風邪ひきました
「ふぁっくしょい!!」
風呂から出た後はいつも道理に朝食を食べ、いつも道理に仕事をして時間が過ぎていった。
でも夕方ごろからなんか妙に寒い。メイドに言って毛布も借りたし、結構厚着しているのにどうも寒さが抜けない。
それになんか頭がボーっとして働かなくなってきた。
流石にここまでくれば、俺でも自分の体調が悪いのが分かる。俺はリニアに自分の体調が悪いから少し自室で寝てる、と言ってから自室に戻った。
これは風呂場に裸で挟まってたのがいけなかったな。完全に風邪をひいたみたいだ。でも元はと言えばあそこでお姉さまに「胸触らせて」なんて言ったのが悪かったし、今回は自業自得ってことで納得することにしよう。
それにしても頭も痛いし喉も痛い。しかも体がだるいというおまけ付きだ。
一応リニアがキャメルを呼んで、診てもらう事になっている。流石にこんな状態じゃ仕事も出来ないししたくない。仕方がないから寝てるか。
そう言えばもう俺がこっちの世界に来て三ヶ月が経つな。
殆ど毎日仕事漬けだけど、そんな毎日が楽しいと思ったりしている。何で楽しいんだろうな。
いつも笑って俺の傍にいてくれるトーカやサキナ、シャルル。俺に仕えてくれているメイドらしくないメイド長のリニア。お決まりの変態キャラのジニア。優愛のおかげで俺はこの世界で生きる意味が出来た。
そんなみんながいてくれる生活が楽しくてしょうがないんだ。
なんか、ずっとこの世界で暮らしていきたいなー……。
「あ、起きましたか?」
いつの間にか寝てしまっていたようだ。声がした方に首を向けるとそこにはトーカがいた。
「何か飲みます? 持ってきますよ」
反対側にはサキナとシャルルもいる。
寝たはずなのに体のだるさはとれずに、起き上がるのもめんどくさい。
俺はサキナが持ってきてくれたミネラルウォーターを何とか起き上がってから受け取る。少しづつだけど口に運ぶ。
いつもならここで変態思考が絶対に働くのだが、今はそんな余裕はない。精々女の子が看病してくれてる、ヤッター。ってぐらいかな。普段の俺のからは考えられないテンションの低さ。
何とかミネラルウォーターを飲み終わってすぐにベッドに横になる。
「とりあえず何か用があったらすぐに言ってください。リニアとジニアにはすぐに連絡がつくようにしておきますから」
「あい」
半分くらいは聞いてなかったけど一応返事しとく。とりあえずもう寝たい。働きたくない。トイレ行きたい。
「トイレ」
ボソッと呟いてから立ち上がる。何とかトーカ達に支えられながらトイレに向かう。と言うかこの屋敷トイレまで遠いんだけど。一フロアに二つくらいはトイレ作った方が良かったって絶対。
流石に女の子に自分のトイレを見られるのは恥ずかしいので、外で待っててもらってから用を済ませる。一応小だけのつもりだったんだが、気持ち悪くなって吐いた。
口の中が酸っぱい。口をゆすいで、念入りにゆすいでからトイレから出る。
思った以上に重症なようだ。
その後もトーカ達に支えられて部屋に戻り、ミネラルウォーターを一口だけ口に含む。
「もう少しでキャメルが来るはずですので」
「あい」
さっきから俺の返事の仕方がゾルディック家のお願いかなえてくれる子みたいな返事の仕方になっている気がする。
「来たよ~」
すぐ過ぎない? 五秒くらいできたんだけど。
「とりあえず私こないだ買ったBlu-ray見たいんでちゃっちゃと終わらせて帰りましょう」
なんだこのマイペース野郎。知ってたけど。
キャメルは右手を横になっている俺の上にかざす。すると右手が赤く光って頭からつま先までゆっくりとスライドさせていく。
「Rマイナス型の風邪ですね」
あーるまいなすがたのかぜってなんぞ? 俺にもわかるように説明してくれ。
「吐き気、めまい、喉や頭が痛み、体中がだるいと思います。風邪なんで死ぬことは絶対にないですけど、しばらくは安静にしていてください」
なんか医者っぽい事言ってる。
「薬渡しておきますんでこれ飲んで寝てて下さい」
今何もない空間から白い小さな紙袋が出てきた気がするんだが、もうなにが起きても驚く事はない。三ヶ月もこの世界にいればある程度慣れる。
「間違った、これじゃない」
一瞬袋にドクロマークと『五分』という文字が見えたのは気のせいだろうか。多分五分くらい苦しんで死ぬ毒って意味だろう。
トーカは二度見してたから、多分気づいてたんだろう。
「あぁ、これだ」
今度は袋に大きく『風邪』って書いてある。
「これ飲んでおとなしくしといてください」
「あい」
俺が返事をすると、トーカはその袋を受け取り近くの棚にしまった。
その後キャメルはさっさと帰ってしまった。多分Blu-rayをみるんだろう。さっきそう言っていたし。
「お腹空いてませんか? 何か食べやすいものをつくらせましょう」
トーカがそう言ってくれたが、実際は食欲などない。でも食べなきゃ体力も回復しないし…。そう思いながら寝返りをうつ。
もう一度寝返りをうって仰向けの体制になる。そこでシャルルが濡れタオルを額の上にのせてくれた。ひんやりと気持ちいい。
トーカ達は自分の仕事があるからと言って部屋から出て行った。自室で一人になった俺は眠くなったので目を閉じる。
体調悪くしてる時ってびっくりするくらいよく寝れるよな。そんだけ自分が弱ってるってことだから今はゆっくり休むことが大事。
目が覚めた時は大体二時間程経っていた。外は既に日が沈んでいて、空に浮かんでいるのはきれいな満月だ。
さっきよりはいくらか気分が楽になった気がする。俺はトイレに行くために起き上がって部屋から出た。まだいつものようには歩けないが、壁に手をつきながらゆっくりと歩いていく。
すると少し離れたところではメイドと執事が二人で話していた。自然と会話の内容が耳に入ってくる。
「どうする? 今リファス様は病気で寝込んでおられるぞ」
「とりあえずトーカ様にご報告いたしましょう」
「私は執事長とメイド長に報告してきます」
なんのことだろう? 少し気になったので俺は角を曲がらずに聞き耳を立てる事にする。
するともう一人メイドが焦った様子で走ってきて二人に合流する。
「今トーカ様にご報告してきました。したらこのことは絶対にリファス様には伝えるな、とのことです。あのお方なら自分が病気でも飛び出していくからと言ってました」
「分かった。お前は他のメイドと執事に報告してこい。俺は先に優愛様を探しに行ってくる」
優愛!? どうして優愛の名前がでてくるんだ? 探しにいく? いなくなったのか?
俺は思わず三人に向かって歩きだしていた。
全員が俺に驚きポカンとしてしまっている。
「今の話どういう事だ! 詳しく聞かせろ!」
思わず強い口調になってしまう。頭がガンガンするけど、そんなのは関係ないくらい優愛の事が気になってしまう。