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街にて

 一方その頃、サニア王国のお城では―――。


「メイドさん、メイドさん」

「何でしょうか優愛様」

 優愛が一人で暇していた。

 現在彼女は仕事をするためにお城にいるのではなく、簡単に言うと国王に保護されている為にお城にいる。でもその国王たちはみんなで隣の国に出張に行ってしまっている為、お城にはメイドや執事などの使用人以外は優愛しかいないのだ。ラファスは別の仕事で町に出ている。

「その様って言うのはやめて下さい。私は保護を受けている身なので呼び捨てにしてください」

「すいません、優愛。で、ご用件は?」

「お洋服を買いに行きたいんですけどいいお店はありますか?」

 現在お城にある優愛の私物はほとんどがメイドやトーカ達が揃えたもので、優愛はまだ一歩もお城の敷地外に出たことはない。

「申し訳ありません、外出の際はリファス様から許可を取らなければいけないことになっています。一応連絡を取る事も可能ですが、どうします?」

「いえ、大丈夫です」

 優愛は少し残念そうにそう言った。

 彼女には記憶がない。自分がどこの誰か、というのも知らない。ただリファスと言う人が「貴女の名前は夏海優愛で私の知り合いでした」と言うから、何もすがるものがない彼女はそれを鵜呑みにするしかなかった。例えリファスという者の言葉がウソだとしても、右も左も分からない彼女にはそれが嬉しかった。それに彼と一緒にいると何かとても心が落ち着くような感じがするのだ。

「何か御用がありましたら、またお呼びください」

 メイドはそう言ってどこかに歩いて行った。


「暇ね……」


 とにかく彼女は自分が何者か分からない中、暇してた。




 出張とは名ばかりで、現在隣国の街を観光しようとしてるのがサニア王国の国王のリオックだ。

「あ…」

「どうしましたか?」

「レオを連れてこようと思ったのに忘れてた…」

 さっき思った事なのにすぐに忘れてしまった。

 因みに皆さん忘れてると思うので説明するが、レオとはこっちの国に来る途中にトーカが虐めた、じゃなくててなずけたライオネルという種類のモンスターだ。

 まぁ、あいつにはお土産を買えばいいでしょ。

「そう言えば私達も街に行くのは久しぶりですね」

「そうですね」

 リオックさんと夫人がそう言った。国王ともなると仕事が忙しくて街に行く暇などない。俺も今まで1、2回くらいしか自分の国の街に行ったことがない。

「そうだ、リオックさん、ナナフシさん。折角ですので二人でデートでもしてきてはどうです? 子供たちは私たちが預かりますよ」

 トーカがそう提案した。なぜそんなことを言ったのか分からないが。

「いえいえ、大丈夫ですよ」

 夫人は少し驚いたような顔をしてから遠慮するようなしぐさをする。

 サキナもシャルルも「たまには夫婦水入らずで楽しんできてくださいよ」と言ってノリノリだ。

 夫人も勢いに押されて「じゃあお願いします」と遠慮がちにそう言った。リオックさんもよろしく、と頭を下げた。

「はーいじゃあカブト君、ユスリカちゃん、今日はおねえさん達と一緒に街にいこうねー」

 おっと危ない。思わず俺がよろしくお願いしますおねえさん、って言いそうになった。

 因みにこのセリフを言ったのはトーカだ。普段より若干声が高い。

「ぱぱとままは?」

「今日は二人でお出かけだって」

 カブト君の質問にはサキナが答える。

「じゃあ今日はおばさん達とおでかけ?」

 無邪気な笑顔で何を言ってるんだユスリカちゃん。

 皆さん相手は子供だから許してあげて。少し口元がひくついてるけど、流石皆さん大人です。何事もないように話を続けている。


 街の入口に到着したところでアブさんは車を止める。

「じゃあ二人をお願いします」

 二人は浅く頭を下げるとゆっくりと歩いて行った。


「リニアもサキナもシャルルもゆっくり観光してきていいよ」

「そうですね、こんなにいても暇でしょうし。私とリファスで二人の面倒を見てるから遊んできて」

 三人は「じゃあお言葉に甘えて…」と歩いて行った。二人はともかくリニアはメイドなんだから私が面倒みますよー、とかないの? まぁ自分で言ったからいいんだけどね。

「ねえねえ」

 カブト君がスーツのすそをくいくいと引っ張ってくる。

「ん? なあに?」

 俺はしゃがんで返事をする。というか自分がこんなにも子供が好きだったとは自分でも意外だ。

「これからおにいさんとおばさんとお出かけするの?」

 チラッとトーカの方を見たけど口元が少しひくついている。トーカがキレる前に何とかしとかないと。

「そうだよー。あとこの人はおばさんじゃなくてお姉さんね」

 カブト君は素直にうん、と返事をしてにっこりと笑う。

 俺は立ち上がってからカブト君と手をつないで歩き始める。トーカはユスリカちゃんと手をつないだ。

「さて、どこ行く?」

「とりあえず歩いてみましょう」

 トーカの提案道理にとりあえず街の中を歩く事にした。

 十分程歩いただけでも、街にはレストランやファッションショップ、コンビニらしきものからなんだかよく分からない怪しい店もある。

「ねぇねぇ、あれほしい」

 ユスリカちゃんがそう言って指さしたのは大きなクマらしきもののぬいぐるみだ。でも目が逝ってしまっている。

 子供は素直で可愛いなぁ。そんな純粋な笑顔で言われたらおじさん買ってあげたくなっちゃうよ。今度一緒にプ○キュア見ようねー。

 ちょっと待っててね、財布持ってるのはトーカなんだ。

 というわけで俺はトーカさんに低姿勢で話しかける。

「あの~トーカさん」

「ダメ」

 即答である。

「話は全部聞こえてたけどダメ」

「なんで?」

「財布持ってるのリニアだから」

 持ってないんかい! 俺はずっとトーカが持ってるものだと思ってたよ。

 じゃあとりあえずリニアを呼ぼうか。トーカはテレフォンを出してリニアと話し出す。

 五分程話してからすぐに戻ってくると俺達に伝えた。

 というか財布持ってきてっていうだけでなんで五分も話す必要があるのかね?  俺は女子の長電話は理解できない。元々自分が電話、というか話すこと自体得意ではないため電話の時なんかは要件のみを言う事が多い。というか男子なんてみんなこんな感じだと思う。


「ごめ~ん、待った?」

「ううん、今来たとこ」

 カップルか。お前達そんなノリどこで覚えた。

 リニアは赤色の財布をポケットから出し、トーカに渡す。因みにトーカは買い物に出かけると衝動買いをしてしまう事が多い為に普段はリニアに財布を預けていて、必要な分だけ借りるようにしているらしい。この世界にクレジットカードなどのカードの類はない。王族でも普通に現金で買い物をする。

 リニアは軽く会釈をした後、来た方向に戻って行った。

 トーカが「じゃあ行こうか」と言ったけど二人の子供たちの返事がない。あれ、おかしいな…。

 辺りを見回しても二人の姿はない。少し焦りながらも二人の名前を呼んでみる。それでも二人は返事をしない。


 これはけっこうやばいんじゃないの? 安心して楽しんできてって両親に言ってすぐに二人を見失ってしまった。

 忘れてたけど二人の子供は王族なんだ。二人でいたらお金目当てで誘拐されたとしても不思議はない。

 急いで探しに行かないと。俺はそう思って全力で走り出した。

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