に駆り出される理由は、式典の場所が国王の城の敷地内も含むからである。

 式典と言う名目だが、実際はジニアの言った通りにただみんなでお祭り騒ぎをするみたいだ。

 出店(でみせ)なども沢山出る、不定期開催のお祭りの一種らしい。そしてこの日のみは、一般市民が国王の城に入ることが許される。そして城の中では王族専属のシェフの料理を値段は他の出店よりも高いが、それでも格安で王族の高級料理を味わうことが出来る。

 変態の童貞元ニートだけど、毎日高級料理を食べてるんだぜ。羨ましいだろ。

 因みに売上げのほとんどは国政に回される。

 この二週間は本当に猫の手も借りたいくらいに忙しかった。一般市民の出店の申請に許可を出すのも俺の仕事だったし、あげていけばキリがない。


 そして、式典当日―――。

 その日は拡声器や通信機器で国中に優愛のガチガチに緊張したスピーチが響いた。スピーチ会場である城の敷地内に集まってくれた国民たちは、そんな優愛をニコニコと笑顔で眺めていた。

 スピーチを終えた優愛は、俺達と一緒に街へ出かけた。出店に出ている食べ物は普段俺達が食べていないものばかりで、眺めているだけでも充分に楽しめた。勿論しっかりと食べたけども。


 国民たちは皆、俺や優愛に気づくと笑顔で声をかけてくれた。

「お幸せに」とか「おめでとう」とか。文句を言う人間など一人もいなかった。


 そして長いようで短かった一日が過ぎて、俺達はお城へ戻ってきた。もうすでに日が沈んで、月が夜空に輝いている。

 そして現在俺達は、このお城にいる全ての人だけで二次会をやっている。場所は一階の厨房の近くにあるパーティーホールだ。今はコックもメイドも執事も仕事をせずにみんな騒いでいる。因みに現在料理を作ってくれているのは、国内最高級レストランのシェフたちだ。

 みんなお酒を飲んで、いい感じにアルコールがまわっている。そして時計が夜中の十二時を刻んだので、本日の主役である優愛からの挨拶が始まった。

 優愛は舞台の上に立つとお酒の入ったグラスを高く上げて喋り出す。

「みなさん楽しんでますかぁー!?」

「「「イエェ―――イ!!」」」

 優愛も含めて全員既に出来上がっている。今まであまり知らなかったが俺ってお酒強いみたいだ。因みにこの世界のお酒は元の世界のものとほぼ同じだった。

「みんな知ってると思うけどぉー! 私はこの世界初心者でぇす! おまけに記憶喪失!」

 こんなめちゃくちゃになっている優愛を俺は初めて見た。服まではだけていて妙に色っぽい。

「そんな私ですが、これから側室として頑張るので皆さんよろしくお願いします!」

 お酒ってすごいな。どちらかと言うと普段おとなしい方の優愛がこんなにテンションが上がってるなんて。

「それとー! ハル! ちょっと来て!」

 俺は少し驚いたが、言われるままに舞台に上がり優愛の隣に立つ。

「トーカ、サキナ、シャルル! ごめんね!」

 何で謝ってるんだ? と思った瞬間、突然自分の唇がなにかで塞がれた。目の前には目を閉じた優愛の顔があり、そして唇には柔らかい感触。

 ほんの数秒で優愛の顔は離れていったが、俺の頭には優愛の唇の感触がしっかりと刻まれた。

「へへへ、これからよろしくね」

 眩しい程にきれいな優愛の笑顔は、お酒のせいなのか少し赤くなっていた。

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