設定盛りすぎだろ・・・・・・
今俺はベッドの上に座りながら、初老の男性がガラガラと転がしてきた黒板らしきものを見ていた。
「記憶がおかしくなってるんでしたらもしかしたら説明していくうちに思い出すのでは?」
と初老の男性が言ったため、授業のような形になっている。
「まずはリファス様のことから説明します」
初老の男性はそう言って何か黒板に書き始めた。
「まずはあなたのお名前ですが―――」
「ミスティリア・アポロン・リファスという名前ですよ、ダーリン」
初老の言葉を遮るようにトーカさんが勢いよく答えた。
…長い。今の俺の名前については長いって感想のみである。
「…リファス様はこの国、サニア王国の国王様ですよ」
…何なのそれ、とゆうかここって日本ですらないのか。町並みなどからなんとなくそんな気はしてたけどやっぱりそうだったか。
「サニア王国はカマラニア大陸一の領土と歴史があり、リファス様は四十五代目国王様です」
もう何が何だか分からない。起きたら国王になってたとか訳が分からない。
でもそんな俺のことはお構いなしに初老の男性―――執事長ジニアとさっき名乗った―――は話を続けた。
俺の為に話してるんだったら俺のこと少しは気にしてほしい。
「リファス様は約三年前にこのカマラニア大陸を救った十人いる大魔導士、十賢大魔道の副リーダーなんですよ」
「は?」
思わず声を上げてしまった。
ちょっと設定盛りすぎだろ……。えぇと…話をまとめると俺の名前は志木春也ではなく、なんとかアポロン・リファスって名前でサニア…だっけ? 王国の国王で三年前に大陸を救った英雄の副リーダーだって!? 訳わかんねぇよ…せめて名前くらいは志木春也で通したいんだが…多分無理な気がする。
「で…あなたには正室が―――」
「それは聞いた」
ジニアさんの言葉を遮るように俺は口を開いた。俺はこの短時間で普通に人と話せるようになった。自分でも驚く速さの成長で少し嬉しかった。世間一般ではショボって笑われるかも知れないけど、個人的には初めてのジムバッジを手にした時のような気分だ。
「一度にいろいろ聞いても分からないでしょうからとりあえずここまでにします」
そう言ってジニアさんは黒板らしきものを持って部屋から出てった。残ったのは俺とトーカさんとサキナさんとシャルルさんだけだった。
すると突然トーカさんは俺がいるにも関わらずきれいなドレスを脱ぎ始めた。
「ななななななに脱いでんしゅか! トーカさん!」
テンパってしまったために噛んでしまった。
「なにって…いつものようにあなたを愛しまくれば思い出すかと思いまして…」
トーカさんは何かおかしいですか? と言った目線でこちらを見つめていらっしゃってる。
「とう―――!」
トーカさんの後ろからサキナさんとシャルルさんの息の合ったチョップがトーカさんの後頭部に当たった。
「いたぁい! 何するの!」
「今はそれは少し自重してください! そうしたいのは貴女だけではないんですから! 今重要なことはリファスに記憶を戻すことでしょう!」
サキナさんがそう突っ込みを入れた。
『そうしたいのは貴女だけではないんですから』。今そう聞こえた気がする。…本当にハーレムじゃないか! でもこの好意は俺ではなくリファスとか言う奴に向けられたものだ。今は何故か俺とリファスは同一人物みたいだが、なんか少し悪いような気がする。
そこで俺はふと気づいた。
これってもしかして昨今のラノベやアニメなんかでよく目にする異世界召喚というやつなのでは? そうだとしても少しおかしい。だとしたら召喚した女の子が、―――個人的にはうさぎ耳の名前に黒とウサギのつく女の子を希望―――が出てきてテンプレの文章で状況の説明をしてくれるはずなんだがな……。
そもそも召喚された目的も不明だ。ジニアさんやトーカさん達の話から死人の中に俺の魂的なものが入ったと考えるのがよさそうだな。少し考えるのも嫌だが、出てきたのが元々の俺の見た目を持った死人だったらトーカさん達は絶対に誰こいつ? ってなるはずだ。だって初対面だし。
大体異世界召喚なんてのは何かに特化した能力がある人間がされるものであって、何の力も持たない引きこもりが召喚される理由が分からない。まぁでもその辺は志木春也としてではなくリファスって奴としてここにいるんだから、多分中身は誰でもよかったんだろうな。
すると寝室のドアがコンコンコンとノックされきれいな透き通った女性の声が聞こえてきた。
「リファス様、トーカ様、サキナ様、シャルル様、お食事の準備が整いました」
「今行くー」
そう返事したのはトーカさんで、俺は手を引っ張られながら歩いて行った。
「おぉ―――………」
トーカさんに手を引かれながら入った部屋の中央に置かれていた長いテーブルの上には、見たことがないがどれも高級でおいしそうと思える数々の料理が並んでいた。
俺は感心しながら、空いていた一番左端のイスに座った。
「リファス様の席はこちらですよ?」
テーブルの近くに立っていたメイドがそう言って、俗にいうお誕生日席に案内された。
「そう言えば記憶がしっかりしてないんでしたね。自己紹介をさせていただきます。私はこの屋敷のメイド長をしておりますリニアと申します、メイド業の他に医者もやっております」
俺の視線に気づいたメイドはそう自己紹介した。リニアと名乗った女性は、黒い髪を腰あたりまでたらし虫をも殺さぬような優しい顔と口調で、右目の目元には小さなほくろがある。そして思わずサイズを聞きたくなってしまうような大きな胸で身長はあまり高くなく、胸以外は標準的な体だと思える。
この屋敷には執事がいて、メイドがいて、とんでもない金持ちなんじゃないか? あ、国王だって言ってたっけ。
一応食事をするにあたって並んでいるすべての料理の名前を聞いたのだが、どれも聞いたことのない長い名前で一つも覚えられなかった。でも料理は食べていてにやけてしまう程どれもおいしかった。
そう言えば……俺って何歳ってことになってるんだろう…。十八なのか?
「すいません、トーカさん」
俺は右斜め前に座っていたトーカさんに声をかけた。
「……そんな敬語なんてやめて下さい。それに、トーカと呼び捨てで呼んで下さい……」
「あぁ…うん」
俺は落ち着いた口調のトーカさん…トーカにそう言われて返事をした。
「で、トーカ。俺って何歳?」
セリフだけ聞けば記憶力がなさすぎると思われるだろう。
トーカはテーブルの端に置いてあったペーパーで口の周りを拭いてから話し初めてくれた。
「リファスは現在二十三歳ですよ」
結構若くて良かった。
「そして私はリファスと同じ二十三歳でサキナが二十四歳、シャルルが二十一歳です」
みんな成人してて、俺の本来の年齢よりもみんな年上なのか。うん、悪くない。
「因みにリニアの年齢はこの屋敷の誰一人知らないのです。本人も教えてくれなくて、不思議ですよね」
そう言って微笑むトーカはとてもきれいだった。
「あとリファスにはラファスという名前のお姉さまがいて年は二十五歳ですよ」
姉とはいい仕事をしたな、異世界よ。俺は天に向かって親指を立てた。
俺には三歳年上の兄と二個下の弟がいただけで、勿論妹や姉には憧れがあった。その憧れが今かなって俺は嬉しくて叫びそうになった。
あ、でもまだ会ったことねーや。個人的には凛とした感じのいかにもお姉さまって感じの人希望。
トーカに聞いた話だと、ラファスは怒ると手が付けられないらしく、五年ほど前に一人でお城を抜け出して他国に行ったときに、その国に住む好青年に迷子の子供と間違われてブチギレてその国をたった一晩で半壊させたらしい。因みに今はその国はうちの国の一部になったとのこと。
………怖い。まず子供に間違われてる時点で俺の望んだ凛としたお姉さまって希望は見事に打ち砕かれた。それに国を一晩で半壊させるとか絶対に怒らせてはいけない相手だと今認識した。恐らくナ◯トで言うサ◯ラか綱◯くらいの怪力でも持ってるんだろう。
食事を終えてから俺は一人にしてもらい、さっきの寝室に戻った。まだここに来て初日だというのに少しこの状況に慣れてきた俺がいる。自分の適応能力の高さに自分でもびっくりだ。
少し慣れたにしても今日は色々ありすぎて疲れた。何とか今日のことを思い出そうとしてみようと思ったけど、だんだんと重くなってくるまぶたに耐えきれずに俺は目を閉じた。