勘違いしないでよねっ!
「カブトく―――ん!! ユスリカちゃ―――ん!!」
もうどのくらい走ったんだろう、どのぐらい叫んだだろう。
でもまだ二人は見つからない。トーカにも探してもらってるけど一向に連絡がない。
完全に俺のミスだ。後で二人にちゃんと謝っておかないと。
人探しの魔法でも使えたらこういう時便利なんだけどな…。
……そうだ! 高いとこに登ればあたりが見渡せるかもしれない! どこか高いところは…大きなビルがあるな、そこの屋上に上ろう。
俺は空中を飛ぶことはできない、でも跳ぶことはできる。
空中歩行の魔法、発動!この魔法を発動すれば脚力も通常の二十~三十倍近くにまで高まる。
「フッ!」
空中を歩き、空中を跳び、地上高くに走っていく。
僅か数分でビルの屋上に到着した。大体地上四百メートルくらいか。
フェンスギリギリに俺は立ち、視力強化と聴力強化の魔法を使う。
視力強化の魔法は最大で約五キロ先の人の顔も見分けることが出来る。聴力強化は七キロ先のコインの落ちる音も聞き分けられる。本来のこの二つの魔法はもっと遠くまで見聞き出来るのだが、俺はまだこの魔法を完全に使いこなせていない。
……街の南西にリニアが一人でいて、その約一キロ程東にサキナとシャルルが二人でいる。それよりもカブト君とユスリカちゃんが見当たらない。どこだ、建物の中だといくら視力を強化しても見えない。音で聞き分けるしかなくなる。
子供の声が多すぎてなかなか聞き分けられない。
(……て…)
今僅かにユスリカちゃんの声が聞こえた気がする! 街の北の方から聞こえた気がするけど、ほんの僅かだったから詳しくは分からない。
(……めろ…)
カブト君の声も聞こえた! 確実に街の北からだ。
街の北の方を集中して見て、聴く。
北の方の詳しい場所まで把握しなければ。あそこは…酒場か? 店名は…『ブラッド・アップル』か。なんて中二臭い名前だ。まぁいい、とりあえずトーカに連絡しとこう。
俺は自分のテレフォンを取り出し、トーカに連絡する。そしてすぐにその酒場に向かってもらうように言った。が、現在トーカは街の南東あたりにいて、北の方にある酒場までは少し時間がかかってしまうらしい。
仕方がないからとりあえず俺一人でそこに向かう事にしよう。あとからトーカが合流するかんじにしよう。
とりあえず急いで向かおう。
「脚力強化&空中歩行」
簡単に言うと空中をかなり早く移動することが出来る。
空中を踏みしめ、全力のダッシュで酒場に向かう。この状態なら十分もかからずに着く。
やっとその酒場の上空に到着した。が、その瞬間に俺はバランスを崩してしまい真っ逆さまに落ちてしまい、酒場の天井に穴を空けてしまった。
「なんだぁ?」
軍人のような体格をした男たちが何が落ちてきたのかと近寄ってくる。俺はまだ砂埃が晴れないうちに立ち上がって、急いで壁際に移動する。
「おま…お前ら…ハァ、ハァ…二人を…ゲホッ……」
くそ、決め台詞を言いたいのに呼吸が整ってなくてセリフが言えない。当然のように男達はポカーンとしている。
そんなこんなしているうちに砂埃は晴れて、男たちの姿がはっきり見えてくる。男の数は五人で全員が軍人顔負けのガタイの良さだ。目元に大きな傷があったり、サングラスをしていたりとさまざまな風貌だが、みんな強そうで怖い。子供のような表現だが、これしか感想が出てこない。
俺は大きく深呼吸をして呼吸を整える。
「いいですか?」
「ど、どうぞ」
「お前達! 二人をどこにやった!?」
あかん、めっちゃ声が震えてる。
というか「いいですか?」って聞いて「どうぞ」って言ってくれるとかいい人なのか?
「腰がひけてるやないかい!」
誰だ! 今ナイスなツッコミをいれてくれたのは。ありがとうございます。
「二人ってのは王族の二人の子どもかい?」
「そ、そうだ…! どこにいる!」
俺はいつまで声が震えているんだろうか。
「今二人は奥の部屋でおねんねしてるぜ」
男達はへへへと笑って冗談ぽく言った。
「二人に何をした! おみゃ…お前達の目的はなんだ!」
噛んだ。自分がここまで臆病だとは思わなかった。ある程度はチキンだとは思ってたけど。
「何もしてないぜ、迷子になってたから保護してあげたんだ」
笑いながらいっているせいか、とても信じられない。
「魔法庫の二つ名の意味を教えてやるぜ!」
俺はそう言って構えをとる。
……決まった。
「水魔法」
俺は右手から水を出してそれを剣のような形に生成する。この水は超高速で小刻みに振動している為金剛石をも切断することができる。(以前城の訓練所にて試してみたことがある。)
男達のリーダー格のような男が一歩前に出る。男は自分の左手首あたりを掴むと、丁度そのあたりがカパっと外れた。
これはもしかして左腕にサイコガンでもしこんでるのか? 敵だけど少し興味がある。
「へへへ、ロケットランチャーだ」
なん…だと!? パワーアップしてるだと?
「お前らが使う魔法よりも俺の使う科学の方が強いって証明してやんよ」
ロケットランチャーとか洒落になってないからやめて下さいよ。
すると部下らしき男が一人リーダーの男にこそこそと耳打ちし始めた。
「え!? まじ?」
「まじです?」
「いやでもこの状況後にひけないでしょ? それにあちらさんはもうやる気だよ、どーすんの?」
ひそひそ話をしているつもりなのだろうか、丸聞こえである。
多分俺が十賢大魔道の一人だ、とか話してるんだろうな。
「あの~すいません」
リーダーらしき男がすごい低姿勢で話しかけてきた。しかも若干顔が引きつっている。両手を揉み合わせてまるで商売人のようだ。
「どうしても闘らなきゃダメですか?」
今の一言でなんとなくこの男達の考えが分かった。多分俺が十賢大魔道の一人で『魔法庫』の二つ名を持ってるとリファスだと分かってしまい、やりあっても勝てないと思ったのだろう。それでどうにかして戦いを避けようと思ってこう言ったのだろう。
勿論俺も実際は怖いので、子供たちを返してくれるのであれば戦う必要などない。というか戦いたくない。なので俺の答えは勿論「ノー」だ。
その答えを聞いた男達は一気に肩の力が抜けたのか、全員が安堵の表情をして大きく息を吐いた。すると一人の男が前に出てきて奥の部屋に案内してくれた。物凄い低姿勢である。名前が通っているとこういう時は便利だな。
男が案内してくれた部屋は四畳半ほどの狭い部屋で、その中央で二人はぐっすりと眠っていた。丁寧に二人分の敷布団と掛布団も用意されていて、でもそこは子供らしく布団を蹴とばして眠っているが。
「…え? マジでおねんねしてるの?」
思わずそう言ってしまった。だって男達の見た目はゴリゴリのギャングみたいだし、俺みたいなチキンに本当の事を言ってくれるなんて思ってなかったし。
「…奥の部屋でおねんねしてるって言ったじゃないですか」
確かに言ってた。
「え、じゃあ迷子になってたから保護してあげたってのも…」
「本当ですよ」
聞けばここは酒場ではなく保育所なのだとか。今日はたまたま遠足でみんな街はずれにある山でピクニックに行ってるらしい。
因みにこの世界の保育所は年齢ごとにクラス分けされていない。一歳~六歳までの子供を同じ部屋で預かり、面倒をみる。理由は忘れた。
ここにいる男達は残って事務仕事を片付けている途中だった。思いっきり体育会系の見た目だが、戦闘は得意ではなく使える魔法も逃げたり隠れたりするためのものらしい。左腕がロケットランチャーの男はドラゴンとの戦争の時に左腕を無くしてしまい、義手をつけている。が、実際にロケットランチャーなどはついてなく幻覚魔法でそう見せただけである。戦いを嫌う平和主義のゴリゴリの体育会系の保育士なのだ。
「えーと、じゃあとりあえず二人が起きるまで待ってていい?」
「いいですけど、もうそろそろみんな帰ってきますよ。あと天井直して下さい」
まぁ当然ですよね。でも修理の魔法なんて使えたっけなぁ……。
するとダッダッダと誰かが走る音が聞こえて数秒後にトーカが焦った顔をして現れた。
「ふだりはどこ……だっ!!」
大分急いできたのだろう、かなり呼吸が荒い。それに汗も滝のように流している。
俺は説明をするためにトーカに歩み寄るが、トーカは男の一人に向かって殴りかかった。頭に血が上ってしまって周りが見えてない。幸いにも腕力強化の魔法を使ってなかったために男にけがはなかったが数メートル吹っ飛んでしまった。トーカはいまだに冷静になれずにまた別の男に向かって拳を振り上げた。
流石に次は止めなければ、と俺は思いトーカの降りあがった右腕を後ろから思いっきり掴み、そのまま後ろに倒した。勿論腕力強化を使ったからこんなことが出来たのだ。
「何をするんですか!」
起き上がってギンッと思いっきりこっちを睨むトーカに少し怯んでしまいそうになるがここで引かない。
「とりあえず話を聞け!」
俺はトーカの両肩を強くつかんで今までの事を全部説明する。
「……なるほど、そうですか。大変申し訳ありませんでした」
頭に上った血が抜けて、今の説明を聞いて納得したのか男達に謝った。
でも男達は紳士な対応で許してくれた。
とりあえずはトーカも落ち着いたので二人の目が覚めるまで待たせてもらうことにした。